小売業大手J.フロントリテイリング、CVCが伝えたい社内と社外へのメッセージとは

「JFR Mirai Creators Fund」のチームメンバー
Image credit: J.Front Retailing

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」掲載された記事からの転載

J.フロントリテイリングは、大丸松坂屋百貨店、パルコを中心に、デベロッパー事業、決済金融事業など、小売り業以外にも幅広く事業を展開しています。中期経営計画に基づき、お客様への価値提供を拡大するため事業ポートフォリオの変革と新規事業の開発を加速させていますが、特に注目すべきは、新たに設立されたファンド「JFR MIRAI CREATORS Fund」を通じて未来志向のスタートアップと共創する姿勢。今回、この革新的な取り組みを牽引するファンド担当者である下垣氏、大和氏にスポットを当て、その戦略と展望を探ります。

JFR MIRAI Creators Fund について教えてください。

下垣徳尊(しもがき・のりたか)氏
Image credit: J.Front Retailing

下垣:JFR MIRAI CREATORS Fund は2022年9月、J.フロント リテイリンググループの CVC として二人組合で組成しました。共同運営していただいているのがイグニション・ポイントベンチャーパートナーズさんです。ファンド規模は30億円で、チケットサイズは1,000万円から2億円まで、シードからレイターまで幅広いステージを対象としています。

ビジョンとして、「未来をより良く、面白くすること」を掲げており、新たな価値を生み出すための投資方針を大きく2つ設定しています。1つ目は、人々のライフスタイルや働き方、時間の使い方などをアップデートするような投資です。もの人、人と人との関わりや繋がり、コミュニケーションのアップデートを目指し、他者との関わりを強化する投資を行う予定です。

私たちはリテールに重点を置いているため、コロナ禍の第一波や第二波の時期は非常に激しい影響を受けました。全ての店舗が休業し、数ヶ月間にわたって営業が停止するという非常に厳しい時期もありました。その時に、私たちはオフラインでの強みを持っている一方、デジタル化が遅れていたこともあり、お客様と店舗の関係性や販売に関わるお客様との関係性を継続的にアプローチする仕組みが不足していたことが浮き彫りになりました。オフラインの脆弱性が顕在化し、大きな課題となったと言えます。

それだけではなく、コロナ禍を通じて緊急事態宣言や自宅での過ごし方を促すような措置が当たり前のようになり、人々の関わりが分断されていく状況が生まれました。個々が自宅に閉じこもるような状況に陥り、その結果、個人としても周囲との関係が途絶え、孤独感やつらい時期を経験することがありました。

未来をより良く、面白くするためには、人々の関わりをコロナ前の状態に戻すだけでなく、それ以上にアップデートしていく必要があると感じました。私たちはこのような困難な経験から、未来をより面白くするためには人と人との関わりが重要であると強く感じ、その方針を掲げています。これが私たちのファンドビジョンの由来となっています。

投資領域を定める際には、当然ながら戦略整合性も重要な要素です。JFRでは、3つの経営戦略——「リアル×デジタル戦略」「プライムライフ戦略」「デベロッパー戦略」——のもと、百貨店やパルコを含めた新規事業をテーマとして、ヘルスケアからエンタメ、そしてディープテックまで、さまざまなテーマで投資を行っています。

2030年を見据えたとき、我々リテールも現状の延長線上ではなかなか進化できないという課題が存在します。そのため、将来の可能性がある領域に種をまくような活動を、2030年までの期間にわたって行っていく必要があります。こういった背景から、私たちはCVCを組成しました。

Fund Vision

この CVC には、社員にイノベーションを促す意図もあるそうですね。

下垣:はい。新規事業創出だけでなく、若手の積極的な参加による人材育成や風土改革の推進など、幅広い取り組みです。社内にはグループ全体で従業員約9,000人がおり、そのうち約2人に1人、約4,800人前後がCVCの取り組みに何らかの形で関与することを目指しています。我々のチームを中心に、新たな挑戦をするエコシステムをグループ全体で形成していきたいという考えを掲げています。

全従業員が新規事業を立ち上げるということではありませんが、販売員をはじめとするさまざまな従業員が、それぞれの立場と役割の中で、このCVCをきっかけに新しい取り組みを行えると良いと考えています。

特に重要な点として、私たちは「内発的動機(ウィル)やりたいと思う気持ちを、我々は具現化する手段として、出資という形で従業員の意欲を支援することを掲げています。これは新規事業を立ち上げたいと考えている従業員に対してアプローチし、支援していくための取り組みです。

社内には販売員を始めとする多くの従業員がいます。我々は多くの従業員と接点を持つために、例えばメルマガ等を通じてCVC活動で得られた情報を発信することで、多くの従業員に社外の情報にアクセスして頂き、発想の転換のきっかけやヒントにしてもらえるような取組も行っています。

JFR さんは、スタートアップとはどんなオープンイノベーションを展開されていますか?

大和隼治(やまと・じゅんじ)氏
Image credit: J.Front Retailing

大和:スタートアップの方々に対しては、全国のパルコや百貨店を活用してPoC(概念実証)を行う提案や、メディアとの連携など、さまざまな支援を行っています。最も重要なメリットとしては、優良顧客基盤を中心にした約600万人のお客様との連携が挙げられます。

過去には、 VACANさんと協力し、百貨店の札幌店内の混雑状況をリアルタイムで解析し表示する取り組みがありました。また、ヘリコプターを運営するAirXとも協力し、百貨店の旅行斡旋や遊覧パッケージの販売などを行っています。ドリコスさんとは、パルコの新規事業「Welpa(ウェルパ)」で協業しています。

The Chain Museum(TCM)さんと JFR さんの出会いのきっかけは何だったのですか?

大和:JFR MIRAI CREATORS Fund は二人組合(GP:イグニッション・ポイントベンチャーパートナーズ、LP:J.フロントリテイリング)で運営されています。JFRが注力している5つの領域にエンターテイメントというテーマがあり、アートもエンタメの一部であるということから、イグニッション・ポイントベンチャーパートナーズから、The Chain Museum(以下、TCM)がJFRさんとシナジーがありそうということで、TCMの既存株主である凸版印刷さん経由でご紹介いただきました。

その流れの中で担当が私になりましたが、百貨店やパルコなどの事業会社にTCMを紹介していく中で、事業会社でも、ArtStickerに注目してたとか、一緒にやりたいと思っていたというような、仲間意識を持った方が結構多かったんです。すごく反応が良く、相性良さそうだなと考えまして、出資させていただくことになりました。

TCM さんと JFR さんで、具体的な協業プロジェクトでお話いただけるものはありますか?

大和:大丸松坂屋とパルコは全国主要都市に店舗がありますので、その店舗やエリアを活用したアートのイベントフェスやギャラリーの展開などが多くなりそうです。協業の第1弾として、6月に大丸神戸店主催「ART WEEKS」とArtStickerによる共同企画展「装いの光芒」を開催します。引き続きリアル・オンラインともに取り組みの検討を進めていきます。

下垣:僕らとしては、全国の主要都市の店舗網や顧客といったリアルのアセットが中心になる傾向がありますが、チェーンミュージアムさんは自社でアプリを開発し、アートの中にOMO(Online merges with Offline)の概念を取り入れている点が非常に素晴らしいと感じています。両者が強みを持つ部分をうまく組み合わせることができればと考えており、現在は百貨店とパルコと共にその内容について話し合っています。

ありがとうございました。

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