自前主義からの脱却で、オフィスビルのアクセス管理をより柔軟に〜ビットキーとパナソニックの共創

左から:ビットキー 代表取締役 CEO 江尻祐樹氏、パナソニックEW社 ES事業部 システム機器BU 非住宅カテゴリー長 林宏治氏

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

ビットキーは、2018年8月に創業(設立登記は2018年5月)。当初は、分散技術や暗号化技術を用いた独自のキーテクノロジーやスマートロックの開発で事業を開始したが、最近では、「Home(暮らし)」「Workspace(働く)」「Experience(心が動く、非日常の体験)」の3つの事業領域で、複数の異なる自社や他社のシステムをつなぐデジタルコネクトプラットフォームの提供に軸足を置く。大企業との協業も多く、創業から4年で累積調達額は120億円超と成長著しいスタートアップだ。

workhub

一方、総合エレクトロニクスメーカーであるパナソニックの中で、林氏がカテゴリー長を務める非住宅システム部門では、自動火災報知設備、中央監視、入退室管理など、ビルマネジメントのセキュリティ管理に必要なシステムを開発・提供している部門だ。この部門が2008年に発売を開始した(当時はパナソニック電工)、同社が誇る統合型セキュリティシステム「eX-SG」は多くのオフィスビルに導入され、エレベータ連動、フラッパーゲートなど、ID 認証や入退室管理に関わる最新鋭の機能を備える。

eX-SG

2021年、ビットキーはパナソニックから資金調達し業務提携を締結しているが、これは今回の共創とは直接の関係はない。この時の提携で、ビットキーはハウジングシステム事業部と IoT 宅配ボックスを共同開発していたのだが、2021年に林氏がパナソニック LS ネットワークス(現在のパナソニック EW ネットワークス)の代表の任を終えパナソニック本体に戻った際、ビットキーの事業内容に関心を持ち、ビットキーへアプローチしたのだという。

ビル〜テナント間で起きる、入退館(室)管理の分断問題

自分の会社が高層オフィスビルに入居しているという読者は少なくないだろう。ここで必要になるのが入館証だ。テナント企業のニーズの多様化も有り1F(またはオフィスロビー階)のフラッパーゲートを通過するための入退館処理と、自社オフィスの入退室処理で、それぞれ別の認証方式で運用せざるを得ないケースも出てきた。ビルの入退館管理と、オフィスの入退室管理で、管理体制やシステムが違うことから生じる問題だが、利用者には、複数の認証方式を求められるのは億劫な話だ。

そこで、パナソニックは eX-SG を、ビットキーが開発した「workhub」と連携する道を選んだ。eX-SG は、長期間にわたって多くのビルで利用されるインフラ設備という性質上、多くの製品バリエーションの提供や頻繁な機能アップデートは難しい。一方、workhub は顧客の予算やニーズにあわせて、さまざまなカスタマイズができる、今は入館証による認証でも、将来は顔認証やQRコード認証を追加するといった具合に、時代やニーズに合わせた拡張がしやすいことも特徴だ。

協業の重要性

子会社社長の経験が、共創の判断を後押し

パナソニックは、社内イノベーション組織「ゲームチェンジャーカタパルト」、アクセラレータプログラム「Panasonic Accelerator」、CVC「Conductive Ventures」や「パナソニックくらしビジョナリーファンド」を運用するなど、スタートアップとの共創には早くから取り組んできた。しかし、そんなパナソニックでさえ、メーカーという組織の性格上、内製にこだわる「自前主義」の体質は色濃く残る。林氏は、昨年まで務めた連結子会社での社長経験が、共創に踏み切る判断を後押ししたという。

IT 会社の社長をやってみてわかったのは、自分達だけでできることは限られるということ。自分達の強みと、相手の強みを掛け合わせた時に、よりよい事業が生まれるということを経験していたので、(ビットキーとの共創に)抵抗はなかった。

一番最初に(ビットキーと)コミットしたスケジュールから3ヶ月遅れることになったが、その時は、江尻氏から「お宅の3ヶ月と、うちの3ヶ月は全然違うんだ」と厳しい言葉をもらった記憶がある。資金を寝かせてしまっているということに、鈍くなっていた。(林氏)

林氏は社内のチームメンバーに、共創に向けた思いの説明が足りていなかったことを反省し、「このまま(自前主義で)成り行きで行ったままどうなるか」「ビットキーとの共創で何がもたらされるか」を、夢と危機感を胸に改めて共有することにした。その甲斐あってか、数ヶ月後、共創結果のプロダクトは、めでたくカットオーバーを迎えることとなった。

共創内容

イノベーションを求める気持ちは、大企業もスタートアップも同じ

共創を円滑に進めるために、スタートアップが大企業に求めるものを尋ねられた江尻氏は、立場の違いこそあれど、イノベーションを求める姿勢や気持ちは、大企業もスタートアップも同じだろう、と語った。

大きな事業を持ち、社会を支えている大企業と、小さく始めて大きく育てるスタートアップでアプローチは違うが、新しいものをどんどん生んでいかないといけないという思いは一緒のはず。

大企業には大企業の論理があって、最初から大きなリスクは取れないから、まずはPoC(実証実験)からやりましょう、という話になるが、PoC をやっている間に世界から置いて行かれてしまう。その時間さえもったいない。(江尻氏)

江尻氏は、PoCを経ずに、いきなり実行ベースで共創に取り組める環境を作り出すため、スタートアップが大企業に積極的に提案することが重要だと語った。

これなら一緒にやれる、と大企業が納得できるような、インパクトのあるチャレンジを提案することが、スタートアップに求められていることなのだろう。(江尻氏)

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