ちょっと待ってくれ、メタバースは死んでいない

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Image made by DALL-E / BRIDGE

メタバースは当初、これまでSFの世界にしか存在しなかったエキサイティングなコンセプトを提供した

私たちがどこでも好きなようになれる仮想世界。

ウェアラブルを持って歩き回り、デジタルグラフィックや3D、その他のインタラクティブな機能が世界にオーバーレイされ、超越した空間で対話することができる。文字通り、私たちができることに限界はない。

しかし、このアイデアが実現することはなかった。ーー少なくとも社会の「せっかちな人々」にとっては十分なスピード感ではなかったようだ。

Gartnerのアナリスト、Marty Resnick(マーティ・レズニック)氏は本誌 VentureBeatに、「人々は一度にひとつのことに集中する傾向があります。短期的なメタバースは期待外れだったようです」と語る。そのためか、メタバースは時代遅れどころか 「死んだ」と言う人も出てきている。

しかし、本当にそうだろうか?

専門家によれば、そうではない。その定義とユースケースは、「Everywhere All at Once(どこにでもあるものすべてを一度に)」というコンセプトを超えて、単に再構築されているだけなのだ。Resnick氏は続ける。

VRのような仮想世界の文脈で考えるのはやめたほうがいい。メタバースとは物理的な世界とデジタルの世界との新しい相互作用のことなのです。

メタバース最大のチャンス「物理的世界」

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仮想世界に対する高い野心と自信を表現するため、社名を変更したMetaはメタバースへの投資で470億ドルの損失を出したかもしれないが、実際にはメタバース経済は2030年までに4,000億ドル(2022年の480億ドルから増加)に成長すると予想する試算もあり、さらにこの技術は、この10年の終わりまでに最大5兆ドルのインパクトを生み出す可能性があるという声もある。

早ければ1月にもバージョン1.0がリリースされる見込みのApple Vision Proは、AIが席巻した熱狂を再び呼び起こすかもしれないと予想する向きもある。今後、純粋なVR(ユーザーが没入することのできる、現実世界のルールが適用されない世界)とは対照的に、メタバースは拡張現実(AR・XR)を通じて、ますます物理的世界の一部になっていくと専門家は予測している。Resnick氏は「メタバースにとって最大のチャンスは、デジタルとは対照的に物理的な世界にある」と語る。

結局のところ、どちらか一方になるのではなく、それぞれに居場所があるのだ。Resnick氏は「私たちはある経験をするためにバーチャルな世界に行くこともあるし、逆にバーチャルな世界が物理的な世界にやってくることもある」と続けた。

企業メタバースが本格化する

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企業にとって未来のメタバースは、拡張された仕事と開発の機会を提供することができる。例えば、ユーザーはバーチャル・オフィスを通じて交流し、共同でデジタル・オンボーディングに参加することができる。金融大手のJP MorganやCitibankは、すでにこのようなバーチャル・オンボーディングやインターンシップを開始している。

Resnick氏は「新入社員のクラスはすぐにお互いを知り、協力し合い、つながることができる」と説明する。この没入型の空間では、例えば、ハラスメントや人種差別(またはその他の「イズム」)といったテーマを、(一般的なオンボーディング・ビデオのような)堅苦しく台本通りでない、よりリアルに感じられる方法で提示することができる。これは、従来のトレーニングやオンボーディングの教材よりもはるかにインパクトがあり、共感を呼び起こすことができるようになるそうだ。

DeloitteのCTO、Bill Briggs氏はVentureBeatにこう語った。「特に記憶するという能力が飛躍的に高まります。まるで脳が別の場所に保存しているかのようになるのです」。

産業メタバースが姿を現す

メタバースは産業環境においても大きな可能性を秘めている。

製造システムの設計、構築、最適化のために、人は機械と相互に働くことができると専門家は言う。センサー、AI、XR、VR。デジタル・ツイン・テクノロジーは、オペレーション、倉庫管理、ロジスティクスにおいて、シミュレーションや現実世界を拡張することができる。

例えば、企業は在庫の流れをどのように改善できるか?機械修理の可能性にどうアプローチするか?

空間データとデジタル・オーバーレイによって、作業員は「リアルタイムのデータ、実世界のコントロール」と統合された多数のシステムからの情報を見ることができると彼は言う。そして、生産フローを調整し、何百、何千ものシナリオを実行することができる。Briggs氏は「製品や業界の将来に合わせてピボットする能力を持つことができる」と指摘する。

同様に、メタバースは人間の労働者を補強することができる。例えば、特定の従業員が見ているものをインタラクティブ・デバイスを通して見ることができるマネージャーは、遠く離れた事象の意思決定に役立てることができる。あるいは高価で、危険で、再現が難しい機器のバーチャル・トレーニングを行うこともできる。

「従来のメタバースの考え方は、現実から切り離され、デジタルアバターを持って集い、コミュニケーションし、戯れるというものでした。しかし、産業メタバースは物理的なものとデジタルをシームレスに融合させ、時間と空間を縮めることができる」とBriggs氏は語る。

技術、社会的受け入れの課題

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それでも、メタバースがその真の可能性を発揮するまでには、乗り越えなければならない大きな課題がある。

まずそもそもの話として、VRと空間コンピューティングの技術はまだそこまで到達していない。ユーザーが必要としているのは「サイバーパンクのような大きなメガネではなく、日常的にかけることのできる一般的なメガネ」のようなヘッドウェアとディスプレイなのだ。Resnick氏はメタバースが社会的に受け入れられるかどうかは重要であり、その実現には適切なハードウェアが必要であると次のように指摘した。

着るのが恥ずかしければ、受け入れられることはないでしょう(Resnick氏)。

これについてBriggs氏は「顔にコンピューターを縛り付けて歩き回るというのは、決して魅力的なものではない」と同意している。

ユーザーはリアルに見え、リアルに感じられるものとインタラクションしたいと願う。専門家の中には、Universal Scene Description(USD)は仮想世界を構築するためのツールを標準化し、民主化する方向にあると言う人もいるが、それはまだ初期の段階である。

さらにデジタルコンテンツの不足は、接続性、デバイス、センサー、グリーンフィールドとブラウンフィールドの後付けの問題よりも大きな課題である、とBriggs氏は主張する。

メタバースには、ほとんどの企業や業界には存在しない製品や設備、施設、操作プロセスのフォトリアリスティックで物理ベースのレンダリングが必要になります。空間コンピューティングの要素が必要とするのは、デジタルコンテンツをどのように作成するかというこのギャップなのです(Briggs氏)。

メタバースと生成型AIは補完し合う

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AIは、少なくとも一時的にはメタバースを世界の舞台から押しやったかもしれないが、今後、この2つが互いに高め合うことは避けられないだろう。例えば、AIは3D部品を含むデジタル資産の製作と強化に役立つ。Briggs氏は「この二つを別々に見ることはできないと思う。両者は非常にうまく機能しているし、これからもそうだろう」と語る。また彼は、ひとつの技術だけでなく、複数の技術を組み合わせることで、「次の大きなもの」が生まれると指摘した。

生成型AIとメタバースが連携することで誰もが創造し体験できる、より超パーソナライズされた環境が実現するでしょう。これはメタバースが民主化される過程なのです。

これまでのやり方を再構築する

メタバース、生成型AI、その他の進化する最先端技術に関しては、間違いなく大きな野心と想像力がある。しかし、Briggs氏は、組織がSF的発想を乗り越え、明確な戦略を立てることが重要だと指摘する。「多くのお金と時間を費やしても、目に見えるインパクトや結果が得られないような曖昧なものにすることなく、熱意を生かすという微妙なバランスが必要なのです。企業は単なる願望を現実の意味のあるものにし、さらに改善の可能性に結びつけなければならない」と彼は言う。

ユースケースと成果を特定することで、組織はプロセスを「根本的に再構築」し、創意工夫と創造性に拍車をかけることができる。彼は、最悪のシナリオは、単に従来のやり方を続けることだと強調した。

非効率なプロセスを技術的に可能にすれば、非効率を強みにできる。

結局のところ、メタバースやAIなどのテクノロジーは「革命というよりは進化」であり、(個々の分野で大きなブレークスルーがあったとしても)人々が考えているよりも予測可能な道筋を進んでいる、と彼は指摘した。

これらの異なる技術の進歩と力の衝突こそが、最もエキサイティングなユースケースのすべてです。どの技術も物語の主人公ではない。そのことを念頭に置き、また、私たちが常に世界について考え、物事を行ってきた方法に縛られないようにするのは、私たち全員にかかっていると思います。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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