SXSW Pitch 受賞スタートアップ11社ご紹介ーーSXSW2023現地レポートVol.2

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

KDDI Open Innovation Fundのサンフランシスコ拠点では、北米や欧州のスタートアップ企業への投資や事業連携を目的として活動しています。このコーナでは現地で発見した最新のテクノロジーやサービス、トレンドなどをKDDIアメリカの一色よりお送りします。

今回は、3/10~19にアメリカテキサス州オースティンにて開催された大型テックイベントSXSW 2023(South by Southwest / サウス・バイ・サウスウエスト、以下SXSW)の中で開催されたスタートアップピッチイベントの概要についてお伝えします。

SXSW Pitch概要

今年で15回目の開催となるSXSW Pitchは、SXSWの中でも特に注目を集めるイベントの1つです。今年は3/11~12の2日間にかけて、731の世界中の応募者から厳選された40社のピッチが行われました。

1つのカテゴリにつき1時間ずつのプログラムとなりますが、どのプログラムも会場は満員で、開場前には参加希望者の長蛇の列ができ、会場内に入れない人が続出していました。今年のカテゴリは以下の8つです。

  • Artificial Intelligence, Robotics & Voice(AI/人工知能、ロボティクス&音声)
  • Enterprise & Smart Data(エンタープライズ&スマートデータ)
  • Entertainment, Media & Content(エンターテイメント、メディア&コンテンツ)
  • Food, Nutrition& Health(フード、栄養&健康)
  • Future of Work(未来の働き方)
  • Innovative World Technologies(イノベーティブな世界的技術)
  • Metaverse & Web3(メタバース&Web3)
  • Smart Cities, Transportation & Sustainability(スマートシティ、移動手段、サステナビリティ)
HP:SXSW Pitch

昨年のカテゴリと比較すると、AIやサステナビリティ、メタバース、Web3というようなより話題性のあるネーミングがなされていることがわかります。審査基準はクリエイティビティ、ポテンシャル、善良性(Goodness)、機能性、チームの5つで、各カテゴリごとにそのマーケットでのトッププレイヤやVCなどの有識者による質問とジャッジが行われます。

今年の受賞者

今年のSXSW Pitchでは、「Best In Show」「Best Bootstrap Company」「Best Speed Pitch」「Best In DEI」の4つの賞が用意されました。また、各カテゴリごとの優勝企業も発表されました。

一色
まずは各タイトルの受賞企業について紹介します!

Best In Show:PentoPix

おそらくSXSW Pitchで最も権威ある賞であるBest In Showは、Entertainment, Media & ContentカテゴリのPentoPixでした。PentoPixは、AIを使ってテキストから3Dアニメーションをものの数分で作れる、今話題のGenerative AI(生成AI)を使ったプロダクトです。コーディングや特別なスキルを必要としないため、映画やゲームなどのコンテンツ制作を飛躍的に簡単に、早く、安価に進めることができます。実際に彼らのサイトを見ると、映画監督やアニメーションスタジオから高い評価を得ていることがわかります。

PentoPixの利用イメージ。左側に入力されたスクリプトが、3Dアニメになって具現化される。

Best Bootstrap Company:AMA

AMAは、サステナブルな行動を広めていくことを目的としたソーシャルネットワークを構築するブラジルのスタートアップです。AMAのサービスのフィード上ではユーザーの近所で開催されるサステナビリティに関連する環境保護活動やイベントがタイムライン的に表示され、ユーザーはは自分の興味のある活動に参加することによって、リワードを得ることができます。こちらの企業は今年のClimate Smart Cities Challang2022というイベントでも表彰されたそうです。

Best Speed Pitch:LeadrPro

LeadrProは、適切なSaaSプラットフォームの提供者とユーザーを直接繋ぐオンラインマーケットプレイスを提供しているLAのスタートアップです。B2B SaaSプラットフォームのリード獲得に用いられる手法は、アメリカでは一般的にはEメールかLinkedInで、私のもとにも読み切れないほどのメールやLinkedInメッセージが届くのですが、成約に繋がるコンバージョンレートはかなり低く、効率が良いとは言えません。LeadrProはそこに目をつけ、高精度なアルゴリズムによって提供者と購買見込みの高いユーザーをマッチングするため、双方にとって効率的なサービス選定が可能となります。実際にAmazonやTeslaなどの有名企業を含む1万以上のユーザーを獲得しているそうです。

Best In diversity, equity, and inclusion:CreditRich

CreditRichは、ユーザーのクレジットスコアを上げるサポートをするC向けのアプリです。アメリカでは、クレジットカードの利用履歴やローンの返済実績などのクレジットヒストリーを踏まえた個人の財政的な信用度がスコア化されており、これをクレジットスコアと言います。クレジットスコアが一定数まで到達しないと、現地のクレジットカードが作れなかったり、家の購入や賃貸ができなかったりするためにスコアを上げることが非常に重要です。CreditRichのアプリにローン書類や請求書を登録すると、支払いの優先順位を独自のアルゴリズムで自動的に選定してくれます。

HP
一色
続いて、カテゴリごとの受賞者についても紹介します!

Artificial Intelligence, Robotics & Voice:Reality Defender

Reality Defenderは、有害なジェネレーティブコンテンツやディープフェイク(AI技術を応用し、画像や動画の中の人の顔などの一部を入れ替える技術)を未然に発見するプラットフォームを提供しています。技術の高度化によってディープフェイク被害は年々高まっており、影響を受ける領域も拡大しているそうですが、Reality Defender はトップレベルのAIリサーチチームによって高品質なサービスを開発することに成功し、マイクロソフトやVISAなどをクライアントとして獲得しているようです。昨年Yコンビネーターにも選出されている注目企業です。

Enterprise & Smart Data:Climatiq

Climatiqは、カーボンエミッション(CO2排出量)を自動的に計算するAPIを開発しています。APIを自社のソフトウェアに組み込むことによって日常的なCO2排出量を自動的に算出、分析できるため、よりサステナビリティを意識した経営判断を迅速に行うことができます。Climatiqはドイツの企業ですが、こうしたサステナビリティにフォーカスしたスタートアップはヨーロッパから多く出てきており、この企業が使用するデータベースは政府から提供されたものであるとのことです。

HP

Food, Nutrition, & Health:Reach Pathways

Reach Pathwaysは、学生がメンターや企業とインタラクティブに繋がることができるメタバース空間を構築しています。ゲームのようなUIでユーザーはアバターを作ってバーチャル空間に参画し、インタビューやインターンシップなどのリアルの世界でのタスクをこなすことによってリワードを得ることができます。企業にとっても、行動的な優秀な学生層にアクセスできるというメリットがあります。特に移民の優秀な学生は自分の希望する職種や企業とマッチングするよい機会が得づらいという課題があるそうですが、Reach Pathways はそのような背景に目を向け、シカゴで5,000人以上の学生をサポートしてきた実績があります。

Future of Work:General Prognostics GPx

General Prognosticsは、スマートウォッチとアプリにより、医師がリモート環境でも患者のバイオマーカーデータを常時収集してモニタリングし、悪兆候を事前に検知するソリューションを提供しています。血液を採取することなく独自のアルゴリズムを用いて、長期的なバイオマーカーの傾向を高精度に分析し、心不全患者などの血液異常を早期に発見することができるとのことです。この企業の共同創業者は松岡さんという方で、会社はボストンを拠点としていますが、今回のSXSW Pitch出場企業の中で唯一お会いした日本人でした。このような大規模のピッチイベントで脚光を浴びる日本人の姿を見ると本当に感銘を受けます。

Innovative World Technologies:SXD Ai

SXD Aiは、ファッションデザインに特化したソフトウェアを提供しているニューヨークの企業です。パターン制作の際に布地の無駄を一切出すことなくスケッチ通りのデザインができるサステナビリティを意識したプロダクトとなっています。サイズやカーブがあるような趣向を凝らしたデザインにも広く対応できるようになっており、クリエイティビティを損なわず布地を無駄にしないパターンをレコメンドします。そのため布地にかかるコストも抑えることができます。

SXD Aiの利用イメージ。ドレスのような美しく複雑なデザインでも布に無駄な部分がない。

Metaverse & Web3:Numbers Protocol

Numbers Protocolは、ブロックチェーンを活用してコンテンツの真贋判定を行い、写真や動画などのコンテンツの証明書を発行・追跡できることができるソリューションを提供する台湾の企業です。1日あたり250万ものライセンスされていないコンテンツが盗用されたり無断編集などの被害に遭うそうなのですが、そのような無制御な環境からコンテンツを保護し、デジタルメディアの信頼性を高めるというミッションを持っています。デモも見せてもらったのですが彼らのWeb3カメラアプリCaptureを使って撮影し、ワンクリックでそれをNFT化できるので非常に簡単なステップでした。

Smart Cities, Transportation & Sustainability:Urban Machine

Urban Machineは、建設や解体産業において大量に廃棄される木材を、高級な木材製品に再生させるソリューションを提供するカリフォルニアの企業です。AIを使いながら木材に混在している釘や留め具などを取り除き、木材製品へと再生させることによって、環境へのインパクトを減らしながら生産性を向上させることが可能になります。彼らのWebサイト上ではAIドリブンな各工程の機械の動きが動画でわかりやすく示されています。

HP

最後に

今回はSXSW Pitchについてお届けしました。一通り見てみると、ヘルスケアやファッションなど、特定のジャンルに特化したバーティカルなAIが発展し、各領域の生産性やサステナビリティ性を一層高めていることが印象的でした。次回は主だった出展ブースについて紹介したいと思います。

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