「Viva Technology 2024」が開幕、AIやロボティクス分野が台頭——AnthropicやBaidu(百度)のCEOらも登壇

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Image credit: Masaru Ikeda

本稿は、5月22日〜25日にパリで開催されている Viva Technology 2024 の取材の一部である。

フランス随一のスタートアップの祭典「Viva Technology」がパリで幕を開けた。フランスの2つの新聞社が主催し、フランス政府が支援する形で2016年に始まったこのイベントも今年で8回目を迎える。筆者も第2回目の頃から何度か来ているが、今年は昨年よりもかなり多くの人数を集めたようだ。昨年の参加者数は約15万人と発表されているが、今年は感触的にそれを遥かに超えるように思える。

今年は日本が Country of the Year に選ばれたこともあり、内閣官房、東京都、6つの大手企業などが共同出展した「Japan Pavilion」には、彼らが支援する計36社のスタートアップがブースが所狭しと配置され、このパビリオンの中央ステージでは、スタートアップはもとより、日本を代表するスタートアップエコシステムビルダーがピッチをしていた。

日本パビリオンを訪れた、フランスのデジタル大臣 Bruno Le Maire(ブリュノ・ル・メール)氏。食品・医療・化粧品としてシルクを活用する愛媛発ユナイテッドシルクに興味を示していた。
Image credit: Masaru Ikeda

会場全体では、ヨーロッパはもとより、フランスがかつて宗主国だったアフリカ諸国の政府などが自国スタートアップ向けのパビリオンを多数出展していたのが目立った。アフリカでは、イギリスやフランスの投資家からの資金が多く流れ込んでいることも背景にあるのだろう。また、出展しているスタートアップのバーティカルは、明らかに AI とロボティクスが多くを占めていたように思う。

フランスと日本にルーツを持つ自然キャピタルは、Viva Technology の開幕に合わせ、フランス最大のスタートアップハブ「STATION F」で、「Global50」という両国のスタートアップ関係者を集めたミートアップを開いた。イベントでは、自然キャピタルが出資するスタートアップ15社がピッチを行った。

「Global 50」で話す自然キャピタルの Mark Bivens 氏
Image credit: Masaru Ikeda

Viva Technology の会場内には、Stage1 〜 Stage3 まで3つのステージが設置され、ひっきりなしにパネルディスカッションやキーノートスピーチが展開されていた。それらの多くは、生成 AI に関するものだったように思う。アメリカと中国、それぞれの 生成 AI を牽引する Anthropic CEO Dario Amodei 氏、Baidu(百度)の CEO Robin Li(李彦宏)氏のファイヤーサイドチャットの模様をまとめてみた。

Anthropic、LLM 内部メカニズムの可視化と安全制御に向けた挑戦

Anthropic の CEO Dario Amodei 氏
Image credit: Viva Technology

AI の技術が日進月歩で進化を遂げるなか、AI の安全性と人間の価値観との調和が喫緊の課題となっている。この問題に真っ向から取り組んでいるのが Anthropic である。同社の CEO Dario Amodei 氏は、かつて OpenAI で研究員として働いた経験を持つ。2021年に妹の Daniela Amodei 氏と共に Anthropic を創業した。彼らが掲げる目標は「より安全で信頼できる AI の実現」である。

最近のインタビューで、Amodei 氏は同社の最新の研究成果を発表した。それは、大規模言語モデル(LLM)の内部メカニズムを可視化し、さまざまな概念に対応する特徴量を特定できるという画期的な手法である。

例えば、アクターが4つの壁を壊すような特徴量や、特定の集団に対する偏りの特徴量などが見つかったのです。(Amodei 氏)

さらに驚くべきことに、これらの特徴量をオン/オフすることで、モデルの出力を自在に変化させることができるという。

例えばアイドル体現の特徴量をオンにすると、モデルの応答が過剰なほめ言葉になります。(Amodei 氏)

この技術により、従来のブラックボックスだった LLM の内部構造を解明し、望ましくない出力を制御できる可能性が生まれた。AI の安全性と制御可能性を確保する上で、極めて重要な一歩となるだろう。Anthropic はこの基礎研究の成果を一定範囲でオープンにする方針だが、企業秘密となる部分も存在するため、一部の詳細は非公開のままになる見通しだ。

AI の飛躍的な発展に伴い、雇用や教育のあり方を根底から見直す必要があります。(Amodei 氏)

AI が人間以上の能力を持つようになれば、これまでの産業社会における労働の概念自体が通用しなくなる可能性があるからだ。そのため次世代には、情報を主体的に吟味し判断できる批判的思考力を身につけることが極めて重要になってくると Amodei 氏は指摘した。今後、Anthropic は言語 AI だけでなく、生物学、医療、ロボティクスなど他の専門分野との連携を視野に入れている。

単なる言語モデルのラッパーになるようなビジネスは避ける方針です。(Amodei 氏)

つまり、言語 AI に他の専門知識を掛け合わせることで、新たな価値創出を目指すわけだ。AI 企業が勝ち残れるかどうかは、優秀な人材の確保と革新的なアイデアの実現力にかかっているのかもしれない。さまざまな業界が AI 活用に積極的になるなか、AI の台頭が雇用や社会に与える影響は計り知れない。Anthropic の取り組みは、そうした未来に向けて重要な一里塚となるに違いない。

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Baidu CEO、AI の「キラーアプリ・スーパーアプリ」開発を最重視

左から、ファイヤーサイドチャットに登場したBaidu(百度)の CEO Robin Li(李彦宏)氏、聞き手を務めた Viva Technology 主催者でもある Publicis Groupe の監査役会長 Maurice Lévy 氏
Image credit: Viva Technology

現在、AI 分野で中国とアメリカが主導的な役割を果たしているが、中国のテック大手 Baidu(百度)の CEO Robin Li(李彦宏)氏は、今後 AI の実用的な「キラーアプリ・スーパーアプリ」の開発が最も重要だと強く訴えた。

アメリカやヨーロッパでは、AI の基盤となる大規模言語モデルの性能向上に注力している企業が多いのに対し、中国では一般の人々が日常的に利用できる AI ネイティブアプリの開発に熱が注がれています。AI ネイティブアプリでは同様の大ヒット作が生まれていないのが現状です。(Li 氏)

スマートフォンのモバイルアプリ時代には、Facebook、YouTube、TikTok などのいわゆる「スーパーアプリ」が台頭し、数億人規模の毎日のユーザーを獲得した国国内ではすでに、Baidu の AI 対話エージェント「Ernie(文心)」が累計で2,000万人以上のユーザに利用されており、検索やマップなど様々なサービスで活用が進んでいる。

毎日1億人以上が使う AI ネイティブアプリはまだ登場していません。AI はまだ生まれたばかりの分野なので、一般の人々をついに虜にするゲームチェンジングなアプリのあり方は誰にもわかっていないのです。(Li 氏)

一方で、Li 氏は AI モデルの訓練に必要な大量のデータ収集については楽観的だ。

多くの専門家は、既存のデータですぐに訓練が行き詰まると危惧していますが、ユーザに広く使われる適切なアプリケーションさえ登場すれば、さらに膨大なデータが生成されるはずです。5年後には今日のデータは些細なものに過ぎなくなる可能性が高いです。データ不足を心配する必要はまったくありません。(Li 氏)

一方で、AGI(汎用人工知能)の実現時期については、人間と同等の知能を持つまでに至る具体的な過程が分かっていないため、実現までに少なくとも10年はかかるだろうと控えめな見方を示した。ヨーロッパは AI 分野で中国やアメリカに遅れを取っているが、Li 氏は「各言語に特化した優れたモデルさえ開発できれば、十分に主導的な立場に立てる可能性がある」と前向きな期待を示した。

現状では Baidu のモデルは中国語での性能が最も高く、英語はやや劣るという。

言語モデルは英語一辺倒ではありません。英語、フランス語、中国語といった異なる言語に対し、得手不得手があるのは当然のことです。AGI が実現すれば、人口問題が解決されるでしょう。GDP は一人当たりの生産性と人口の積で決まりますが、AGI なら何十億人分もの生産力が手に入るのです。全ての国や企業にとって AI は経済を大きく押し上げる極めて重要な機会になるはずです。

最後に Li 氏は、「AI に対する私の最大の希望は、革命的でゲームチェンジングな〝キラーアプリ・スーパーアプリ〟が生まれること」で、他方、最も恐れているのは、「AI の技術進歩が遅すぎ、人々の期待に応えられないこと」と述べた。

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