
中央左が人々の台湾現法である邦徳電子商務の総経理 Yachunn Tseng(曽雅淳)氏
Image credit: Hitobito
台湾やタイ向けに日系通販企業の SNS チャットコマース支援を提供する人々は20日、シードラウンドで1億円を調達したことを明らかにした。このラウンドは MTG Ventures がリードし、EC サイト構築の w2 ソリューション、業務請負や受託業務を紹介する IT プロパートナーズ、web マーケティング支援のネットフロンティアが参加した。同社では調達した資金を使って、SNS チャットコマースの AI(チャットボット)運用強化、WeChat(微信)対応による中国本土展開に注力するとしている。
MTG Ventures の親会社である MTG はビューティーテックやヘルステック領域の商品を開発、事業者への出資を活発化させており、販路開拓の過程で人々とのシナジーが期待できる。w2 ソリューション、ネットフロンティアについても、人々と隣接する領域で事業展開する企業であるため、それぞれのサービスの拡販や協業でシナジーを期待しているとみられる。 IT プロパートナーズの関与については、この後公開する別記事を参照してほしい。
人々は2015年、ソフトバンクモバイルでデジタルマーケティング事業立ち上げに携わり、流通最大手向けのデジタルマーケティングのプロジェクトマネジメントに従事した経験のある石川真也氏により設立。人々では2017年から、日本の通販企業向けに海外での広告運用・マーケティング・カスタマーサポート・マーケティング・フルフィルメントなど EC に関連する周辺業務の代行サービスを提供。そんなマーケティング施策の一環から LINE 向けのチャットボットが生まれた。
チャットコマースへの経営資源集中

Winniechan は、台湾現法の総経理 Yachunn Tseng(曽雅淳)氏のイメージを模したものらしい。Image credit: Hitobito
人々ではこれまで、LINE のユーザが多い台湾やタイの F1 層を中心に、日本の通販企業数十社のマーケティングをチャットボットを使って代行してきた。クライアント企業には、カラーコンタクトレンズ販売の「MORECONTACT」、プラセンタやコラーゲン配合の健康食品・化粧品通販「fracora」などがいる。いずれも日本製品が得意とし、アジアにおいて根強いファン層がいる領域だ。
EC 周辺業務の需要は増すばかりだが労働集約型のビジネスが中心になってしまう。スタートアップ的な成長を目指したかった石川氏は、かくして今年4月、経営資源をチャットボットを中心としたチャットコマース支援に注力を決めた。従来からの EC 周辺業務については新規の顧客は開拓せず、既存顧客の業務はアウトソースするなどして継続している。
人々が提供するチャットボットは、潜在顧客となり得るユーザからの問い合わせに応じて、適切なコンテンツを提示し商品購入へと誘導する。収益の多くは、購買がコンバージョンした際の手数料だ。日本では、通販型の化粧品や健康食品と言えば、初期導入を無料か低価格で誘客し定期購入へと誘導するのが一般的だが、これとは対照的に定期購入が浸透していないアジアでは、ユーザへのリテンションが通販企業にとってはボトルネックとなる。人々ではこの点に着目し、ユーザ毎に購入した商品が無くなりそうなタイミングを見計って、チャットボットがユーザに追加購入のリマインドを送る。擬似的な定期購入の状態を作り出すわけだ。
中国への進出

Image credit: Tmall Global
LINE を通じたチャットコマースで、タイや台湾に一定の足跡を遺した人々は今後、月間アクティブユーザ数10億人を超えた WeChat(微信)に対応させることで中国進出を図る。人々の顧客である日系通販企業の中には、既に Tmall(天猫)に出店済のところもいくつか存在するが、開設した店舗にユーザや潜在顧客をどうやって呼び込むかが課題となっている。人々はタイや台湾で成功させたモデルを参考に半年ほどかけて中国向けのサービスを準備し、2020年夏くらいに開始したい考えだ。
WeChat を使ったサービス開発にあたっては、WeChat を運営する Tencent(騰訊)系の企業と提携し、コンテンツや運用は人々の台湾にいるチームを中心に実施される見通し。ただ、繁体字を使う台湾と簡体字を使う中国本土では文字が違うほか、好まれる表現やコンテンツの形態も異なることから、ローカリゼーションに細心の注意を払って臨むとしている。
中国でのソーシャルコマースと言えば、KOL(Key Opinion Leader=網紅)を起用したライブコマースが人気であることを思い浮かべるが、石川氏はライブコマースには今のところ懐疑的だ。KOL の人気やキャラクタへの依存度が高く、データを使った分析やその結果に基づく改善、再現性を作り出すことが難しいから、というのがその理由。あくまでクリエイティブやタイミングでユーザを魅了し、データマーケティングをコアコンピタンスに事業を成長させていきたい、と今後の抱負を語った。
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