「Get in the Ring」大阪予選が開催——生体細胞印刷、植込み型神経刺激装置、転んでも柔らかい床開発の3社が世界決勝へ

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Image credit: Osaka Innovation Hub

Get in The Ring はオランダで2012年に始まったピッチコンペティションだ。ピッチをボクシングに見立て、ス タートアップはバリュエーションによりライト級・ミドル級・ヘビー級に分かれ、リング上でピッチでの対戦に 臨む。それぞれの級で選ばれた各都市予選の勝者は、年に一度の世界決勝に出場できる。

これまでの世界優勝者には、Ant Financial(螞蟻金融)が2016年に1億米ドルで買収した、眼球の血管パターンによるバイオメトリクス認証のスタートアップ EyeVerify(アメリカ)、アバターによる手話通訳スタートアップ MindRocket(ヨルダン)、人間の尿から土壌改良のためのバイオ煉瓦を作り出す Liquid Gold(南アフリカ)など有望スタートアップが名を連ねる。

大阪では、Osaka Innovation Hub が2016年から予選イベントを開催するようになり、17日、7回目となる予選がオンライン開催された。今回はヘルステックスタートアップに特化し、ライト級・ミドル級・ヘビー級のセミファイナリスト6チームが集結。それぞれの級の日本予選優勝者(ファイナリスト) には今年開催される世界決勝(開催地と日程は未発表)への出場権が提供される。

このイベントで審査員を務めたのは、

  • Brian Lim 氏(Rainmaking Innovation Japan アジア太平洋地域スタートアッププログラム責任者)
  • 井上加奈子氏(NEXTBLUE パートナー)
  • 橋本遥氏(Convallaria CEO)

レフェリーは、Nathan Bryan 氏(ガイジンズ 代表取締役) が務めた。また今回、このイベントにはアストラゼネカ、EY Japan、FUJITSU ACCELERATOR が協賛し、EY Japan、FUJITSU ACCELERATOR からは該当者に、PR TIMES からはファイナリスト全員にスポンサー賞が授与された。

<ライト級(バリュエーション50万ユーロ未満部門)優勝> Smart Tissues(京都)

Image credit: Osaka Innovation Hub

ヒトが臓器不全を起こした場合の最も一般的な医学的対処は、ドナーから提供されった臓器の移植手術だ。ただ、臓器提供を受けた患者はその後も免疫抑制剤を飲み続ける必要があるし、何より、ドナーが現れるまでにどれだけの時間を要するかもわからない。時間的猶予ない患者は海外での臓器提供・移植手術を選ぶ人はいるが、これには非常に多額の費用がかかる。Smart Tissues は、生体細胞を印刷する「3D バイオプリンティング」技術を開発するスタートアップだ。

Image credit: Smart Tissues

バイオプリンティングにおける大きな課題の一つは、生体細胞を印刷するのに適した素材がないことだった。Smart Tissue はこの素材を発見・開発したこと、そして、印刷するための抗菌インクを開発したことが最大の強みだ。一般的なプリンタのインクカートリッジと同じく、Smart Tissues もこの抗菌インクの販売で継続的な売上の確保を目指す。同社は、日本国内外から集まった、製薬会社や医療機器メーカーの研究開発部門で勤務経験のある、4人の多様なメンバーで構成されている。

Smart Tissues では、日本にバイオプリンティング施設を設置するため、100万米ドル規模の資金を調達しているという。

<ミドル級(バリュエーション50万〜250万ユーロ部門)優勝> Inopase(東京)

Image credit: Osaka Innovation Hub

Inopase は、植え込み型ニューロモジュレーション医療機器を開発するスタートアップだ。神経モニタリングに基づきパーソナライズされた神経疾患治療を提供する、ワイヤレス充電技術とクローズドループ技術をベースにしたデバイスを開発している。ニューロモジュレーションは、電気刺激を与えることで他の活動を抑制し、さまざまな疾患を治療する臨床実績のある治療機器だ。現在、Inopase では、過活動膀胱とてんかんの治療のために、2つのニューロモジュレーションを開発している。

Image credit: Inopase

Inopase は2021年に創業し、日本医療研究開発機構(AMED)の国家プロジェクトに採択された。これにより、実用的なプロトタイプを完成させ、動物実験によるコンセプトの検証を行い、パーソナライズ治療を実現できることが確認できたという。Inopase は、デバイスを病院に販売し、病院は健康保険の適用のもと、その費用を回収することができる。ニューロモジュレーションは毎年12%以上のペースで成長が見込まれ、グローバルでは今後5年以内に市場規模が50億円を超えると見られている。

Inopase は100万米ドルの助成金を受けており、最近、シードラウンドで2つの投資家から資金を調達した(投資家名や金額規模に関する開示はされていない)。2024年初めに300万米ドル規模のシリーズ A ラウンドでの調達を目指すとしている。

<ヘビー級(バリュエーション250万ユーロ以上部門)優勝> Magic Shields(浜松)

Image credit: Osaka Innovation Hub

足腰が弱くなる高齢者に転倒事故はつきものだ。事実、65歳以上の高齢者の3人に1人が転倒しており、日本国内で毎年100万人が骨折している。特に高齢者は骨折をきっかけに寝たきりになり、そこから、認知症や要介護状態になるケースも少なくない。転倒時の骨折を防ぐために、病院や介護施設ではスポンジマットやジョイントマットが使われてきたが、十分に衝撃を吸収できなかったり、歩きにくかったりするなど課題は少なくなかった。

Image credit: Magic Shields

ヤマハ発動機出身の下村氏が開発したのは、普段歩いた時には十分な硬さがあって、衝撃があった時にのみ柔らかくなるメカニカルメタマテリアル(微細なユニット構造を周期的に積み上げて自然界にはない物性を実現する人工材料)だ。この素材を使った「ころやわ」は、マットやリフォーム時に部屋全体に敷き詰める床材として活用されている。この1年で、病院や高齢者施設などに400件以上で利用されている。設定体重である40kg以上の人が転倒したケースで、これまでに骨折が起きたケースは無いという。

Magic Shields が2020年9月に実施したシードラウンドでは、IDATEN Ventures、守屋実氏、⼤冨智弘氏から4,000万円を調達した。また、2021年11月に実施したインクルージョン・ジャパンがリードしたラウンド(ラウンドステージ不明)では、Monozukuri Ventures、信金キャピタル、グロービスが参加し1.4億円を調達した。

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