東急がCVCを開始、初案件で「FUNDINNO」運営に出資——投資型クラファンとの連携で、協調投資・相互送客も視野に

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東急(東証:9005)は25日、スタートアップへの出資を行う CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)事業を開始することを明らかにした。特別目的会社やファンドなどのビークルを設立はせず、東急本体の事業会計から出資を行う。投資判断は東急の経営陣が参加する委員会で実施されるとみられるが、全体予算規模や投資先一社あたりの出資額(チケットサイズ)などは現時点で設定していない模様。

なお、同社は CVC の第1号案件として投資型クラウドファンディング「FUNDINNO(ファンディーノ)」を運営する日本クラウドキャピタルに出資し業務提携したことも明らかにした。出資金額や持分は明らかにされていない。東急と日本クラウドキャピタルは業務提携を通じて、投資案件への協調投資と相互送客を行うとしている。

東急は以前から、グループ各社や各部門とスタートアップの協業を促すオープンイノベーションプログラム「東急アクセラレートプログラム(TAP)」を運営している。TAP では、グループ各社や各部門が持つ「既存の事業」の DX を主眼に置いているため、東急とって「未来の事業(東急の資産を活用しながらも、例えば、鉄道や不動産などに直接関係しない事業)」の創出には限界があった。

こうしたことから、東急では未来事業を創出する社内組織としてフューチャー・デザイン・ラボを開設、TOKYU2050VISION「東急ならではの社会価値提供による世界が憧れる街づくり」を発表していた。今回の CVC 事業開始は、この TOKYU2050VISION の実現、つまり未来事業の創出に特化したものとなるため、既存の TAP とは投資対象となるスタートアップやスコープも異なるものとなる。

福井崇博氏

これまでオープンイノベーションをやってきたので、スタートアップ界隈でも東急の名前を知ってもらえている。ただ、将来に対する投資、長期的な連携強化に向けた手段として、CVC の活動が必要なのではないかと1年ほど前から準備に着手していた。

TAP の活動はグループの各社や各部門が対応するため、オープンイノベーションの案件ごとに主体が異なる。既存事業の改善や周辺事業が中心となっていた活動から、東急グループが組織として出資ノウハウを貯めるための活動も必要なのでは、ということになった。

TAP に採択されたスタートアップが CVC の投資対象になるとは限らないし、CVC から出資したスタートアップが TAP に採択されるとも限らない。(東急 フューチャー・デザイン・ラボ イノベーション推進担当 課長補佐 福井崇博氏)

<参考文献>

東急 CVC と日本クラウドキャピタルとの協業イメージ
Image credit: Tokyu / JCC

一方、日本クラウドキャピタルは FUNDINNO に参加する投資家の裾野の拡大や、投資型クラウドファンディングで資金を得たスタートアップのその後の事業展開支援の一環として、以前から東急と協業の可能性を模索していたという。

柴原祐喜氏

東急沿線の特色を生かしたクラウドファンディングの実施や、東急沿線地域の方々から投資家を集めるということも可能だろう。

また、FUNDINNO で調達を終えたスタートアップの中から、東急グループ各社の事業と連携したい、というところもあるはず。投資型クラウドファンディング → CVC 調達という「協調投資」のケースも生まれてくるだろう。

こういった協調投資が実現できれば、対象社はファンを取り込んだ上で、東急グループの事業会社のアセットを使って実証実験できるので、プロジェクトの成功確度もより高まる。(日本クラウドキャピタル 代表取締役 CEO 柴原祐喜氏)

前出した東急の CVC 活動では、TOKYU2050VISION における「City as a Service(CaaS)」構想に基づいて、出資検討対象となるテーマがヘルスケア、住む・働く・移動、ソーシャルファイナンス(金銭的リターンだけではなく社会的リターンも追求する金融)の3つに設定されている。日本クラウドキャピタルは、ソーシャルファイナンスの文脈から出資を受けることが決まったそうだ。


CVC 活動とは別に、東急はこれまでに TAP の枠組みでスタートアップとの事業提携や資本提携を6社と結んでおり、東急グループからスタートアップへの出資総額は10数億円に上っていることを明らかにしている(今年3月現在)。

一方、2017年4月に FUNDINNO をローンチした日本クラウドキャピタルは、サービス開始後3年目を迎えた今年4月、投資型クラウドファンディングへの参加者登録が2.7万人を超えたことを明らかにしている。今年9月には約8.5億円を調達し、累計調達額が約14億円、株主数が83(機関投資家、個人投資家を含む)となったことを発表していた

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