電気自動車のカギ握る「リチウムイオン電池」、急成長するバッテリースタートアップたち

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Image Credit:Sila Nanotechnologies HP

ピックアップ:Daimler-Backed Battery Startup Raises Funds, Hires Tesla Veteran

ニュースサマリ:次世代リチウムイオン電池の開発を行う「Sila Nanotechnologies」は11月4日、カナダ年金制度投資委員会から4,500万ドルの資金調達を発表した。同社は今年4月にDaimler AGがリードして1億7,000万ドルを資金調達したばかり。総資金調達額は3億4,000万ドルとなった。

2011年、Sila Nanotechnologiesはテスラ7番目の社員であったGene Berdichevsky氏とジョージア工科大学教授のGleb Yushin氏によって設立された。

資金調達に合わせて2人の幹部の参画を発表。副社長にパナソニックとテスラの元幹部Bill Mulligan氏、COOにソーラーパネルメーカーSunPower元副社長のKurt Kelty氏が加わる。今回の投資と幹部確保によって、バッテリー製品の市場投入を目指す。

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Image Credit:Sila Nanotechnologies HP

話題のポイント:自動車業界の成長と共に、電気自動車の基幹部品となる次世代リチウムイオン電池の開発投資額が増え続けています。

Mercom Capital Groupのレポートによると、バッテリースタートアップの資金調達額は2018年9月時点で7億8,300万ドルだったのに対し、2019年9月時点で16億ドルと倍増しており、その多くの会社がリチウムイオンベースの企業でした。全てにソフトバンクが関わったのではないかと疑いたくなる金額です。

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Image Credit:Battery Storage, Smart Grid, and Efficiency Companies Raise Over $2 Billion in VC Funding in 9M 2019

実際に製品を市場投入している企業が少ない中、調達額が1億ドルを超える企業が増えている理由は電気自動車の拡大と汎用性だと考えられます。

大和証券によると、2038年までに世界の新車販売台数の50%超が電気自動車に置き換わるそうです。それに伴う市場規模は9,185億ドルになる見通しです。

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Image Credit:大和証券 HP

成長曲線の実現性の鍵を握っているのが、電気自動車の部品で最も価格が高いバッテリーといえるでしょう。というのも、未だ内燃機関を上回るコストパフォーマンスを性能面で実現できていないためです。十分な性能のバッテリーをどの会社が最初に手に入れるのか、各自動車メーカーが張っている状態なのです。

数例紹介すると、今回取り上げている「Sila Nanotechnologies」はメルセデス・ベンツで有名なDaimler AGとBMWから投資を受けています。加えて、スウェーデンのスタートアップ「Northvolt」はフォルクスワーゲンとBMWから10億ドル、固体リチウムイオン電池の実用化を目指す「QuantumScape」はファルクスワーゲンから1億ドルの出資を受けて実用化を急いでいます。

日本では2020年に電気自動車向け電池で売上高8,000億円を目指すパナソニックが、本格的に電気自動車の販売へ踏み切るトヨタと合併会社を作って開発を進める意向を発表。世界に遅れを取らない姿勢を示しています。

もちろん、リチウムイオン電池の性能向上がもたらす恩恵は自動車業界に留まりません。電池の持続時間が購入理由になるデバイスは多岐に渡ります。たとえばIoT化でより知能的に振る舞うためには電池の発展が不可欠でしょう。そのためメーカーは低消費電力化に尽力しています。

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Image Credit:Sila Nanotechnologies HP

こうした市場状況下で2018年7,000万ドル、2019年2億1,500万ドルと大型調達しているのがSila Nanotechnologiesなのです。同社はリチウムイオン電池のアノード材料に既存のグラファイトではなく、シリコンベースの材料を採用する技術を持ちます。これにより高サイクル寿命、超低膨張、高エネルギー密度、低コストが実現できると述べます。

Sila Nanotechnologiesの特筆すべき特徴は、「市場ポジション」と「ドロップイン製造プロセス」の2点です。Sila Nanotechnologiesはバッテリーの材料を製造する会社であり、バッテリーを作る会社ではないことを明確にしています。また、既存製造プロセスを変えることなく材料の導入ができる仕様にしているためスイッチコストを最小限に抑えています。市場概念のディスラプト(破壊)を望むVCが大きく興味をそそられる理由ががここにあります。

事実、BMWとAppleとSamsungのバッテリーを作る「Amperex Technology」がクライアントになることがわかっています。バッテリーを作らないことが急速な事業拡大の最大の理由となりそうです。

今年、リチウムイオン電池を実用化した旭化成の吉野彰氏がノーベル化学賞を受賞しました。しかし25年以上経過してなおリチウムイオン電池は膨張や爆発など不完全な面が残っています。

将来のインフラと言っても過言ではないリチウムイオン電池。利用リスク課題を解消し、私たちのニーズを満たす技術を生み出すのはどの企業になるのか、これから5年程度で大きな動きを見せそうなバッテリー領域から目が離せません。

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