LayerX第二章へーー新ブランド「バクラク」発表、3000社導入へ手応え

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ニュースサマリ:経済デジタル化支援のLayerXは12月10日、三つの事業柱の内のひとつ「SaaS事業」のブランド名を「バクラク」に変更すると発表した。これまでLayerXシリーズとして提供していたインボイス、ワークフロー、電子帳簿保存のサービスはそれぞれ「バクラク請求書」「バクラク申請」「バクラク電子帳保存」に改められる。

バクラク請求書は紙による請求書受け取りを効率化する。紙の請求書の記載内容をAI-OCRでデータ化し、仕訳や振込データなどを自動作成してくれる。特にOCR解析が特徴的で数秒での読み込み体験が顧客の好評に繋がっている。また、2022年1月施行の電子帳簿保存法に対応した「バクラク電子帳簿保存」は月間500件までのアップロードについては無料で提供されいてる。

話題のポイント:今回の発表はLayerXにとって第二章の始まり、と言えるものになるのではないでしょうか。会見(久しぶりの現地取材!)で語られたいくつかの数字を元に、次の三点で整理していきたいと思います。

  • 法人向けにメルカリのような体験を
  • ブランド変更のワケ
  • 第二章へ、日本の「経済デジタル化」への道筋

9カ月・20倍成長の手応えは「体験」

会見で一際目を惹いたのはやはり成長数字です。LayerXがリブランディングした「バクラク請求書」を最初に(当時の名称はLayerX INVOICE)発表したのは今年の1月でした。実は筆者、大変お恥ずかしながら、発表当時にこのサービスが請求書「受け取り」にポイントがあることを理解しておらず、なぜ今さらクラウド請求書「発行」サービスを開始するのか、と大きな勘違いをしていました。

コーポレート関連を手がけていない人にとってはなかなかピンとこない請求書受け取りの作業ですが、これが紙のままだと受け取りからその内容のデータ化(打ち直し)さらに会計の仕訳と人力作業が伴います。会見で実際の月次決算の例を挙げられていましたが、通常、5営業日で月次を締める場合、3営業日はこの打ち込み作業で消えるのですが、彼らのソリューションはそれを1日に短縮することに成功しています。

ちなみに同様のサービスで垂直立ち上げに成功しているのがSansanのBill Oneです。2020年11月の開始から2022年5月期の1Q時点で343社が導入し、前年比で12倍の成長を遂げています。2022年5月末までに1000社の導入目標を掲げる注目分野になっています。

会見中に何度も強調されていたのが「体験」です。代表取締役の福島良典さんは、自分たちが変えたい常識として次のように語っていました。

「仕事で触るサービスって使いづらいと思ってませんか?けど、プライベートではメルカリのようなサービスがあって、いい体験が増えています。全く同じ人が仕事になった瞬間に使いづらい、でもそういうものだよね、と。ここが一番変えたいところなんです。工数が短縮されたというのも重要ですが、使いやすいとか、なめらか、わくわく、こういうエモーショナルな体験を重視しています」。

仕事で使うツールなのになめらか、わくわくする。こういう「請求書の処理が楽しくなった」という声は数字に反映されています。リリースでは11カ月の利用社数は数百社で、グラフにある通り、開始から約9カ月で20倍の導入が進みました。重要な指標としている月次処理額も140億円規模に達しており、さらに驚くのが解約がゼロ、幽霊(契約したけど使っていない)契約ゼロ、3カ月毎の利用動向ヒアリングでも高い評価を保っている、という点です。

福島さんは以前のインタビューでこうコメントしています。

「例えばプロダクトを出すとするじゃないですか?『これいかがですか?』って聞いたら『いいですね』って答えるに決まってるんですよ。じゃなくて、いいって言ったけどあの人本当に翌日にアクセスしてるのかなとか、本当にいいって思ってたらまた使ってくれるはずなんです。おすすめしてくれるはずなんです。じゃあ、今、この瞬間に誰かにおすすめしてくれますか?って聞いて『いや、ちょっと』となれば全然刺さってない。いいですね、今から誰それに紹介しますよとなっていれば多分ヒットしてる」(10年起業家:全ては自責から始まる/土屋・福島氏対談より)。

実際、彼らのバクラク請求書を使っているユーザーの64%がお勧めしたいと回答しているそうです。工数削減や2022年1月施行の電子帳簿保存法などデジタル化の波といった要因もありつつ、本質的には仕事が楽しくなる、そういうツールになっているという自信が会見の端々で感じられました。

ブランド変更は3000社導入へのチケット

この自信を確かなものにするため、彼らが取った次の一手がブランド変更でした。

現時点でサービス導入している企業のおよそ8割は東京拠点で、主だった顔ぶれもテック系としてよく知られるIT関連企業のロゴが並びます。一方、ここ最近になって2割の「非東京・非IT企業」の利用が増えてきました。今回のブランド変更はこの割合をさらに拡大させることに狙いがあります。

残念ながらLayerXはお世辞にも馴染みやすい一般的な製品・サービス名称とは言えません。福島さんが「社内でなくてはならないサービスになるためにはより広い認知、拡大が課題となるステージに移る」と話すように、全国区レベルに一気に押し上げるには、必然の変更と言えます。例えばラクスのコーポレート系クラウドサービスのシリーズはわかりやすい名称の「楽々精算」を筆頭に(2021年9月末時点で8,748社導入、決算資料より)更なる認知拡大を狙い、前年比で4倍近くになる積極的なマーケティング投資を進めています。

広がる非IT・非東京の企業への導入

同社でも計画として広範囲なマス広告への展開を計画しているとしていました。テレビCMだけでなく、展示会などさまざまなタッチポイントで認知拡大を目指します。オンボーディングの日数も小さな規模であれば1日、大企業であっても数週間という話なので、認知拡大がそのまま彼らの事業成長につながる確率は高いと思われます。

福島さんはこの成長を継続すれば、1年後、2023年3月期末にシリーズ導入で3000社に到達するという見込みも公表しています。実際にはこれ以上の上振れでことは進んでおり、さらに倍も目指せるのではと言葉に力を込めていたのが印象的でした。

そして第二章へ、B2B決済市場への挑戦

30億円調達のLayerX、「経済活動のデジタル化」で世界を変える

2018年8月、LayerXは新しいプロトコルによる自律的な金融世界を目指して立ち上がりました。当時、福島さんもここをどうやってスケール可能なビジネスに変えるのか、明確な答えを持っていたわけではありません。ただ、不可避な事実として、世の中はブロックチェーンという新しい技術をきっかけに生まれ変わろうとしている、という点については確信を持っていたのだと思います。

LayerXはその後にMBOを経て独立し、2020年には自らも設立に参画した三井物産デジタル・アセットマネジメント(三井物産 54%、LayerX 36%、SMBC日興証券 5%、三井住友信託銀行 5%)における業務の中で、今、リアルに起こっている経済活動の非効率を体験することになります。ここで得た着想が元になり、バクラク請求書など3事業が立ち上がりました。

コンサルティング事業として創業してから3年、五里霧中だった成長への勝ち筋は「請求書受領SaaS」として結実し、数字の目処も明確につきました。今回のブランド変更はそのアクセルを踏み込む号砲とも言えるものです。

LayerX全体としての戦略マップ

では、最後に今後のロードマップについて少し触れておきたいと思います。

LayerX全体のロードマップにおけるゴールは「デジタルネイティブな銀行と証券機能を担う」ことにあります。さらにその目的を達成するためのセンターピンとしてSaaS事業、フィンテック事業(アセットマネジメント)が立ち上がりました。それぞれが新時代の銀行、証券を担う事業に成長していくイメージです。

そしてこのSaaS事業の中でさらに解像度を上げたセンターピンが請求書受取でした。福島さんは企業間決済を狙った理由として「四半世紀変わっていない。1,000兆円から1200兆円に及ぶ企業間のB2B決済のデジタル化率(クレジット利用)はわずか0.2%程度」という課題を挙げ、「請求書受取SaaSからはじまり、B2B決済の領域に拡大していく」と大きな道筋を語っていました。

もう一つのゴールである証券については既に、三井物産デジタル・アセットマネジメントがプロ投資家向けのオンライン投資サービス「ALTERNA(オルタナ)」を正式にサービス開始させています。プライバシーテックについてはまだベールに包まれていますが、金融におけるプライバシーの重要性は言うに及ばずで、これこそ祖業のブロックチェーン技術が大きく関与することになるでしょう。

ということでLayerXは3年で次々と事業を形にしてきました。今後、4年間でさらにアクセルを踏み込むため、500名規模に拡大するそうです。彼らの事業、サービスが拡大することで経済活動がどのようにデジタル化し、結果として生活はどう変わるのか、引き続き楽しみにその姿を追いかけたいと思います。

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