オリエンタルランド・イノベーションズが目指す事業共創のカタチ

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

企業の共創活動をリレー的に繋ぐコーナー、前回お届けしたテレビ東京コミュニケーションズのスタートアップ投資に続いてお届けするのはオリエンタルランドのスタートアップ投資活動です。

オリエンタルランドは、東京ディズニーランドや東京ディズニーシーなどの運営で知られます。1960年、三井不動産と京成電鉄等が出資して設立された同社は、米ウォルト・ディズニー社との誘致交渉が実を結び、会社設立から23年たった1983年にアメリカ国外で初のディズニーテーマパーク「東京ディズニーランド」を開園しました。開園に至るまでの創業メンバーの苦労は、日々新しい事業やサービスの生み出しに奔走する起業家のスピリットにも相通ずるものがあるのではないでしょうか。

1996年に東証一部に上場、そして今では主な連結子会社13社などを擁するまでに成長し、会社設立60周年となる昨年、CVC としてオリエンタルランド・イノベーションズを設立しました。同社からはこれまでに、ホテル兼住宅の企画・販売・運営の NOT A HOTEL、リテールテックのアドインテ、デジタル学習塾のコノセル、HRテックのリフカムといった、オリエンタルランドの本業とは、一見シナジーを読み解けない分野のスタートアップに出資しています。

オリエンタルランドが CVC を作った理由は何か? また、投資先の一つである NOT A HOTEL に出資したのはなぜか? オリエンタルランド・イノベーションズ代表取締役社長の豊福力也さんにお話を伺いました。

千葉・舞浜の一極集中からの脱却

オリエンタルランドグループの事業内容

オリエンタルランドが、スタートアップへの出資および支援活動、新規事業創出や同社グループとの協業促進を目的として設立したのがオリエンタルランド・イノベーションズです。100%オリエンタルランドから出資された CVC で、バランスシートからの出資枠として30億円が確保されています。テーマパークの運営のみならず、ホテル運営、不動産管理など、幅広い年齢層の顧客との関係性や事業を通じた知見の蓄積は多岐にわたります。

「オリエンタルランドのCVC」と聞くと、テーマパーク周辺や関連事業とのシナジーに重点を置いたスタートアップとの協業を念頭に置いているのかと思いきや、オリエンタルランド・イノベーションズは敢えて、オリエンタルランドとの既存事業とは直接リンクしない新規事業を創出することに重きを置いているようです。同社のアセットの多くは、主軸事業の拠点がある千葉県舞浜市に集中していますが、仮にそれだけを前提とした共創では、ビジネスの広がりに限界が生じてしまいます。

豊福:オリエンタルランドグループのビジョンである「夢・感動・喜び・やすらぎ」の提供に資する新規事業領域であれば、当社から投資するスタートアップのテーマは問いません。テーマ例としては「人事領域」「子ども領域」「スマートシティ」「社会的課題の解決」の4つを掲げています。

舞浜周辺にはグループ全体で3万人の従業員がいるので、従業員に対してサービスのポップアップをすることもできるかもしれませんし、例えば、お子さま向けのサービスを展開されるスタートアップから、我々が株主に入ることでポジティブなイメージを出せるという声もいただいており、そういう意図で活用いただくこともできるかもしれません。

これまでに投資した NOT A HOTEL 様、アドインテ様、コノセル様の3社は OMO(Online merges Offline)に関わる会社で、当社との共創で目指す一つの可能性としては、デジタル起点でリアルの場を持つビジネスにおいて、オペレーション分野に経験のある我々がお役に立てる部分があるのではないかと思っています。

通常、大企業との事業共創と言うと、ミドルステージ以降のスタートアップとの連携が目立ちます。アーリー段階だと PMF(プロダクトマーケットフィット)が完了していないことが多く、大企業もスタートアップのどのようなアセットや強みと連携していいかわかりにくいからです。シードスタートアップと付き合うのは、大企業からしてみれば骨の折れる部分も多いと思いますが、オリエンタルランド・イノベーションズでは、シードのスタートアップとの共創に、人材もアサインして精一杯伴走する用意があると強調します。

〝チャレンジする〟CVC

NOT A HOTEL FUKUOKA の完成予想図(NOT A HOTEL 提供)

NOT A HOTEL は、宮崎を代表するスタートアップであるアラタナ(2020年4月に ZOZO が買収)の創業者で、連続起業家の濵渦伸次氏が立ち上げた新たなスタートアップです。ここ数年デュアラー(2拠点に住まいを構える人)が増えたり、コロナ禍のリモートワーク増で人々の生活様式が変化したりする状況を受け、ホテルとして貸し出せ、オーナー自らも別荘として使うことができる柔軟な不動産形態をテクノロジーで実現するサービスの開発を進めています。

NOT A HOTEL が興味深いのは、同社のプロダクトである不動産物件の販売やホテルとしての営業開始はまだ先のことなのに、すでに多額の資金調達に成功していることです。報道によれば、NOT A HOTEL は2020年6月までに複数のVCや個人投資家から10億円を調達、2021年3月にオリエンタルランド・イノベーションズからも資金調達しました(調達額非開示)。濵渦氏の過去の実績が多分に影響しているとはいえ、プロダクトも無いアーリーな段階でCVCがコミットしたのは珍しいのではないでしょうか。

豊福:我々ができるサポートを全力でしていきたいと思っています。NOT A HOTEL 様との関係では、我々からは、オペレーションなどの面で、持っている知見を使って貢献ができればと考えております。

また、通常、我々のグループのホテルなどでは、ハードウェアを作ってから、その上にソフトウェア、オペレーションを載せていくというアプローチを取りますが、NOT A HOTEL 様はソフトでできるものはソフトでやるという、我々の提供するおもてなしの手法とは異なる山の登り方でアプローチされており、そういったところを勉強したいという思いがあります。

5月中旬、NOT A HOTEL は、福岡で都市型コンドミニアムとフランチャイズ募集の開始を発表しました。ホテル業はコロナ禍において最も影響を受けている業界の一つで、オリエンタルランドのグループは全事業売上の15%前後(IR 資料による)をホテル事業で稼ぎ出しています。コロナ収束後もまた天災や疫病の蔓延など不測の事態が起こった場合に備え、柔軟性を追求した宿泊ビジネスから学ぶものは少なくないはずです。
豊福氏によれば、オリエンタルランド・イノベーションズでは、共創のために、あらゆる選択肢を提示する用意があるそうです。シードラウンドでの出資に始まり、投資したスタートアップが希望するのであれば M&A、一緒に事業を作っていくのであれば JV、あるいは20%程度の株式を保有して、オリエンタルランドグループから人を出向させ、事業を一緒にグロースするといった考えもあります。シードからイグジットまでお世話になれる、オールラウンド対応可能な新進気鋭の共創相手と言えるかもしれません。

ということでオリエンタルランド・イノベーションズのスタートアップ投資活動についてお届けしました。次回もお楽しみに。

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