証言の作成や契約書の分析を効率化——ロイターに6.5億米ドルで買収されたAI法律事務所「Casetext」の今後

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Image credit: Casetext

30年の経験を持つ弁護士でさえ、AI に騙されることがある。今年6月、ニューヨークのベテラン弁護士 Schwartz 氏は、裁判資料の作成に ChatGPT を利用したが、最終提出資料のうち6件の事件が ChatGPT によってでっち上げられた架空の事件であることに気づかなかった。

しかし、これは AI+法律が役に立たないという意味ではなく、間違った方向に使われているというだけだ。今年6月、新法律データベース「Casetext」が、メディア大手ロイターを擁するメディア複合企業 Thomson Reuters に6億5,000万米ドルで売却されたと発表した。

アメリカ最高裁判所と全50州による主な判決の履歴を保有する Casetext は、AI 技術を使ってユーザが法律を分析したり、証言を作成したり、判例を見つけたりするのを支援し、弁護士が法律文書を探す時間を節約する。 2013年に有名アクセラレーター Y Combinator に採択された。

Thomson Reuters はすでに法律データベース「Westlaw」を保有しており、Casetext と深く連携される可能性があるため、今回の買収は AI 分野における Thomson Reuters の存在感を高めるものと見られている。

創業者は、スタンフォード大学とイェール大学のロースクール出身

創業者の2人。左から:CEO Jake Heller 氏、COO Laura Safdie 氏
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Casetext の創業者の3人——COO Laura Safdie 氏(イェール大学ロースクール出身の元民事訴訟弁護士)、CEO Jake Heller 氏(スタンフォード大学ロースクール出身)、イノベーションディレクターの Pablo Arredondo 氏は、ともにアメリカ第一巡回区控訴裁判所で事務官として働いた経験がある。彼らは、法律リサーチツールのコストが高いために、司法制度で貧困層が不利な立場に置かれることが多いことを発見した。

10年ほど前には、Lexis と Westlaw という法律データベース大手2社は、各国の判例、法律資料、定期刊行物などを恐ろしく高額な料金で提供していた。これらのサービスは、集めた情報をテーマごとに分類し、専門用語の注釈を付加することで、弁護士費用と調査時間を大幅に節約することを可能した。

しかし、法律研究を専門とするブログ「3 Geeks and a Law Blog」によると、2012年、法律事務所 Dewey & LeBouef が倒産した際、同所が年間345万米ドル(約4.9億円)を Westlaw に支払っていたことがわかった。

このような市場のペインを目の当たりにした2人は、このようなデータベースのアクセス制限を打破したいと考え、「知識共有」というコンセプトで Casetext 構築した。このプラットフォームでは、ユーザが法的文書に独自の分析と注釈をアップロードでき、共有された法律百科事典のように、レビューを他ユーザーと共有できる。

800ページの法律文書を3分で読み込み

数年をかけて Casetext は AI 技術も徐々に導入し、2018年に「CARA AI」を発表した。ユーザが法律文書をアップロードすると、CARA AI がそれに関連する他の文書を検索し、従来の法律文書データベース LexisNexis よりも20%速く検索できるようになった。

2023年3月、Casetext は GPT-4 モデルを導入した AI 法務アシスタント「CoCounsel」を発表した。CoCounsel は、法律文書をチャット感覚で簡単に見つけることができ、「法律調査、文書レビュー、宣誓証言準備、契約書分析などのタスクを AI に委ねることで、弁護士は仕事でより重要なことに集中できるようになる」と Heller 氏は言う。

Casetext の AI アシスタントは主にデータ検索に使われ、内部データと外部データの2つの用途に分かれている。内部データの場合、ユーザはまず PDF ファイルをアップロードし、必要な情報を素早く取り出すことができる。Casetext は、証言の準備や弁護士の弁護・弁明を支援する。

外部データという点では、Casetext は Microsoft の Copilot に似ており、ユーザは質問をして回答を得ることができるほか、関連する法的情報源にアクセスすることもできる。

ユーザが法律に関する質問をすると、Casetext が即座に関連法令を回答してくれる。
Image credit: Casetext

Thomson Reuters により買収、AI と法律データベースを補完

アメリカ最高裁判所、連邦控訴裁判所、50の州裁判所などのデータを含む Casetext の データベースは、1万以上の法律事務所や企業法務部門に利用されており、無料版、ベーシック版(月額110米ドル)、アドバンス版(月額400米ドル)のサブスク制で提供されている。2013年、Casetext は Y Combinator に採択され、今年6月には Thomson Reuters に6億5,000万米ドルで買収されたばかりだ。

Reuters は最近、法律、税務、会計、ニュース事業のAI技術に多額の投資を行っており、特に AI アプリケーションをターゲットとした他社買収のために、年間1億米ドル、2025年までに100億米ドルの予算を確保している。

Hellers 氏は、Thomson Reuters のグループに加わることで、Casetext 独自のデータベースを拡張し、法律調査機能を最適化できるとコメントしている。

Reutersにが加わることで、AI 技術を進化させることができ、弁護士だけでなく、他の分野でも役立つことができるだろう。

【via Meet Global by Business Next(数位時代) 】 @meet_startup

【原文】

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