スマホで買える海外旅行D2C「令和トラベル」、シードで22.5億円の大型調達

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ニュースサマリ:デジタル旅行代理店の令和トラベルは6月28日、ジャフコおよびANRIをリードとする第三者割当増資の実施を公表した。ラウンドはシードで、調達した金額は22億5,000万円。ラウンドに参加したのはリード2社の他にグローバル・ブレイン、千葉道場ファンド、アカツキ、個人投資家として重松路威氏、竹内真氏、本田圭佑氏、西川順氏、高橋祥子氏、染原友博氏の6名(※)。サービスの夏公開に向けて体制の強化を進める。同社は同時にティザーサイトをオープンし、優先登録の受付も開始している。

※補足:記事初出時に染原氏の氏名が抜けておりましたので追記させていただきました。

令和トラベルの創業は2021年4月。海外旅行のデジタル旅行代理店として第一種旅行業免許を取得し、自社サービス開始に先駆けてLINEコンシェルジュによる航空券・ホテルの手配を開始している。創業者の篠塚孝哉氏はリクルート出身の37歳。2013年に創業したLoco Partnersで宿泊予約サイト「Relux」を立ち上げ、2017年にKDDIへ売却、連結子会社化した連続起業家。2020年に同社代表取締役を退任した後、個人投資活動やご当地グルメのコマース「TASTE LOCAL」などを運営していた。

令和トラベルでは今回の発表に合わせ、ニューラルポケットの重松路威氏を社外取締役、染原友博氏を非常勤の監査役、ビジョナル取締役CTOの竹内真氏を技術顧問に招聘したことも伝えている。

話題のポイント:Reluxの篠塚さんが令和トラベルを創業したのが今年頭。リクルート時代のじゃらん、宿泊予約のReluxときて今回はデジタル時代の旅行代理店なので旅行業界ど真ん中といったところでしょうか。連続起業家ということもありますが、22.5億円をシードで集めたのは少なくとも非ハード系のテック・スタートアップとしてはここ10年で聞いたことがありません。篠塚さんは当初から10億円規模で集める予定だったそうで、主な目的は向こう3、4年の間、代表として資本政策ではなくプロダクトに集中したいからという説明でした。篠塚さんの考え方はYouTubeでも発信されています。

出資した投資陣も国内トップクラスが並びました。きっかけは今年2月頃にジャフコの三好啓介さんから何気なく連絡があったからという流れだったそうですが、ANRIやグローバル・ブレイン、千葉道場など過去に篠塚さんと出資などの関係があった投資家陣がここに集結していったようです。

プロダクトなしのシードでこのハイバリューですから理屈というよりは信頼関係によるところもあるとは思いますが、篠塚さんがnoteに書いている通り向こう10年での旅行業界・市場の戻り方が奇跡的であろうことは間違いなさそうで、やはり機を見たということなのでしょう。大きなパラダイムのシフトに賭けるのが起業家と投資家の仕事であることを考えると必然です。サイトで示している通り同社は5年で1,000億円規模の評価額での上場を目指すそうです。

スマホで買える海外旅行D2C

さて、大切なのは何をやるのか、です。

篠塚さんのお話から想像すると、イメージに一番近いのはスマホで買えるオリジナル海外旅行、という感じでしょうか。今回、残念ながら現在開発中のサービスについては、まだ詳細は非公開ということになりましたが、彼らが狙っているのは海外ツアーパッケージの市場です。旅行業界は現在大打撃を受けていますが、海外旅行の市場は全体で4.4兆円と試算しており、その内、半数がBooking.comに代表されるOTA(オンライントラベルエージェンシー)、残り半分がツアーパッケージになるそうです。

いや、スマホでパッケージツアーとか今でも買えるしと思われた方は、確かにそうかもしれませんが「買える」と「気持ちよく買える」には大きな違いがあります。過去にもフリマアプリが出てきた時「いや、ヤフオクあるし!」と一蹴した人がいたのは記憶にありますが、体験をどのようにデザインしてくるかには注目しています。また彼らがデジタル旅行代理店として自社でパッケージツアーを企画し、自社アプリを使って直接ユーザーにデリバリするという意味ではD2Cとも言えます。同じく旅行業界でもある「NOT A HOTEL」はスマホで買える家、だったのでイメージは近いかもしれません。

令和トラベルは新しい旅行体験を提供する

ツアーパッケージはJTBやHISでお馴染みの旅券やホテル、現地でのツアーがセットになったものです。旅行代理店の店頭にチラシのラックがずらりと並んでいるのを見たことがあると思いますが、確かにお世辞にもデジタル化は進んでいるとは言いづらい状況のようです。特に篠塚さんが指摘していたのはそのサプライ・バリューチェーンに潜んでいる非効率性です。通常、代理店側で組んだ旅行企画には、それらを実際に手配するランドオペレーターやホールセラーという「仲卸」的なプレーヤーがいるのですが、ホテルなどとのやり取りにはPDFや場合によってFAXなどがまだまだ残っている業界になるそうです。

令和トラベルは自身が旅行代理店として海外ツアーを企画、こういったホールセラーなどの事業者と連携してパッケージを組みますから、その非効率が自分ゴトとしてわかります。顧客に対してデリバリするスマホアプリやウェブの使い勝手は当然ながら、この裏側をデジタル化することでもう一つのビジネスを仕掛けようとしているのがポイントになるわけです。ちなみに自社で事業として業界デジタル化に取り組む例はLayerXのスタイルがあります。彼らはアセットマネジメントの会社を合弁で作り、そこの業務を実際に回すことで現在、請求書受取の効率化SaaS「LayerXインボイス」をサービスとして展開するようになりました。

篠塚さんの当面の戦略はとにかくプロダクトを磨き込んでカスタマーバリューを高める作戦だそうです。開発中のアプリ画面を見せてもらった印象では、どうしてもエクスペディアなどのOTAと被って見える部分もあるのですが、実際に使ってみないと体験はなかなか分かりません。例えばこれから予想されるワクチンの接種証明などはアプリひとつで提示できた方が当然ラクです。スマホひとつで海外ツアーが気軽にできるかどうかは、アプリだけでなく前述のバリューチェーンにも関わる部分で、全ての工程をどこまでデジタル化できるかどうかが大きな鍵になりそうです。

旅行業界に精通した連続起業家がどのような体験を提供してくれるのか、大いに期待してプロダクトの公開を待ちたいと思います。

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