品川からはじまる「くらし分散化」の波、JR東日本とKDDIが“空間自在”スマートシティで組んだワケ

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写真左から:東日本旅客鉄道 表輝幸 執行役員、KDDI 藤井彰人 執行役員

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

昨年12月にJR東日本とKDDIは、品川を中心とする分散型まちづくりの共同事業化について基本合意したことを公表しました。コロナ禍によって一気に進んだデジタル化の波は人々のくらし、仕事を大きく変えようとしています。特に東京一極集中と言われ続けてきた都市集中型のライフスタイルは、これを機に「分散化」という選択肢を模索することとなりました。

しかし実際に社会はどのように変わるのでしょうか?

その大いなる転換点について、実際の街を舞台に様々な試みをしようというのが「空間自在プロジェクト」です。駅という「リアル」と、通信という「デジタル」のインフラを主力としてきた両社が手を組むことで、場所や時間に捉われない多様な働き方・くらしを実現するサービスや体験をここから生み出そうというのです。今後は品川を中心に、日本各地に分散拠点としての「サテライトシティ」を開発したり、品川の周辺におけるモビリティサービスの検討など幅広い分野での共同事業化を目指すとしています。

そしてこのプロジェクトでひとつのキーとなるのが「共創」です。

2社がタッグを組んだように、スタートアップのような新たなテクノロジーと大手のアセットを組み合わせたり、アーティストやクリエイター、エンジニアに研究者など、様々な分野における世界のトッププレーヤーたちを繋ぐ「ハブ」となる。このプロジェクトにはそのような構想があるそうです。こういった人々が集まり、共創することで新たなくらしや働き方を生み出す原動力となることが期待されています。

ではこの構想はどのように進み、どういったビジョンに向かうのか。本稿ではこのプロジェクトのキーマンとなるJR東日本 執行役員、事業創造本部 副本部長の表輝幸氏と、KDDI 執行役員でソリューション事業本部 サービス企画の藤井彰人本部長のお二人に話を聞きました。

コロナ禍が認識させた「空間自在」の必要性

空間自在プロジェクトの骨子となるのがコアシティ「品川開発プロジェクト」の共同推進です。「品川開発プロジェクト」は現在、JR東日本が「100年先を見据えた心豊かなくらしづくり」を目指し、2024年度に第Ⅰ期の開業を目指しています。表さんはまず、プロジェクト推進の背景として感染症拡大のインパクトを挙げられていました。

「コロナ禍が起こって大きな変化が加速しました。集中から分散、マスからパーソナルへと生活中心に価値観の変化が起こり、いい意味で東京一極集中から地方分散の動きがでてきています。私たちも『変革2027』という経営ビジョンに掲げていたのでこれを加速させていこうと。私たちは様々な施設や鉄道・交通のインフラといったリアルのネットワークを持っているのが強みですが、その一方でデジタルは強くありません。そこでKDDIさんと手を取ることで新しいくらし、人々の生き方を作れるのではないかと考えたのです」(表さん)。

藤井本部長もまた、一気にデジタル化に振れたことで新たな「リアル」への気づきがあったと言います。例えばテレビ会議中心の生活に移行したことで移動時間が消えると、結果的に労働時間が長くなるといった課題も浮き彫りになりました。

「こういった課題が見えてきたことで『全部デジタル・全部リアル』ではなく、組み合わせがとっても大事なんだなと。タスクであれば(リモートでも)できるかもしれませんが、クリエイティブなところはどうやってハイブリッドに移行していくべきでしょうか。この点について『本社とサテライト』のような単純な分け方ではなく、本社自体がリアル・デジタル両面を融合させながら分散していく。そういう考え方のスマートシティが必要になると考えています。

またコロナ禍で認識しましたが、(リモートワークが始まったことで)子育て中で自分の部屋がないといった『ひとり一人の事情』が露呈しましたよね。同じように会社に行って一緒に働こうよ、というのが崩れた。多彩な選択肢をリアル・バーチャル両面で考えながらひとり一人の違いに寄り添う必要性が出てきたのです。空間が自在になればワークスタイルだけでなく、ライフスタイル、エンターテインメント、教育、色々なところに波及するはずです。このプロジェクトがそんなきっかけになればと考えています」(藤井本部長)。

空間自在プロジェクトでイメージしやすいのが、推進の第一弾にもなっている「分散型ワークプレイス」の開発です。お二人が語っているように、「同じ場所、決められた仕事」からよりパーソナルな環境を必要とする時代に移る中、それぞれの状況にあった場所作りの機運が高まりつつあるのです。

分散型のワークプレイスのイメージはさしずめ「繋がるオフィス」といったところでしょうか。都市部や地方都市に拠点を持つ法人ニーズに対応し、離れたオフィス空間が一体化する仮想プロジェクトルームや、入室と同時に社内イントラに接続できる機能、ID連携によって前回会議からの続きを再開できる「保存可能な会議室」など、働くリアル空間をデジタル・バーチャルの技術で融合させる、そんなワークプレイス開発を目指すそうです。

また、固定の拠点だけでなく移動中の空間も同様に分散型の一部とみなし、新幹線車内でのリモートワーク実証実験も実施します。これらの実証実験は今年、2021年春以降を目途に実験的に開設され、常時アップデートしながらプロトタイプの開発や実証実験を続けるとしました。

共創の中心:空間自在コンソーシアム

プロジェクトでは品川街区内の移動をサポートするモビリティサービスの開発も公表されていましたが、このようなスマートシティを常時アップデートし続ける原動力となるのが、新たなアイデアやスタートアップたちの存在です。

この実現に向けたプロジェクトでは、さまざまなパートナーと共に新たな価値やサービスを創出する「空間自在コンソーシアム」の創設も公表しています。参加の対象となるのは企業や自治体、スタートアップ、そしてこの街にユーザーとして参加する企業たちです。手始めとしてこれら企業と共に「ワークプレイスコミュニティ活動」を開始し、在宅ワークで明らかになった働き方の課題を語る意見交換や、解決に向けた実証実験などを実施するそうです。

表さんはこの品川の地が世界と日本、過去と未来、都市と地域、人や企業を繋ぐハブとなってさまざまな情報や技術、情熱が集まる、そんな共創のビジョンを示していました。そしてそのビジョンの先にあるのが社会課題の解決であり、新しい私たちのくらし、働き方になります。

「企業も個人も分散化の時代に入り、在宅勤務が進んで企業側も制度を整えたり、また副業を認める企業が増えるなど、社会のインフラが整いつつあります。そんな状況の中、品川は立地としても陸・海・空の中心地です。約13ヘクタールという広大な場所を『ゼロ』から作れるのは都心ではここしかありません。世界のハブとなって時空を超えて各国の主要都市を結び、リアルとバーチャルを融合させることでコミュニケーションはもっと自由自在になるはずです。

私たちは100年後の日本が心豊かに、そして夢と希望溢れる社会にしたいと願っています。だからこそ、そこに向かって夢を実現したい人たちがディスカッションし、技術や知恵、ノウハウ、エネルギーを持ち合って品川で掛け合わせをし、化学反応を起こして新しいビジネスや価値を生み続ける、そういう街を作りたいのです」(表さん)。

今回プロジェクトの中心となる場所はJR東日本の土地だそうです。例えば今回発表されているモビリティサービス構想には自動配送ドローンなどが含まれていますが、国内で公道を使う場合、さまざまな規制をクリアしなければなりません。その点、私有地であれば実証実験の自由度は上がります。また、住んだり働いたりしている人たちに参加頂くことも、実際のサービスや体験を作る上で重要なポイントになります。

コンソーシアムなどを通じてここに住む人たちや関連する企業のフィードバックをお願いできるのも、スマートシティ構想をアップデートしつづける上で強みになります。

さらに両社には力強い「データ」という武器もあります。駅や施設を利用する人々の行動やSuica・定期券・auなどのID情報は、このプロジェクトにおける基盤のひとつになるはずです。

同時に表さんはイスラエルや中国、インドなど国を挙げて進める新たな技術開発の状況に危機感を覚え、「100年後の未来の夢を叶えるための実験の場にしたい」とイノベーションへの期待を語られていました。

鉄道というイノベーション

取材の終わり、表さんはこの品川という場所にまつわるエピソードを教えてくれました。

2020年7月、品川開発プロジェクトの計画エリア内において鉄道開業当時に建設された「高輪築堤」の遺構が見つかりました。

これは1872年に新橋〜横浜間で開通した日本初の鉄道を敷設するため海上に構築された構造物です。表さんのお話によると、この遺構は当時、イギリスの技術を輸入して作られたそうなのですが、その後、日本にあったお城の石積み技術を融合させ、より強固なものに改良していったそうです。結果、150年の時を経て日本の鉄道は世界一を誇るネットワークに成長しています。

「東京駅も当時の世界最高の技術を集め、そして赤煉瓦などには日本の匠の技を施しました。これも約100年前の先人が作ったものです。私は書物などでこれらの話を紐解きつつ、まさに身震いするような感動を覚えたのですね。志、挑戦心、努力。100年経った今でも、私たちにその感動を与えてくれたのです。我々も次の100年後の人たちにそういう気持ちを伝え、さらに次の100年を作るぞという気持ちを起こさせる、そういう仕事をしなければなりません。この気持ちを繋ぐこと、それがこのプロジェクトに込められた私たちの使命であると考えています」(表さん)。

リアルな駅・街という場所と、5Gをはじめとする新たな通信インフラが揃うことで、空間自在プロジェクトは魅力的な実験の場となるはずです。一方、その中に真のイノベーションを起こすのは人であり企業です。この場所に集う人々や企業の熱量がスマートシティの構想に魅力をもたらし、二人が語る「アップデートし続ける都市」へと変貌する鍵となるのは間違いありません。

KDDIとJR東日本はモーニングピッチ主催の大企業イノベーションアワードでも上位に評価されるなど、両社共に「共創」という理念で国内イノベーションのあり方を模索してきました。これからの分散化した社会に必要なサービスや体験を生み出す担い手はどのようにしてこの地に集まってくるのでしょうか。

次の100年に続く志を持った人々との出会いに期待が集まります。