Web3+スマホで変わる新興国の金融、その意外な方法/Celo Will Le × ACV唐澤・平井【ACVポッドキャスト】

本稿はアクセンチュア・ベンチャーズが配信するポッドキャストからの転載。音声内容をテキストにまとめて掲載いたします

アクセンチュア・ベンチャーズ (ACV)がスタートアップと手を取り合い、これまでにないオープンイノベーションのヒントを探るポッドキャスト・シリーズです。旬のスタートアップをゲストにお招きし、カジュアルなトークから未来を一緒に発見する場を創っていきます。

ブロックチェーンを基盤とした新たなエコシステム「Web3」は、徐々に具体的なサービスを社会に実装しつつあります。特に金融、送金の領域はゼロ・トラストで駆動するブロックチェーンの得意とするところで、従来から新興国など、従来の金融インフラが整いづらかった地域を中心に期待されているユースケースです。

この分野にモバイル・ファーストの考え方で挑戦しているのがCeloです。

モバイル中心のブロックチェーン「Celo」は、利便性を高めるために公開鍵と秘密鍵を携帯電話番号にリンクさせるというアイデアでウォレットのハードルを低くし、新興国を中心にユニバーサルな金融ソリューションを提供することを目指しています。

スマートフォンとWeb3の組み合わせで何が起こるのか、その景色を実際に体験したのが今回のゲストになります。

ポッドキャストではアクセンチュアの唐澤鵬翔と平井麻祐子がCelo FoundationのHead of Partnerships、Will Leさんにお話を伺いました(注1)。ポッドキャストから一部をテキストにしてお送りします。

ポッドキャストで語られたこと

  • モバイルファーストのブロックチェーン
  • 携帯電話番号で送金が可能なウォレット
  • 世界的なクラウドソーシングを可能にするエコシステム

注:本記事は2023年4月に収録されたものに基づいて記載しており、その後内容が変更されている場合があります。また、Will LeさんはCelo Foundationを離れ、impactMarketのCEOとして活動されています。

モバイルファーストのブロックチェーン

Celoのブロックチェーン基盤で稼働するモバイルウォレット「Mini Pay」

Celoについてまずおしえていただけますか?

Le:Celoはモバイルファーストで戦略的な指向のあるブロックチェーンです。私たちのミッションは、誰もが繁栄する新たな金融システムを作ることです。「誰にでも」という部分が非常に重要なんです。(中略)我々は、ブロックチェーンの可能性は人類にとって素晴らしいものだと考えています。アルゼンチンでインフレヘッジを考えている人が使ったり、ベネズエラの出稼ぎ労働者が母国に送金したり、安く送金したりできるようなソリューションを作りたいんです。

その根底にある課題意識は、現在の金融システムには非常に多くの摩擦がある、ということなんです。(中略)例えば、国際送金の平均コストは7%弱で、低所得者が母国に送金しようとすると、とても高くついてしまいます。

また、世界には17億人の銀行口座を持てない人々がいます。その理由のひとつは、彼らが身分証明書を持っていないからです。(中略)銀行に行っても、あなたレベルの方々にはサービスを提供するつもりはないと言われてしまう。それが、人々が貧困の連鎖から抜け出せない状況を生み出してしまいます。

そこで、オープンシステムであり、分散型システムであり、こうした摩擦を軽減する可能性を秘めたシステムであるWeb3が、真のニーズを解決することができるのだと考えています。

銀行口座を持たないコミュニティが金融やビジネスにアクセスできるようにするために、Celoやコミュニティが直面した課題について教えてください

Le:5年前にCeloに入社して最初にしたことは、チームをケニアに連れて行って調査をすることでした。ケニアにはM-PESAというソリューションがあり、(中略)普及率は90%を超えており、これは世界でもトップクラスです。(中略)M-PESAの使用率はケニアの識字率よりも高いのです。なぜこれほど成功したのか、そこから何を学んだのかを知りたかったのです。私たちが学んだことのひとつは、意識のギャップでした。

暗号通貨やブロックチェーンについて考えるとき、多くの人が最初に思い浮かべるのは詐欺で、投機のためだけのものだと思われています。ブロックチェーンは、支払いや融資、その他Web3でできるあらゆることの解決策とは考えられてはいません。インターネットが登場した頃のことを思い出します。これまで多くの詐欺がありましたが、時が経つにつれて、より多くのユースケースが登場し、発展していきました。

ひとつは教育です。Web3で何ができるのか、なぜ既存の金融システムと違うのかについて人々を教育する必要があります。

次に実際のニーズに根ざしたユーザー体験を生み出すことがとても重要だと思います。例えば、セルフカストディウォレットは本当に難しい。自分の財布を自分で管理するということは、自分の財布の鍵を持っているということです。つまり、その鍵やパスワードを忘れると、資金にアクセスできなくなるんです。しかし、Web3の多くの人々はこの考え方を好んでいると思います。(中略)人々に解決策を押し付けようとするのは、おそらく最善のアプローチではないですよね。

(中略)

もちろん僕は、基本的にはみんなの考え方に賛成です。確かに過去、中央集権的な取引所が問題を起こして、人々が資金にアクセスできなくなったことがありました。そのような場合、自己管理は非常に重要だと感じるでしょう。しかし、日常的に自分には自分の資金の所有権があるのかどうか、誰もセルフ・カストディのことなど考えていません。彼らはただ、物事がより簡単にスムーズに動くことを望んでいます。だから、これが成功するためには、Web2の世界とWeb3の世界の間に橋渡しが必要なんだと思います。

(中略)

そこで僕らが考えたのは、Celoが本当に優れているのはどこだろうという「問い」から始めたんです。私たちはモバイルファーストで、ほんのわずかなコストで国境を越えた決済が可能です。ケニアの誰かに国境を越えた支払いを1ペニー以下で送ることができる。このようなサービスを導入した上で自問したんです。どんなユースケース、どんなソリューションが考えられるだろうかと。

そして、世界中の誰もがスマートフォンだけでお金を稼げるようにするにはどうしたらいいか、というアイデアを思いつきました。背景として今、急成長しているAI業界では、アルゴリズムのトレーニングを手掛けるデータ・アノテーター(註:AI開発におけるデータの検証作業人員)がとても必要とされています。

例えば、ウェブサイトで自分が人間であることを確認するために、写真に写っているすべての一時停止標識をクリックしたことがありませんか?(中略)そして、その作業には報酬が支払われているのです。(中略)他の種類の仕事もたくさんあるし、業界は成長しているのです。

問題は、現在の金融システムにおける摩擦のせいで、一般的に熟練度が低く、多くの訓練を必要としないこれらの仕事は、主にアメリカやヨーロッパ、アジアにとどまっていて、機会やニーズが最も大きいところに流れていかないということです。

そこで私たちはMercy Corpsと提携し、App-Inと呼ばれる作業プロバイダーと連携することで、スマートフォン・アプリですべてのデータ・アノテーション作業を行い、即座にお金を稼ぐことができる世界を作り上げたんです。さらにM-PESAとパートナーシップを結んでいるので、ユーザーのCelo資産をM-PESAで換金することができるようにしました。

これがなかった時代では、支払いを受けるためにはPayPalアカウントを持っている必要がありました。当時、PayPalがプラットフォーム上にあった唯一のソリューションだったのです。しかし、ケニアの若者がPayPalのアカウントを取得するのはとても難しいのです。実際、PayPalアカウントにサインアップした人たちが、そのアカウントを他の人たちに貸し出すという、PayPalアカウントの二次市場があったほどです。

こうして(中略)バスを待っている間に即座にお金を稼ぐことができるようになりました。大した金額ではありません。50セントから3ドルくらいが相場です。しかし、失業率40%のケニアで低所得の若者なら、それなりの金額にはなります。(中略)

携帯電話番号で送金が可能なウォレット

Celoはブロックチェーン上のモバイルファーストのレイヤーですが、モバイルファーストをどのように定義していますか?

Le:(中略)世界中のほとんどの人はPCを持っていません。彼らはスマートフォンでインターネットにアクセスしています。そして、スマートフォンの普及率は広く伸びています。だから私たちは、本当にすべての人のためのブロックチェーンになりたいのなら、モバイルが最適だと考えました。

(中略)Celoブロックチェーンで最もユニークなことのひとつは、電話番号によるマッピング・プロトコルです。ほとんどのブロックチェーンでは、資金を送るためには相手の公開アドレスを知らなければなりません。(中略)これはひどいユーザー体験だと思います。

Celoでは、相手の電話番号にお金を送ることが可能です。その人が請求するまで、そのお金はエスクロー口座に保管されています。そして、もしその人が請求しなかった場合はそれを取り戻すことができるようになっています。(中略)モバイルファーストについてもうひとつ重要なことは、モバイルファーストであるためには、幅広いデバイスに対応しなければならないということです。そこで私たちは、Plumoというライトクライアントを開発しました。

私は西アフリカのリベリアにいたとき、空港で20ドルのAndroidスマートフォンを手に入れたことがあるのですが、リベリアではその端末でブロックチェーンにアクセスすることができました。我々が開発しているものの幅広さを物語っていると思います。

もうひとつ付け加えると、通信事業者とも多くのパートナーシップを結んでいます。(中略)Web3がメインストリームに普及するには、この分野の信頼できるブランドやプレーヤーと協力する必要があると思います。こうしたプレーヤーや通信事業者の多くがCeloと協力していることに、私たちは本当に興奮しています。(中略)

Web3の世界に多くの企業が飛び込んできたのは、ここ数か月のことです。最近のトレンドのようなものですが、3年前はほとんどの企業はWeb3が何なのかさえ知らなかったと思います。

大手企業にあなたが何かをするのに適したパートナーだと思ってもらえる方法と、パートナーシップに必要なポイントを教えてください

Le:(中略)彼らの関心は(中略)問題を解決するようなソリューションを作ることだと思います。もし私が企業で、さまざまなブロックチェーンパートナーを選ぶとしたら、気にするのはブランドと信頼性だと思います。例えば、新しい流行を追い求めるような、欺瞞に満ちたブロックチェーンではなく、明確なフォーカスを持った強力なチームと仕事をしたいと思うでしょう。

ブロックチェーンは何でもできるわけではありません。(中略)トレードオフをしなければならないとき、ブロックチェーンが選択する決断とは何か?そしてそれは私の目標にどう合致しているのか?迅速な取引が必要なのか?低コストの取引が必要なのか?プライバシーは必要か?これらの質問はすべて、自分自身に問いかけ、それが企業のニーズだけでなく、消費者のニーズにも根ざしていることを確認すべきです。(中略)

世界的なクラウドソーシングを可能にするエコシステム

Image Credit: The Potential of Cryptocurrency for Kenya’s Youth

あなたが紹介したユースケースはとても興味深いと思います。世界的なクラウドソーシング・プラットフォームのようなものですよね

Le:ユースケースはWeb3が最も力を発揮するところで、現在のシステムが壊れているところ、多くの異なるプレーヤーが互いに協調しようとしているけどうまくいっていないようなところにあると思います。

その最たる例が炭素クレジット市場です。

炭素クレジット市場が誕生してまだそれほど時間が経っていないため、大きなチャンスでもあります。大きな既存プレーヤーがいない分、イノベーションを起こすチャンスや余白があります。最近、フィリピンのゲイン・フォレストというプロジェクトで試験的な取り組みを行いました。

フィリピンのプロジェクトでは、マングローブ林の保護に力を入れています。マングローブ林は環境にとって素晴らしいもので、土壌浸食を防ぎ、生物多様性を高め、炭素を吸収します。しかし、現地のコミュニティや農民にとってマングローブは、伐採して木材として売ることでしか収益化できていません。世界にとって素晴らしい自然資本があり、それが役割を持っているにもかかわらず、その資本を所有する人々や資本を持つ人々がそこから価値を引き出すことができないのです。

このプロジェクトでは、ゲイン・フォレストと協力して、現地の労働者を訓練し、マングローブの木を測定させ、それをトークン化してブロックチェーンに載せることで、現地の労働者は暗号通貨で自分のウォレットに支払いを受け、すぐに現金化することができるようにしました。

企業はカーボンオフセットのためにこれらの資産を購入することができます。完全に追跡可能で透明性が高いものです。実際にその木を見ることもできます。これは、コミュニティがすでに持っている資本を、以前には不可能だった方法で収益化したweb3の方法の美しい例だと思います。(中略)

パラメトリック保険も非常に良いユースケースだと思います。通常のパラメトリック保険はWeb3で何が変わりましたか?

Le:Web3には保険市場を革新し、破壊する可能性がたくさんあると思います。パラメトリック保険について考えるとき、私が最初に思い浮かべるのは農民保険です。

例えばインドのような場所では、農家、特に零細農家は本当にひどい目に遭ってきました。不作の年や天候不順の年は、家族を養えるかどうかの分かれ目になります。だから、農作物の収穫量の10%か何かの保険料で、家族を養うのに十分な資金を保証します、というような商品を提供すればいいんです。

たいていの人はそれを気に入るでしょう。課題は、保険商品を管理するためのコストが非常に高いということです。保険金請求を検証したり、商品を販売したり、その他もろもろのことを行うために、多くの作業が必要になるからです。

しかしWeb3とスマートコントラクトを使えば、その多くを自動化できます。さまざまな場所にセンサーが設置され、衛星画像もあります。もしあなたがこの地理的な場所に住んでいるなら、この場所にどれだけの雨が降ったかを教えてくれるオラクルとあなたをつなげることができるのです。このプロセスを自動化することで、コストが大幅に削減されます。

しかし、これは私たちが行った良い例のひとつに過ぎないと思います。(中略)

日本市場や日本の企業、スタートアップへの期待についてお聞きしたいです。Web3やReFiの文脈の中で日本に何を期待しますか?

Le:ブロックチェーンは(中略)人々が当たり前に持つチャンネルになると思います。僕は自分のメールがどう機能しているのか知りません。ただ、それが機能していることは知っています。ブロックチェーン暗号の仕組みを理解しなくても、アクセスすることで利益を得ることができるようになるのと同じです。

だから僕は、みんなにもっとブロックチェーンについて探求してほしいし、もっといい方法がないか考えてほしいと思っています。

僕がみんなに言っているのは、インターネットは情報共有において革命的だった、ということです。今、Web3を同じように革命的なものとして考えてみてほしいんです。価値の共有と創造が、トラストレスな方法で可能になったんです。この原理があれば、できることはたくさんあるでしょう。

インターネットが始まったとき、15年後にポケットの中のデバイスで車を家に呼べるようになるとは誰も予想していませんでした。(中略)正直に言うと、ReFiが日本でまだ大きくなっていないことに少し驚いています。なぜなら、再生金融の原則は日本の価値観にとても合っていると思うからです。

こんなにも街やコミュニティを大切にする国は初めてです。環境に対する敬意は、正直アメリカ以上だと思います。(中略)ここには多くの可能性があり、今必要なのはトレイルメーカーや先駆者たちです。物事をテストし、試験的に実験し、イノベーションの限界を押し広げようとする人たちが必要です。多くの企業がネットゼロの目標を掲げています。これはおそらく世界が直面している最も重要な問題です。

(中略)どの業界も気候変動対策について考える必要があります。私たちはみな、影響を及ぼしているし、それを考えることは重要だと思います。もし助けが必要な人がいたら、遠慮なくCeloに声をかけてほしいです。

何があなたをCeloに惹きつけたのでしょうか

Le:私は伝統的な金融からキャリアをスタートしました。ベイン・キャピタルに在籍し(中略)ゲイツ財団に行き、そこで農業開発に携わったことをきっかけに、ケニアの農村部に移り住み、金融包摂の仕事に携わりました。私は大学に戻り、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学に在籍したことで、この機会に巡り合い、ミッションがとても気に入ってCeloで働くことにしたのです。

チームが大好きで、最先端のテクノロジーを世界中の恵まれない人々に適用しようとしているということが好きでした。理想的な仕事を探していたとき、これこそ私が求めていたものだと思ったんです。Web3をやりたいということではなく、本当に重要な問題に、本当に頭のいい人たちと、本当にクールなテクノロジーで取り組みたいという考えで入ったんです。

(中略)その反面、非常に不安定な面もあります。ある日目が覚めると素晴らしいニュースを読み、またある日目が覚めると、大変なことを聞かされることもあります。リスクに対する強い胃袋が必要です。

(中略)アクセンチュアはこのエコシステムの構築において、とても重要な役割を担っていると思います。点と点を結ぶような役割を期待しています。クライアントがWeb3で何をする必要があるかは分かっています。だから、伝統的な企業と新しい新興テクノロジーとの架け橋になれるはずです。

註:元の会話をカットして日本語にしてあります。ぜひ元の音声で全ストーリーをお聞きください。

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