シードスタートアップと伝統企業が資本業務提携に至るまで:明治アクセラレーター「事務方」対談(後編)

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写真左から:Laspyの代表取締役・薮原拓人さん、明治アクセラレーター事務局の明治・井野口萌さん

本稿は01Boosterが運営するサイト「01Channel」に掲載された記事からの転載。

明治と01Boosterは8月、スタートアップとの協業を検証するオープンイノベーションプログラム「明治アクセラレーター2022」の成果報告会(デモデイ)を開催いたしました。

明治アクセラレーターは今回で2回目の取り組みとなるもので、共創のテーマは「食」「体とこころの健康」「サステナブル」「デジタル・テクノロジー」の4つ。明治グループが持つ独自の素材や技術、顧客との関係などの資産とスタートアップの持つテクノロジーやアイデアを組み合わせて、新しい価値を創造することが狙いです。

防災備蓄という意外なテーマでスタートアップしたLaspy社。創業から間もないシード期のスタートアップと伝統的な企業はどのようにしてその協業案を進めたのか。

前半に引き続き、このインタビューでは明治アクセラレーターを第1期から事務局として支えた井野口萌さんと、第1期に採択され、今年3月には明治との資本業務提携も発表したLaspyの代表取締役、薮原拓人さんにお話を伺いました。(文中の太字は01Channel編集部による質問)

——Laspyさんの事業について教えてください

藪原さん:「あんしんストック」という防災備蓄管理DX、あるいは防災備蓄管理機能を建物単位、エリア単位で機能化するプロダクトを提供しています。現状は大企業さんに対してB2Bでサービスを提供していて、ビルオーナーさんやデベロッパーさんとコラボレーションする事によって防災備蓄を建物の機能にしていっています。

コロナ禍の緊急事態宣言の際にも「買い占め」ってありましたよね。私の家の周りでも食料が買えなくなったり、マスクもハンドソープもトイレットペーパーもありませんという状況になっていました。しかしアレって大災害のせいで起きたわけじゃないんですよね。物の偏在が原因であって、社会の中に最適配置されてないと供給が途絶えるのだと感じたんです。

これがもし本当の災害だったらと考えると、社会不安は絶対なくならない。今、自分たちがやってるようなサービスが世の中にあったらいいのになと思ったのがきっかけです。

——Laspyさんが立ち上がったのが2021年で、明治アクセラレータの第1期とほぼ同時期。設立後すぐにアクセラレーターに応募した理由を教えてもらってもいいですか

藪原さん:立ち上げた当初はプロダクトを作るにも営業するにもコネクションがない状態ですから、大企業との協業を通じてプロダクトが発展するという期待値がありました。当初は募集要項を見ても我々が当てはまるとは思えませんでしたが、備蓄で食品を扱うことから賞味期限にフォーカスを当て、明治さんとの備蓄食品の共同開発や管理、フードロスの観点でやりたいと思い、駄目元で応募したのが背景です。

——(主催者にとって、)創業間もない企業を採択することについてはいかがでしたか

井野口さん:100社以上の企業に応募いただいて、その中で6社を選ぶのに書類選考、面談選考、ディスカッションをしましたが、防災備蓄はとても珍しく目を惹くものがあったんです。

2021年の創業は気になりませんでした。応募いただいた各スタートアップの代表の方のこれまでの経歴を見ても安心できるところがありましたし、また、ディスカッションの中で我々の疑問点を必ずクリアにして返していただけたので、安心して第1期に採択させていただきました。

——キャリアのお話が出たので…藪原さんはどのようなお仕事をされてきたのでしょうか

藪原さん:新卒で証券会社に入りまして、プロダクトの開発だったり、ESGの海外調査とかファンドを作ったりしていました。創業の直前は通信会社で金融商品の開発をやったり、環境や社会やガバナンスが金融市場に与える影響を調査していました。

日本だと児童労働って想像しづらいじゃないですか。ただ海外だと例えばある著名ブランドが靴を生産するために新興国の工場で児童労働をさせていたことが判明して株価が下がった、といったことがあるんです。ガバナンスや企業の社会性が、成長や株価に影響を与えることは海外では盛んに起きていたので、これを見ていましたね。

——根底ではESG/SDGsの流れが続いているんですね

井野口さん:明治アクセラレーターのテーマは「人と地球の健やかな未来を共創する」。弊社内でも「ただ食品を作って売るだけではなく、人や地域社会、地球に貢献していく」という考えがありました。防災備蓄のプラットフォームでSDGsのテーマを押さえているLaspyさんと出会えたのは大きかったです。

——プログラム中の取り組みはどのようなものでしたか

藪原さん:一番最初はカタリストの方々に弊社の事業を理解いただいて、何ができるかを探っていただきました。アクセラの期間は限りがあるので、正直、期間中にアウトプットを完全に出し切ることは難しいという中で、中長期の話とアクセラ期間中のことを分けて一緒に考えました。

例えば期間中では、チョコレート部門やチーズ部門、その他お菓子部門の研究者の方々の過去の開発の履歴や、明治さんの過去の製品の加工の技術から長期の保存食ができないかといった検討をしました。

また、防災と食品という観点で、本当に世の中にペインが存在してるのかどうかを確かめるために防災イベントを開催しました。明治さんの製品を配ってアンケートを何千件も取りましたね。加えて明治さんの社内向けアンケートを通じて市場性を確認したりもしました。それらを受けて防災食品の開発や、ミルクなどの赤ちゃん防災なども一緒に取り組みました。

——カタリストの方の反応はいかがでしたか

井野口さん:Laspyさんについたカタリストは3人ともLaspyさんの伴走を希望していて、それは事務局の意向とも合致していました。皆さん社会課題に貢献したいという思いがすごく強いのにも関わらず、普段の業務ではなかなか社会課題に貢献していると実感する場面が少ないと感じていらっしゃったんです。需要と供給が一致するじゃないですけど、我々もこの3人が最適だと感じて選ばせていただきました。

——組んでみて意外だと思ったこととか、驚きとかありましたか

藪原さん:やはり大企業じゃないですか。一般的にそんなにスピードも速くないと思われると思いますが、超早かったんですね(笑)。カタリストの皆さまは本業がある中で取り組んでいただいていましたが、定例では毎週・毎週アウトプットを出していただけてましたし、我々がスピードで負けて助けていただく場面も多くありました。

お互い慣れてきて、リアルの面談が増えてくると、良い意味で大学のサークルのように楽しくできたのも意外ですごい良かったなと思います。

井野口さん:最初からカタリストのやる気が相当あって、前のめりにやっていただいたのかなと思ってます。プログラム終わった後も、皆さんそれぞれ本業の方で社内インタビューを受けたり、いろいろ発信することがありましたが、その中でも防災備蓄の話が出てきてたりとか、出資をしたときも連絡いただいて、Laspyさんの一番のファンになってるんじゃないかなと思います。

——出資もされたわけですが、意思決定が早かったですよね

井野口さん:初めての出資で悩みながらでしたが、プログラムの中で備蓄の食品の話とかも出てきていたり、イベントでのアンケートの結果等もあったので、社内で協業案を話して、いろいろな部署に相談しながら意思決定しました。

藪原さん:最近は事業会社もCVCあるいは本体からのスタートアップ出資が増えていますが、前提条件として最低でも共同事業が発足してないと事業会社からの出資はできないのが一般的です。時間も年単位でかかるし難易度も高い。(一般的にCVCは)通常のベンチャーキャピタルからの出資とは少し違ったアプローチになり、投資判断の基準や投資後の報告スタイルも全然違うので、そんなにポンポン進むようなものではありませんよね。

現在進めている防災備蓄商品の共同展開について教えていただけますか

井野口さん:やはり分かりやすいのは防災備蓄の商品に明治の商品を何かしらの形で使っていただく、という形かなと思っています。ゆくゆくは共同開発になるかもしれませんが、長期保存食品に関しては明治も関わっていけるといいなと思っています。現在そんな形で大きく3つぐらい協議案があって進んでいます。

藪原さん:食品開発に関して言うと、やはり我々は素人です。思い付きの案が難しかったり、明治さんの品質の基準であるとか、工場を動かす際のロットの話とか考えなきゃいけないなど、想像しているよりもたくさんあるなと思います。

——最後に両社で目指していきたいところを教えてください

井野口さん:直近だと、「あんしんストック」のローリングストックに銀座カリーを採用していただきました。明治は備蓄食を展開してないのですが、ローリングストックに適している商品はあると思っています。Laspyさんを通じて認知していただき、最終的にはそういう備蓄食を開発していきたいなと思っています。世の中に必要とされる美味しい備蓄食が作れるのは、うちならではなのかなと。

藪原さん:(関東大震災から100年の節目で)現在は防災の意識が高まってるという論調とむしろ逆方向にいっているという論調、どちらもあります。とある新聞社さんの意識調査記事では防災備蓄の準備率は下がってるという記述もみられます。しかし世界的に災害の事態は増えています。コロナも起きてしまった中で、相応の規模の企業についてはリスク感度が高まっているし、一方で個人は少しリスク感度が下がってるんじゃないかなと。

我々として考えていることは創業時から変わっていなくて、防災意識に訴える形で防災の商材を売っていくことには限界があると思っています。目指している社会は防災意識に依るというよりは建物とかエリア単位の機能として、インフラとして防災備蓄を持つという状態に持っていくことなんです。

防災というと、起きないかもしれないことに対してお金を払う行為にもみえるためサービス導入に抵抗がある人たちもおいでではあります。しかし、必要か必要じゃないかと聞かれると「必要だね」と。防災機能が備わってることに対して文句を言う人はあまりいません。明治さんや関係される方々と一緒に防災が機能になっていく状態を目指していきたいと思います。

——ありがとうございました。

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