アニメ・マンガを起点にスタートアップとの共創めざす大日本印刷(DNP)

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本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

KDDI ∞ Laboの事業共創プログラム「∞の翼(ムゲンノツバサ) 」は、大企業2社以上で策定した事業テーマに基づき、スタートアップと共に新規事業創出を目指すプログラムです。2021年度は、事業の要となる MVP(Minimum Viable Product)のローンチを目指します。

本稿では、今年度の「∞の翼」に参加するパートナーの一社である大日本印刷(以降、DNP)にお話を伺いました。採択されたスタートアップ、DNP、KDDI の3社により、これまでにないアニメ・マンガIP(知的財産権)を活用した、新しい価値を提供するビジネスの創出を目指します。

DNP の歴史——受託、自社事業、そして共創へ

DNPは出版印刷業を祖業とする会社です。DNPの前身は、1876年に創業した秀英舎と1907年に設立した日清印刷で、1950年頃までは、出版印刷を中心とした事業を行ってきました。その後、印刷技術の応用によって事業領域を拡大する「拡印刷」を推進、印刷する対象を紙からフィルムや金属などに拡げることで、包装や建材、エレクトロニクス製品までを手がける総合印刷会社へと発展しました。さらに1970年代には印刷用の組版をコンピューターで行うCTSを導入し、そのデジタル化のノウハウがその後のICカードやネットワーク関連のビジネスで活かされました。そういった意味では、我々がデジタルトランスフォーメーション(DX)と呼んでいるのに近い大きな転換を、DNPは約40年も前に経験していたことになります。

社会環境が大きく変化する今、DNPは、「P&I(印刷と情報)」の強みを活かし、さまざまなパートナーとの対話・協働を通して、将来にわたって人々や社会に価値を提供することを目指しています。2021年3月期からの3か年の中期経営計画では、イノベーションによる新たな価値創造が柱に据えられ、「知とコミュニケーション」「食とヘルスケア」「住まいとモビリティ」「環境とエネルギー」の4つの成長領域で事業注力することが明らかになっています。また、受託事業のみならず、自社事業、そして共創事業にも取り組むことで、さまざまなパートナーの強みと自社の強みを掛け合わせ社会課題解決につながる価値を生み出そうとしています。

今回の「∞の翼」でスタートアップとの共創に手を挙げていただいたのは、DNP コンテンツコミュニケーション本部 イベント・MD推進部の皆さんです。前述した中期経営計画でも記された DNPが注力する成長領域の一つ「知とコミュニケーション」の一翼を担っています。コンテンツコミュニケーション本部の目標は、受託・自社・共創の類を問わず、コンテンツ分野に特化してコミュニケーションをサービス化し、それを事業化していくこと。その象徴的存在が、今年4月に渋谷モディに開設された「東京アニメセンター in DNP PLAZA SHIBUYA」です。

共創を象徴する場として、渋谷にオープンした東京アニメセンターin DNP PLAZA SHIBUYA

東京アニメセンターとは

東京アニメセンターが創設されたのは、2006年の秋葉原。当初は、アニメプロダクション各社が加盟する一般社団法人日本動画協会(The Association of Japanese Animations、以下:AJA)がアニメ産業の発展と情報発信の場として展開していました。DNPは2017年にAJAと提携し、東京・市谷のオープンイノベーション施設「DNP プラザ」内に「東京アニメセンター in DNP PLAZA」を開設。さらに、今年に入り、DNPはパートナーの強みを掛け合わせ、リアルとバーチャルの双方を行き来できる新しい体験価値と経済圏を創出する「XR コミュニケーション事業」を打ち出し、これを具現化する場所の一つとして東京・渋谷のモディ内に「東京アニメセンター in DNP PLAZA SHIBUYA」としてリニューアルオープンしました。

東京アニメセンターが紹介するテーマであるXRのアプリ「HoloModels」を使ったクレヨンしんちゃんのコンテンツ
©臼井儀人/双葉社 ©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK ©HoloModels™/©Gugenka®
引用元:https://gugenka.jp/digital/holomodels_shinchan.php

この新しい東京アニメセンターで、DNPはアニメ・マンガ・ゲーム等のコンテンツホルダーと協業し、リアルとバーチャル双方の多様な表現手法を使ってコンテンツの魅力を発信します。ここを「XRコミュニケーション事業」の基軸となる拠点として、生活者とコンテンツ・企業をつなぐ新しいコミュニケーションモデルの創出を推進しています。東京アニメセンターではコンテンツホルダーの協力を得て、企画展形式でさまざまなキャラクターとXRの融合事例を体験させてくれます。オープンを記念した初回の企画展は、「原作30周年記念展 クレヨンしんちゃん オラのミリョク新発見だゾ」を開催しました。

「リテールテイメント」を実現する DNP の自動販売機
大阪・心斎橋PARCO内のクレヨンしんちゃんオフィシャルショップ「アクションデパート心斎橋店」に設置
©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK
引用元:https://www.dnp.co.jp/news/detail/10158923_1587.html

また、DNPではアニメキャラクターとコミュニケーションできる特典を提供する、小売(リテール)と娯楽(エンターテイメント)が融合した買い物体験「リテールテイメント」というコンセプトを生み出しています。この体験を実現するサービスの一つは DNPが開発した自動販売機で、情報表示用のディスプレーを搭載し、キャラクターグッズの購入時に、商品に応じた特典コンテンツの表示やキャラクターとの合成写真が撮影できます。また、購入時のディスプレーに表示された2次元コードをスマートフォン等で読み取ることで、撮影した写真が自分のスマートフォンに転送されたり、バーチャルなイベントに参加したりすることができます。

「スタートアップと共に、これまでに無かったビジネスを創造したい」

東京アニメセンターの企画展内スクリーンエリアで、スタートアップとの共創について語る DNPの渡邉氏、上田氏、モタイ氏
©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK

今回の「∞の翼」では、幅広な顧客基盤やソリューションを持つDNP、通信インフラやパートナー連合を有するKDDI、さらに、アニメやマンガといったIPを持つコンテンツホルダーとの関係性がある中で、スタートアップからのユニークな提案が求められます。DNPでは、展示でもない、リアルグッズでもない、イベントでもない、これまでに無かったアニメ・マンガ起点の新しいサービスの提案に期待しています。今年度の「∞の翼」の目標としてMVPのローンチが掲げられているように、上田氏はDNPとしても「東京アニメセンターを通じて生活者に実際に提供させていただき、具体的なサービスモデルのイメージが描けるような形まで、プログラムの中で推進していきたい。」と強調します。

スタートアップとは、その会社ならではの技術と我々のアセットとを組み合わせることで、MVPを作り上げていきたいと思いますが、提案いただくものは、ハードウェア、ソフトウェアを問いません。中には、ブロックチェーン、NFT、インフラとなる技術も活用できると考えます。

企業向けへの展開も、十分に可能性があります。例えば、東京アニメセンターで生活者に接客するキャラクターも、東京アニメセンターを飛び出して、小売店舗の店頭で接客することも可能です。様々な業界に対して、コンテンツを活用したコミュニケーションモデルの創出=ビジネスの発展につながると考えています。(上田氏)

DNP自らがアニメやマンガのコンテンツホルダーなわけではありませんが、彼らが強固な関係を持つコンテンツホルダーや、アニメプロダクションらに共同で事業提案などが可能であるため、スタートアップ単独では難しい事業展開のハードルをかなり下げることができます。ここからスタートアップとの共創で生まれる新たなサービスは、日本のみならず、海外のアニメファンらも魅了する可能性があります。DNPやKDDIは必要に応じて、そういった海外展開の側面支援にも対応するそうです。これまでに見たこともない、アニメ・マンガ起点の新サービス・新ビジネスの誕生に向けて、アイデアと野望に満ちたスタートアップの参加を楽しみにしたいと思います。

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