
本稿はアクセンチュア・ベンチャーズによる寄稿。Web3に関するポッドキャストのインタビューシリーズはこちらで読める。
テレビ朝日とtreavryは3月25日、エンタメ領域のクリエイター×エンジニアを中心とした「WEB3 x Entertainment Creative Hackthon/Ideathon」のキックオフイベントを都内で開催した。このイベントではWEB3領域のマスアダプションを促進することを目的に、参加するパートナー企業と協力してアプリケーションまたはアイディアを生み出すことを狙う。
テーマはMUSIC、GAME、NFTで、ハッカソン・アイデアソンの受賞は4月22日のDEMODAYで発表される。クリエイター参加支援パートナーには、NOKID、シンセカイテクノロジーズ、cryptex、AKA Virtualなどが含まれる。

今回のハッカソン・アイデアソンには企業スポンサーがついており、それぞれ賞金を含めた各賞が用意されている。キーノートに登壇したHEART CATCH代表の西村真里子さんは各国で開催されたNFTカンファレンスなどの体験を共有した。
「ロサンゼルスに行った話です。ちょうど1年前の2022年3月に、デジタルの価値をどのようにフィジカルに持ってくるかという話が盛んにされていました。特にデジタルファッションの分野で、例えば今日私がアーティファクトの服を着ていますが、NFTだけではなくそれにプラスアルファという要素があるとコミュニティとしても面白くなるという話や、サイネージを活用するという話もありました。ただディスプレイに表示するだけでなく、例えば新しいデジタルディスプレイを使うものもありましたし、古い時計の中にディスプレイを埋め込んだり、NFTの世界観と同じようなフィジカルな家具にNFTを入れるような形も試みられていました。今回の企画でも、デジタル上の価値をフィジカルで見せる方法が重要になると思います」。

本稿では25日に実施されたキックオフイベントから、エンターテインメント中心に語られたMusic&Globalセッションを中心にお送りする。登壇したのはアクセンチュアの宮本明佳さん(Web3 Focused consultant)とテレビ朝日ミュージックの塚田光氏、モデレーターはアクセンチュアの中谷踏太郎氏(Accenture Song)が務めた。
レコードやCDなどの著作・販売モデルからSpotify・Apple Musicなどのストリーミングへ大きく変遷したのが音楽・楽曲ビジネスだ。買い切りの購入からネットを通じた配信、月額課金の聴き放題モデルに体験が変化する中、新たなブロックチェーン、Web3インフラはどのようにこの体験を変えるのだろうか?

まずショーケースとして気になるプロジェクトは?と聞かれたテレビ朝日ミュージックの塚田氏は「VEGTU music ASP」を挙げつつ、まだまだ黎明期であるとその課題を指摘した。
「最近、アメリカで人気の高い「VEGTU music ASP」が、NFTとして音楽を販売するサービスを提供していることが知られています。Jay-Zさんをはじめとする著名なアーティストが楽曲を出しており、支援者はステーブルコインを使用して出資することができ、収益分配ができるサービスです。しかし、一般的なユーザーがまだNFTに対するハードルを感じていることもあり、まだまだ普及には課題があると思われます」。
同時に塚田氏は国内で音楽プロダクションとして、サカナクションやBUMP OF CHICKENなどを擁するHIP LAND MUSICが仕掛ける音楽系Web3プロジェクト「DS3」を挙げた。アーティストやファン、投資家を繋ぐコミュニティ型の国内プロジェクト「FRIENDSHIP.DAO」を立ち上げている。
同じく登壇したアクセンチュアの宮本さんもまた、Audiusを例に挙げつつ、従来型のストリーミングサービスという体験では、Web3の良さが発揮できないかもしれないと指摘していた。

「Web3系の音楽ストリーミングサービスであれば、Audiusなどがありますが、それだけでなく、アーティストとリスナーのコミュニティを結びつける、限定ライブイベントやグッズ販売などのビジネスモデルとの組み合わせが一つのファクターとなるかもしれません」。
Audiusは2019年に立ち上がったブロックチェーンベースの分散型音楽ストリーミングサービスで、アーティストが直接プラットフォームに楽曲をアップロードし販売できるもの。AUDIOという独自の通貨を使ってプラットフォーム上の決済に利用できる。同様のサービスとしてはStream Holeがあり、こちらも従来からあるSoundCloudやBandcampなどの配信サービスにWeb3を組み合わせたものだ。アーティストが仮想通貨(クリプト・暗号資産)を使ってファンに直接音楽を販売でき、より複雑な収益分配モデルを可能にするNFTやスマートコントラクトなどの機能も提供されている。
ではそもそもなぜ音楽業界・アーティストたちはこのようにWeb3やNFTの動きに敏感なのだろうか?その背景にはビジネスモデルの大きな変化が関係しているという。塚田氏は次のように語る。
「ディストリビューションだけであれば、こういった既存のサービスもありますし、Web3的なサービスもあります。ただ、アーティストにとってはサブスクリプションが一般的になっているため、印税収入が激減しているという現状があるんです。かつてはCDが主流で、1枚につき数百円から1,000円も入ってくるような時代がありました。現在は、Spotifyであっても、1再生あたり0.何円という低い単価が一般的な世界になっています。そのためグッズ制作、NFT、ライブ制作など、他の収入源を確保することが必要となっているんです」。

今回モデレートを務めたアクセンチュアの中谷氏は実際にアーティストとコラボレーションしてNFTを販売した当事者でもある。彼はその時の経験を次のように語った。
「実は、私も個人で音楽NFTをリリースしたことがあります。それは、ある覆面アーティストと一緒にリリースしたもので、日本で初めての音楽NFTでした。その時の経験として逆にアーティスト側の問題点を感じたんですね。というのも、音楽は広くあまねく、多くの人に聞いてもらうものであるため、アーティストにとっては不安を感じる場面もあったんです。さらにNFTプロジェクト音楽において、アイドルの肖像権に関する問題があります。たとえば、メンバーによっては売れ残ってしまうことがあります。音楽は、音楽をかけるだけでなく、ブランディングの一環としても非常に重要なポイントとなるため、この問題を解決する必要があると思います」
NFTというクローズド・コミュニティだからこそできることもありつつ、クローズドにすることでオーディエンスが限られてしまう。このジレンマをどう解決するべきか。
さらに塚田氏は現状でウォレットやNFTがまだマスに到達していない状況を考慮した上で、プロジェクトのマーケティング戦略が重要になってくると語る。
「日本でヒカキンさんレベルのような影響力のある人物が一般の人たちに広めてもらう必要があると思います。マーケティングでどう見せるかというところで、必ずしもNFTであったりWeb3という形で打ち出す必要はなく、人々にどのように捉えられるかという点が重要なポイントになるのでは」
NFTを使えば会員証のような使い方も可能になる。アーティストのファンはこれまで自分がそのアーティストのファンであったことを証明することは難しかった。しかしNFTがあれば確実な証明となる。また、中谷氏はアーティストとコラボレーションした経験から、例えばアートワークを担当したクリエイターにも光が当たる点がこのインフラのよい点であるということも指摘していた。
Web3やNFTのようにデジタル資産の所有を証明してくれるインフラをどのように活用し、新しい体験に繋げるのか。ハッカソンの結果は4月22日にお披露目される。
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