ChatGPTで財務分析、アフリカの水問題解決ーーシード9社が登壇したMonthlyPitch、登壇企業の累計調達額は1,000億円に

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創業期の起業家向けピッチステージ「Monthly Pitch」は4月12日に69回目となるイベントを開催しました。主催するサイバーエージェント・キャピタルはこれに併せ、参加スタートアップの登壇後累計調達額が1,000億円を突破したことも公表しています。これまでに登壇した企業は520社で、今回は9社が新たにステージに登壇しています。会場とオンラインに集った100名を超える投資家に向け、起業家たちはサービスのプレゼンテーションを披露しました。

本来は投資家と起業家のみの招待制・非公開イベントですが、本誌BRIDGEではメディアパートナーとして参加しております。本稿では登壇した9社の公開できる情報をお届けいたします。

MonthlyPitch登壇企業の資金調達額が1,000億円に

MonthlyPitchは冒頭にも記載した通り、参加したスタートアップのイベント登壇後の累計調達額が1,000億円に到達したことを公表しました。これはMonthlyPitchに出場したシードスタートアップがその後、プレスリリースなどで公表している開示情報をもとに集計したものだそうです。

MonthlyPitchを運営するサイバーエージェント・キャピタルの北尾崇さんはこのイベントを立ち上げた一人です。2016年、当時まだサイバーエージェント・ベンチャーズという社名だった時、同じくキャピタリストだった波多江直彦さん(現在はイークラウド代表)と白川智樹さん(現在はmint共同GP)と共にこの取り組みをスタートさせました。

登壇企業の登壇後・累計調達額が1,000億円を突破したMonthlyPitch、進行を務めるサイバーエージェント・キャピタルの北尾崇さん

登壇した520社から思い出に残る企業をお聞きしたところ、さすがに選べないとしつつ、このイベントをきっかけにギリギリのところで次の調達が決まって急成長したネクイノ(スマルナ運営)や、先日上場を果たしたホロライブのカバー、MUFGグループインしたカンムなどを挙げてくれました。

しかし、他の多くのイベントがそうであったように、コロナ禍の時期はMonthlyPitchも例に漏れず、苦しい時間を過ごしたようです。北尾さんは次のように振り返ってくれました。

「本当によく続けられたなと思っています。今ではハイブリッド(オンライン配信+ライブステージ)でクオリティを担保しながらやっていますが、とにかく続けるのに必死で、コロナ禍でもイベントを継続させていくために試行錯誤しながら進めていました。ただ、やっぱりオンラインのみでの開催だと、人柄の部分などが伝わりきらず、最後に投資家の方々が踏み切れない部分はあったんじゃないかなと思っています」(北尾さん)。

一度に100名近くの投資家と会えることから、参加者の参加意欲も随分と上がっているというMonthlyPitch。ChatGPTなど新しいトレンドもやってくる中、次の展開として次のように語ってくれました。

「ESGの文脈や若者起業家、外国人起業家、女性起業家の登壇数を増やし、バラエティ豊かで、わくわくするような、夢を与えられるような場所にしたいと思っています。また、地方のスタートアップエコシステムを強化し、各自治体と協力して地方のスタートアップに投資を促進する仕組みだったり、海外からの起業家も参加できるような、そういった展開を考えています」(北尾さん)。

では、続いて登壇したスタートアップのサービスをご紹介いたします。

「Ikigai」でインドのマッチングを変える「native.」

川本寛之さん(Funverth Pvt. Ltd)
Funverth Pvt. Ltdの川本寛之さん

元ベンチャーキャピタリストであり、OYO Japanの立ち上げも経験された川本寛之さんが提供するのが占いをベースにしたデート・アプリ「native.」です。2015年からインドを拠点に投資や事業を手掛けた彼はインドにある独特のマッチング文化の変遷に触れたと言います。インドでは従来からお見合い結婚が主流なのですが、現在は徐々に自由恋愛にシフトしている状況があるのだとか。そこで若者たちがマッチングの判断として重要視しているのが「占い」です。

さらに川本さんは「占い師」としての顔も持っていて、その経験を活かし独自の「生きがいグラフ」を考案しました。インドでも日本の生きがいは「Ikigai」として広く知られているそうで、この内面や価値観に基づくマッチングを提案しています。

創業メンバーには、インドのスタートアップ経験者や現地のエンジニアが含まれています。ターゲットは、20代中盤以降で一定の所得を持つ、自立した価値観を持つ女性。カジュアルなTinderや結婚重視のShaadi.comの中間を狙うそうです。

アメリカの冷凍・冷蔵食品EC向けの物流DX「RestUp」

RestUpの田中優祐さん

RestUpはアメリカの冷凍・冷蔵食品EC事業者向けの物流DXを手がけるスタートアップです。アメリカの冷凍・冷蔵食品市場は成長市場で、2026年までにEC化率が10%に達すると予想されながら、物流周りはまだ非効率で旧態依然としている状況があるそうです。例えば日本のクール宅急便のようなサービスがなく、ダンボールにドライアイスを詰めて運ぶためトラブルが多いという課題があるのだとか。

EC事業者は、配送ミスによる返金や再配送コストで利益が圧迫されており、田中さんが示した試算によると年間で1,000億以上のロスが計上されているそうです。そこで田中さんたちはデータを活用して配送ミスを防ぐ方法を提案します。それがFrostです。

SalesforceのBIツールのように使える、冷凍・冷蔵食品向けのダッシュボードがFrostです。EC事業者のオーダー管理システムやデータをこのダッシュボードに繋ぎ、物流データを一元管理できるようにすることで、配送ミスを事前に予測し減らします。現在は数社のカスタマーアドバイザリーボードと共に検証中。対象カテゴリーにはミールキット、生鮮食品、ペットフード、デザート、ワインなどが含まれます。

アフリカの水問題解決「Sunda Technology Global」

Sunda Technology Globalの坪井彩さん

プリペイド式自動井戸料金回収システムでアフリカの水問題解決に挑むのがSundaです。アフリカの農村部では、安全な水へのアクセスが難しく、汚い水を生活や飲料水として使っている人が多いです。問題解決のためには、井戸の数を増やすだけでなく、持続可能な管理が重要です。

そこでSundaでは既存のハンドポンプに進んだユニットハードウェアを設置し、リアルタイムで水の利用データを使って井戸の稼働状況をモニタリングするシステムが提案されています。モバイルマネーでチャージし、ポンプに設置された端末にIDタグを挿入することで水を汲むことができる仕組みです。

また重要な生活インフラであることから政府との関係が重要で、彼女たちはウガンダの水環境所と連携しているのも特徴のひとつでした。2020年から少しずつ設置し、現在5万人以上が安全な水を利用できるようになっています。

DAOの立ち上げプラットフォーム提供「N.E.W DAO」

NEW Verseの劉松然さん

暗号資産取引所のフォビ・ジャパンの立ち上げ時にHuobi WTに入社し、PMとして参加した劉松然氏が発表したのがDAOの立ち上げプラットフォーム「N.E.W DAO」です。DAOを立ち上げるのに必要なトークンの設計やインフラとなるパブリックブロックチェーンなどを提供します。

特に彼らが主担当として開発しているパブリックチェーン「Micro Vision Chain(MVC)」は、Proof-of-Work(PoW)コンセンサスとUnspent Transaction Output(UTXO)モデルに基づくパブリックブロックチェーンで、1月に世界で最速のトランザクションを記録したそうです。スマートコントラクトや分散型ID(DID)ソリューションにも対応しています。

ChatGTPで財務分析も「ジュリオ」

ジュリオの姥貝賢次さん

請求書受領サービスのジュリオは受け取った紙、メール、Webダウンロード版の請求書をPDF化し、専属オペレーターがアップロード済みの状態で経理業務をサポートするサービスで、インボイス番号の照会などにも対応しています。代表の姥貝賢次氏が公認会計士の資格を持っているエンジニアで、クラウドシステムの部分対応ではなく、請求書受け取りから処理までサービスを提供しているのが特徴です。

今後、支払いまで対応することで経理にまつわる全ての業務を丸ごと支援しようとしています。導入している社会福祉法人では業務効率化が成功し、月100時間削減された事例があるそうです。

また、請求書受領サービスで集めたデータを解析するために、ChatGPTを利用した財務GPTというプロダクトを開発しており、ニーズが高いことから単体販売もするそうです。テンプレートが揃っており、ワンクリックで財務分析が可能になっているほか、エクセルから簡単にコピー&ペーストでデータを入力でき、分析結果は表やグラフといった視覚的な情報も表示できるようです。

セキュリティ対策も強化されており、機密情報が入力可能になっています。ターゲットはエクセルを使う全ての人で、銀行や税理士などからすでに相談が来ているとのことで、4月中のリリースを予定しています。

CtoC型のパーソナル美容レッスン提供「palplat」

palplatの松田拓也さん

CtoC型のパーソナル美容レッスン「blush」を紹介したのがpalplatの松田拓也さんです。松田さんは外資コンサル出身で、COOは化粧品メーカーに勤めていた経験があり、ITと化粧品業界を組み合わせた事業を立ち上げました。メイクを習いたい・教えたいユーザーアイデアをマッチングし、チャットやビデオ通話などのコミュニケーションツールでレッスンを提供できるサービスECが「blush」です。

松田さんは主婦や働く女性が自信を持てるメイクやファッションに出会う機会が少ないことを課題に、従来の美容業界では、大手企業がマーケティングやセールス型の販売を行い、ユーザーは自分に合った商品を見つけることが難しい状況を指摘。ブランドやユーザーにとって、今後は多様化に対応する必要があり、サイズや体験価値に対するニーズが高まると予想します。

現在はパーソナル領域での体験・サービスEC事業にフォーカスしつつ、コミュニティやメディア、ECなど総合的なサービスを提供していくことを目指しています。

薬局業務のクラウド化支援「プレカル」

プレカルの大須賀善揮さん

薬局向けSaaSを展開するのがプレカルの大須賀善揮さんです。薬剤師とエンジニアの二つの顔を持つ大須賀さんは薬局における現場の課題を理解しており、薬局が携わる調剤方法の指定、加算設定など専門的な知識が問われる部分の属人化を減らして効率化を図ろうとしています。

特に課題として挙げたのがレセコン関連の業務です。レセコンはレセプトコンピューターの略で、医療機関で診療報酬を請求するためにレセプト(診療報酬明細書)を作成するコンピューターシステムを指します。患者の登録や受付、保険証の確認、診療内容の入力など複雑な情報を入力する必要があり、プレカルでは処方箋の自動入力とこのレセコンの二つのサービスを展開しています。

大須賀さんのお話では現在、このレセコンはオンプレミス型しかなく、端末や設置、操作体験に課題があったそうです。しかも処方する薬にまつわる重要な情報を入力することから、薬局のほぼ全ての業務にデータを提供するプラットフォームとなる役割を担うものになるのだそうです。そこでプレカルではこれをクラウド化し、内外との連携を促進することで体験や薬局のデジタル化を促進しようとしていました。開発は去年10月にスタートし今年5月に本番リリース予定。

ボタン一つで機械学習モデル化、AIプラットフォーム提供「TechSword」

TechSwordの長島慶樹さん

日本国内でディープラーニングやAI技術を扱える人材が不足している課題を解決するため、AIプラットフォーム「TechSword Platform」を開発しているのがTechSwordです。知識やスキルがゼロでも画像認識のAIを簡単に開発・実装・運用できるとしています。

例えば製造業で不良品を検知するためのAI(機械学習モデル)を作る場合、TechSword Platformを使えば100枚から数百枚の画像をアップロードしてGUI操作で対象を認識し、アノテーション(AIに学習させるための教師データを作成すること)作業することができます。ボタン一つで機械学習モデル化が可能で、複雑な作業はバックエンドで自動化されており、誰でも簡単にAIモデルが作れるそうです。

さらにTechSword PlatformではエッジデバイスやGPU搭載コンピュータへの組み込みも含めた一貫したプロセスを提供しているのが特徴になっています。開発する長島慶樹さんによると、画像認識AI市場は拡大しており、中長期的な戦略として総合的なAIプラットフォームを目指していると説明されていました。

独自の制作スタイルでヒット量産、ウェブトゥーン制作「taskey」

taskeyの大石弘務さん

スマートフォンで漫画が読めるようになって以降、漫画がグローバルに広がり、ウェブトゥーンというフォーマットが人気を集めています。しかし、日本の漫画はこれらのプラットフォームにあまり載っていないという状況があります。そこでtaskeyは国産のウェブトゥーンを制作配信するtaskey STUDIO を立ち上げました。

事業を展開するtaskeyの大石弘務さんは現役の小説家・漫画原作者でもあり、2022年5月から開始した事業は売り上げが急成長しています(MonthlyPitch会場参加者のみの情報のため非開示)。というのも、taskeyでは独自の小説アプリpeepを提供しており、制作コストの安価な小説からヒットした作品だけを漫画・ウェブトゥーン化しています。これにより、ヒット率が高くなっているというお話でした。

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