「高輪ゲートウェイStartup Program」始動目前、スタートアップとのまちづくりに賭ける思いを運営責任者に聞いた

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左から:隈本伸一氏(JR東日本スタートアップ)、天内義也氏(JR東日本)、石井亮平氏(KDDI)

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

JR東日本とKDDIの共創プログラム「高輪ゲートウェイStartup Program」は、9月28日よりスタートアップからの共創アイディアエントリー受付を開始した。このプログラムでは、2025年に予定されている「高輪ゲートウェイシティ(仮称)」開業に併せ、高輪ゲートウェイ駅周辺エリアにて、JR東日本の保有施設やKDDIが提供する5G通信環境などのアセットと、スタートアップのアイデアを掛け合わせて新たな街づくり、事業創造を目指すとしている。

10月19日には、このプログラムの逆ピッチイベント(プログラムエントリー説明会)がオンラインで開催された。イベントでのパネルディスカッションでは、このプログラムに賭ける思いを、運営を担当する石井亮平氏(KDDI 事業創造本部BI推進部 グループリーダー)と天内義也氏(JR東日本 マーケティング本部 まちづくり部門 品川ユニット マネージャー)が語った。モデレータは、隈本伸一氏(JR東日本スタートアップ 営業推進部 シニアマネージャー)が務めた。

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このプログラムでは、2つのテーマが設定されている。

<募集テーマ>

テーマ1:世界一グリーンなまちづくり

  • 住民や働く方々が、街の緑化・食の循環・CO2削減に活発に関わり、サステナブルな街づくりに繋がる仕組みを共創。
  • 関連領域:農業・食料・街の緑化・カーボンニュートラル・バイオ・エネルギー・エコフレンドリー

テーマ2:クリエイターが輝くまちづくり

  • リアル・バーチャル問わず、国内外からの才能溢れるクリエイターが集い、持続的に挑戦・発信ができる環境・空間の仕組みを共創。
  • 関連領域:クリエイターエコノミー・スペース活用・エンタメテック・ファンコミュニティ・WEB3・メタバース

「世界一グリーンなまちづくり」に賭ける思い

高輪ゲートウェイ駅周辺。ここに新たな街が誕生する。
Image credit: JR東日本

天内:題目が「世界一グリーンなまちづくり」とあるのに、「水やり?」と思う方もいると思いますが、大きい画は必要なんですが、目の前の課題を一つずつ解いていくことが、最終的には100年先の持続的な世界一グリーンなまちづくりに繋がると考えています。

一つ目の課題は、ホップコミュニティ(編注:JR東日本は、高輪ゲートウェイ周辺で、ビール原料でもあるホップを周辺地域の事業者・学校・住民とともに育て、緑を通じて交流・連携をはかる活動を展開している)を運営する中で気がついたことなんですが、、植物なので水をあげなきゃいけないんですよね。毎日適当な量をあげなければいけない。

「今日は水やりを誰がやったの?」という情報を共有する手段は意外と無かったりする。「私、時間があったから水やり行けたのに」とか。自分や他の人の頑張りみたいなものを共有していきながら、一つの目的につなげていくコミュニティを続けていくためには、そういう伝達手段は必要ではないかと思っています。水やりは、すごい軽い言葉ですけど切実な課題として今あります。

特に、2万平米という広い緑地ができると、ビルの管理という観点では緑地管理をするんですが、それが食用の緑地となれば、それ以上の手入れをしていかないといけないので、みんながストレスなく楽しく参画出来るような仕組みが作れないかなと考えています。

もう一つの課題はですが、低炭素やゼロミッションといった環境を保護しようとする活動は、何かしら制約を課されるイメージを伴うと思います。しかし、何かを我慢してとか、ひと手間加えるとかだけではなくて、環境貢献に繋がる活動を楽しくできる仕組みが作れないかなと思っています。

楽しくできると参加する人も増えて、行動変容に繋がって良い社会づくりにつながっていくでしょう。社会貢献をしたこと自体が最大のリターンなんですが、それだけではなく、物理的なポイントが貯まっていくと、何らかのインセンティブが個人個人に戻っていくような仕組を内包できて、それが街レベルで実装されている例はあまり無いので、それを街開き前までに仕組みとして確立したいです。

石井:グリーンやカーボンニュートラル、気候変動などのいわゆる社会的課題系は、取り組む意義がありますし絶対やった方が良いことは皆分かっているんですが、これまでこの手の分野は大きなビジネスに直結しにくかったので結果として一部の人ががんばってる領域という見られかたをしていたんです。ただ最近、国や政府、ひいては世界レベルで本気でやるんだという意志が示され明確な目標まで掲げられました。

するとどうなるかというと、国や政府は掲げた目標を達成しなければいけないから、これまで厳しめに設定していた規制を緩和し始めるんです。規制緩和が進むとそこに隙間が生まれ、まさにビジネス機会が生まれます。そこに対して嗅覚の良い人たちは一気にスタートアップとして起業し始めるんですね。そのような背景からグリーン系のスタートアップが増えてきましたね。ただ、一方で彼らの課題は自身のプロダクトや事業の蓋然性を検証する上で、圧倒的に足りないのはリアルフィールドです。

リアルフィールドを持っていないから、自分たちのプロダクトが本当に通用するのかわからない、検証できない。結果、足が長くなってしまうことになります。今回JRさんがこれだけの敷地を出して、「どうぞ皆さんお使いください」と言っているわけですから、ぜひグリーン関連のスタートアップの皆さんは、エントリーしていただいて検証その後の事業化に向けてスピードアップをしていただきたいと思っています。

天内:緑の豊富な環境を自分の庭くらいの気持ちで、一人一人の方に関わってもらえるといいと思っています。

「クリエイターが輝くまちづくり」に賭ける思い

隈本:2つ目のテーマで、クリエイターやパフォーマーの方々が輝くまちづくりについてですが、もうすでに、文化創造施設にすごいプランが出来上がっていましたけれど、それ以外にも、広場にいろんなものができるような画になっていますね。

天内:緑地と同じく、リアルの場ができます。駅前の広場、本当に綺麗で素敵な空間ができますし、文化創造施設もできるんですけど、場所ができただけで使われてないと街づくりをしていく意味が半減するので、その場が常に使われている状態を作っていきたいと考えています。

「文化創造棟」の外観。建築家の第一人者・隈研吾氏によるデザインだ。
Image credit: JR東日本

天内:ビジネス領域だけではなく、世界中のいろんな分野で活躍されてるクリエイターやパフォーマーの方がいらっしゃるので、街を表現キャンバスとして試せる場になる世界観を作れるといいなあと思ってます。

ただ、そうは言ってもリアルの場所には敷地の制約があるので、そこから先は広がらないんですよね。KDDIさんと組んでいるのは、バーチャルという無限大に人を寄せてくることができる世界をくっつけて、実証実験を拡大させながら世界に広がることがしたいとの考えからです。

パフォーマンスにしても、どんな人が立ち止まって聞いていたのか、自分の演奏のどの部分がが響いていたのか、複数枚の絵を並べた時にどの絵の前に一番人が立ち止まっていたかとか、そういうことをフィードバックできるような仕組みがあると、より効率的ですね。

ただ、これだけの場所があるとはいえ、所詮この街だけなので、世界中のいろんな広場や場所を繋げて、一体となったパフォーマーコンテストができたら素晴らしいじゃないですか。その中で頂点を取った人は文化創造施設で演奏できるとか。

石井:クリエイター・パフォーマーというのは少し前までは本当に限られた人だけがなれる職業で、それ以外はみんなオーディエンスという構造だったと思うんですが、SNS ができたりとかデジタル化が進んだりしたことで、いろんなことを皆さん発信しやすくなったんですね。

動画を投稿したり、歌ってみたり。つまり、全員誰もがクリエイターなれる、なっているという時代になってきている。一方で、彼らのマネタイズを考えると、現時点においてはいまだに一握りのトップスターだけが富を独占している状態です。

そんな中、最近Web3の考え方がこの領域に浸透してきましてクリエイターが自らファンコミュニティを持ち、その中でプラットフォーマーに依存しない形で経済圏を作ることが可能になってきました。こうした仕組みを持つスタートアップも増えてきていると思うので、そういったプレイヤーの方々とクリエイターを支援するようなことが出来れば良いですね。

また、結局のところ、クリエイターにとっては、表現できる場が多いに越したことはないと思いますので、JRさんが持つリアルな広場だったり、KDDIが持つ「バーチャル渋谷」だったり、場を提供するので、そこでぜひ自らを表現し輝いていただきたいと思いますね。

天内:毎回来るたびに変わるとか、常に何かやっている。それが来る人のモチベーションや、ここで演じる人のモチベーションになっていくと思うので、そういった循環を途切れなくいくにはどうしたら良いのでしょうね。

隈本:駅前開発の毎回の悩みですよね。

天内:今このタイミングでいろいろなアイデアをいただけると、アイデアを内包していくために街の管理はどうしていかないといけないのかを事前に検討できるんです。街が開いてから考え始めると、そこから5〜6年はかかってしまいます。

システムが組み上がってからですと、なかなか実装が難しいこともあると思うので、ぜひ、街が開く前のシステムを組み上げようという段階で、アイデアを実現できる形に考慮しておけるよう、皆様の斬新なアイデアをお待ちしています。

「高輪ゲートウェイStartup Program」の運営に関わる皆さん

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