自動運転時代、クルマのオーディオ設計はどう変わる

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<ピックアップ> DSP Concepts raises $14.5M for its Audio Weaver platform

ニュースサマリ:オーディオ設計ツールを開発する DSP Concepts は2月21日、シリーズBで1,450万米ドルの資金調達を発表。Taiwania Capitalがリードを務め、 BMW iベンチャーズ、Sony Innovation Growth Fund、MediaTek Ventures、Porsche Ventures、ARM IoT Fundが参加した。

DSP Conceptsはコーディングによる設計作業の簡素化を目的に、GUIのオーディオ処理ソフトウェア「Audio Weaver」、ノイズ除去のオーディオフロントエンド「TalkTo」、2つのサービスを展開している。

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Image Credit: DSP Concepts

話題のポイント:DSPが開発する機能は「ある処理を行えるモジュールが沢山用意されていて、GUIでそれらを繋げるだけでインタラクティブにオーディオ信号処理できる」というものです。

コーディングコストを抑えて設計作業を簡素化するという発想は、決して真新しいものではありません。実際アプリケーション開発では、商業用でも容易で高速にできるアプリケーションフレームワークの「Qt」が用いられています。

では、今までなぜオーディオ設計で登場していなかったのか。それはひとえに必要性が高くなかったからと言えます。

オーディオ設計は年々複雑性を増しています。Bluetooth、USB、有線などのオーディオ入力が増えています。一方、車内では音声操作のためにノイズから声を聞き取る機能の追加、快適性を維持するためのエンジン音の作製など、車種に合わせて音声機能を設計するのは容易ではありません。

とはいえ、matlabでゼロから処理を設計して、C言語で書き換え、使用される集積回路に最適に組み込むプロセスは大きく変化していないため、労働集権的に対応できていました。

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Porsche 911 (992)–HOW IT’S DESIGNED – German Car Factory
Image Credit:YouCar

しかし、これから労働集権では費用対効果が悪くなることが予想される環境変化が起こります。それが「自動運転車」の普及です。

オーディオ設計は乗員すべての人が快適に過ごせるようにスピーカー音だけでなく、シートを引く音、窓を開ける音、乗車時の会話の聞こえ方等、考慮すべき項目が多く存在します。これらが車種が変わっても同様のプロセスで対応できていたのは、乗員の位置と向きが固定されていたからです。

車内での過ごし方が劇的に変わる自動運転車において、位置と向きは車種固有のパラメータとなります。これまでのオーディオ設計の前提は通用しません。

さらに、自動運転車内の自由空間では、それぞれの行動にも変化があります。ある人はNetflixをスクリーンに投影して楽しみ、その傍らで会話を楽しむ人もいるでしょう。それほど運転という集中力が必要な行為から解放されると暇なわけです。

自動運転者が普及した未来でオーディオ設計に求められるのは、車内のどこにどんな態勢でいるかわからない人に、会話とエンターテイメントが互いに干渉しない環境を作ることになります。現状の設計環境には複雑すぎる要件と言えるでしょう。

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Image Credit:DSP Concepts

新しい需要に対応するためのツールとして価値を発揮するのがAudio Weaverです。オーディオエンジニアはタスクが大幅に簡素化されます。人数と予算を割り当てなくても要件を満たすことができます。

Audio Weaverのモジュール式のGUIオーディオ処理環境によりコーディングは不要で、複雑な処理チェーンを簡単に組み立てて実験が可能です。すでに400を超えるモジュールが用意されていますが、オーディオおよび通信のあらゆるニーズに対応してカスタムモジュールも作製できます。さらにアルゴリズムが主要プロセッサ向けに向けに最適化されているため、デバッグを行う必要はありません。 

また、音声入力アルゴリズムも組み込まれているため、マイクアレイとスピーカープラットフォームおよびリファレンスデザインでの広範な設計に対応します。つまり入力と出力のどちらにも強みがあり、一貫して設計環境が構築できる点が強みということです。

現在、日産、ポルシェ、テスラ、フォルクスワーゲン、フォードと大手が導入企業として名を連ね、今年発売予定のポルシェ911タイプ992ではAudio Weaverでオーディオ設計が行われています。

現状はまだ小さな課題ではあるものの、自動運転の登場で変わる車内環境に適用する戦略を取るDSP Concepts。選ばれる理由も、大きな流れを待つための準備も十分な同社は今後ますます注目すべきスタートアップとなるでしょう。

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