UBV、2022年のSaaS業界分析レポートを公開——データで見る「業界第2章突入論」の全貌

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Image credit: UB Ventures

UB Ventures は9日、スタートアップなどが開発した SaaS 領域を中心に、業界動向のデータを集約し分析したレポート「UB Ventures SaaS Annual Report 2022」を公開した。UB Ventures は2020年、ユーザベースの「SPEEDA」出身でデータの収集や分析などに造詣の深い早船明夫氏をチーフアナリストに迎え、SaaS リサーチチームを設置した。このレポートはこのリサーチチームを中心に、UB Ventures のパートナー、プリンシパル、アソシエイトらが協力して作成、昨年から発行されている。

UB Ventures は事業開始から5年目を迎え、これまでに3本のファンドを運用、すべてのファンドを合計した規模は約80億円に達している。会社としては IoT、メディア、メタバース領域も投資スコープに含めているが、2018年に組成したファンド「UBV Fund-I」はデジタルメディアと B2B/SaaS に特化している。「SaaS バブル」や「SaaS オワコン説」といった言葉に象徴されるように業界トレンドが市況感で語られがちなのに対し、同社では INITIAL などグループ企業の資源なども活用し、定量的なデータの観点からレポートをまとめたという。

世界銀行の報告書によれば、日本を含む東アジアでは、先進国や中所得国を中心に2040年までに労働力人口が15%も減少する可能性があると見られ、世界的に見てもこのスピードは他所で類を見ないものだ。少ない労働人口で現在以上の経済規模を維持するには業務を効率化する必要があり、SaaS が顕著に成長を続ける上での原動力になっている。ガートナージャパンの調査によれば、日本企業の SaaS 導入率は2021年現在39%、前年比8%増という順調な成長を見せた。ファーストアダプションを終えたという意味で、SaaS 業界は第2章に突入する前夜だ。

SaaS オワコン説の一つの根拠と考えられるのが株価によるものだ。一部 SaaS 系スタートアップでは、上場・公開時の初値が公募売出価格を下回る「公募割れ」が続いており、これが結果的にイグジットの小型化に繋がっている。UB Ventures の代表取締役でマネージング・パートナーの岩澤脩氏は、上場 SaaS 企業では特に ARR(年間経常収益)などのファンダメンタルズを見て状況を判断すべきだ、と指摘する。日本国内では上場 SaaS 企業を中心に ARR 200億円超えが2社、100億円超えを入れると全部で7社と堅調な推移を見せている。

ARR 100億円を超える SaaS 企業を目指すには、単一の SaaS プロダクトだけでは難しい。上場 SaaS 企業の中にも、第2のサービスを打ち出すケースが増えているのはそんな背景からだ。これは、先月大型資金調達した LayerX 代表取締役の福島良典氏が披露した「コンパウンドスタートアップ」の概念とも合致する。レポートでは、100億円を超える SaaS 企業の事例として、Sansan、サイボウズ、freee、マネーフォワード、インフォマートのがこの流れに沿っていると紹介、ARR 100億円超えの要件と定義した。

一方、SaaS スタートアップは市況感も相まって、バリュエーションが下がっていることも事実だ。岩澤氏はこのことによって、SaaS 企業が SaaS 企業を買収したり、事業会社が SaaS 企業を購入したりする動きは加速するだろう、と指摘する。実際、UB Ventures の親会社であるユーザベースも昨年12月、アメリカの PE ファンドである Carlyle Group が TOB(株式公開買付)で買収することが報じられた。バリュエーションの変化により、SaaS は買う側から買われる側へと変化しているのだ。

このことによって、SaaS スタートアップには、PE ファンドに売ることでイグジットするという選択肢が新たなスタンダードになるだろう。実際、アメリカの VC が投資先スタートアップをイグジットさせる事案では、全体の20%ほどが PE ファンドへのイグジットとなっており、セカンダリマーケットと相まって、IPO 以外のイグジット選択肢が充実してきていることが窺い知れる。(イグジットではないが)ユーザベースの例に見られるように、遅かれ早かれ、こうした流れは日本市場にももたらされるだろう。

上場 SaaS や SaaS スタートアップの優劣を分けるのは何なのか。そのヒントはやはり、前述したコンパウンドスタートアップの考え方にあるようだ。成長が鈍化すると、投資家の評価を得るべく PER(株価収益率)を確保するために、企業は新規のプロダクト開発への投資を抑制せざるを得なくなってしまう。SaaS スタートアップにとっては、リソースが許すなるべく早い段階で複数プロダクト開発に舵を切ることで、後々、骨太で成長性の高い道に進める可能性が高まる、というわけだ。

UB Ventures SaaS Annual Report 2022 は、ここからダウンロードできる。

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