SaaSに出資するVCが作る事業計画SaaS、「projection-ai」がβローンチ

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投資家が日々の投資活動で必要なプラットフォームを自ら作って世に出すことはよくある。アメリカで、スタートアップの資本構成(キャップテーブル)の管理を支援する Carta は先ごろ、CVC の組成を発表しセカンダリ市場の構築に向けて確かな一歩を歩き始めた。Carta と並んでよく引き合いに出されるスマートラウンドケップルの FUNDBOARD もまた、創業者は起業家であるとともに投資家としての顔を持ち、投資活動や資金調達で、世の中に足りていないエレメントを構築しているという見方ができる。

SaaS スタートアップに積極的な投資を行っている One Capital であるが、同社では SaaS の事業計画を簡単に作成できる SaaS「projection-ai」を開発し、今日そのベータ版を公開した(One Capital 代表の浅田慎二氏が代表を務める projection-ai が開発・提供)。1月からクローズドテストを開始し、これまでに140社が利用。15社以上が有料利用を開始しているそうだ。なお、projection-ai の開発には、デライト・ベンチャーズの新規事業プログラム「Venture Builder」が協力している。

SaaS の起業家と話をしていると、彼らは事業計画をスプレッドシートで見せてくれることが多い。スプレッドシートで事業計画を作成すると、数字を積み上げ式で作ることが多くなり、KPI が複雑化して、目指すべきゴールが複雑になってしまう。

その結果、ゴールが達成できなくて、既存投資家との関係が悪化してしまうこともあるだろう。我々の目標は、projection-ai で、未達の KPI、未達の事業計画を撲滅することだ。(浅田氏)

projection-ai を使えば、入力項目として必要な値は、事業モデル、ARPA(1アカウントあたり平均売上)、成長倍率、事業開始年度の4項目だけだ。事業モデルは現在は SaaS のみなので、実質的に3項目だけで事業計画を作成できる。成長倍率は、T2D3(PMF 後、Triple, Triple, Double, Double, Double で事業を成長させること)など有名 SaaS 企業の成長倍率モデルから選ぶことができる。

作成した事業計画は、アグレッシブ(積極的)のケース、コンサバティブ(保守的)のケース、その中間(通常)のケースなど複数パターンを容易に弾き出すことが特徴だ。また、スプレッドシートによる事業計画が数字積み上げ式の算出となるのに対し、projection-ai では求めたい結果から遡る形で必要なリソースを求めることが可能だ。例えば、ある MRR(月間経常収益)の達成には、コンバージョンレートに基づいてインサイドセールスの本数が求められ、そのための要員数、ひいては人件費も弾き出せる。

シード VC には、スタートアップへのハンズオンを前面に掲げるところは少なくない。しかし、VC にとってはハンズオンは極めて労働集約的な作業だ。スタートアップに対しては、ホッケースティック的な成長を狙ってスケーラブルなビジネスを求めるが、一方で、VC のビジネスは労働集約的なままでスケーラブルではない。VC 向けのプラットフォームが多数生まれているのには、そんな背景もあるのだろう。作業の効率化によって、VC もスタートアップも、より必要なリソースを必要なところに割けるようになる。

事業計画は、精緻に細かく作るのが良しとされる傾向がある。しかし、一から作るのは大変だし、ミスも多発する。何よりアクションメニューになっていないのが問題だ。

事業計画から具体的に何をやればいいかを見出せればいい。これは筋トレで言えば、トレーニングメニュー。VC がパーソナルトレーナーとして指南できれば、未達の事業計画を撲滅できる。(浅田氏)

projection-ai に現在用意されている事業モデルは SaaS スタートアップのみだが、今後、C2C、e コマース、D2C といった具合に増やしていく計画だ。また、Salesforce や HubSpot などから API 経由で達成値を自動的に取り込み・反映する機能の追加も検討している。機能の充実により、経営者は事業計画作成に費やす時間をさらに抑えることが可能にあり、事業計画達成のための実際のアクションに注力できるようになる。

projection-ai は2021年夏の Y Combinator のアクセラレータプログラムにエントリし一次審査を通過。あえなく最終審査にはパスしなかったようだが、今後、数ヶ月をかけて正式版のリリースにこぎつけ、次回のアクセラレータプログラムへの再エントリを目標に据えている。

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