EUで起こるAppleショックーー建設・防衛・配送サービスなど4つのAI関連調達【TechDaily】

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TechDaily は筆者が毎日実施しているテックニュースの斜め読みをまとめたもの。グローバルで気になる資金調達、テックトレンド、スタートアップニュースをまとめて共有する。しばらく不定期更新でお送りします。

OpenAI とメディア連携

OpenAI は GPT-4o の 微調整機能を 開発者向けに公開し、AI モデルのカスタマイズを可能にした。この機能により、開発者は特定のタスクや領域に特化したモデルを作成できるようになる。OpenAI は9月23日まで1日100万トークンの無料利用を提供し、開発者の参加を促している。

さらに、OpenAI は 出版大手 Condé Nast と提携し、同社のコンテンツを AI モデルの学習に利用することを発表した。この提携により、OpenAI は The New Yorker や Vogue などの質の高いコンテンツを学習データとして獲得し、モデルの性能向上を図る。一方、Condé Nast は OpenAI の技術を活用してコンテンツ制作や広告業務の効率化を目指す。

AI 技術と従来型メディアの融合の一例として注目される一方、著作権の問題や AI が生成したコンテンツの質、ジャーナリズムの未来などについて、業界内で議論を呼んでいる。The New York Times が OpenAI とMicrosoft を著作権侵害で訴えた事例もあり、AI と既存メディアの関係性は今後も注視が必要。

続く AI 関連スタートアップの資金調達

Dream Machine 1.5 をリリースした Luma AI

クリエイティブと生成AIの攻防も激しさを増す。昨日お伝えした通り、デジタルイラストレーションアプリ Procreate が生成 AI に関して強い非難を示したことで好意的な反響を生む一方、生成する側の進化も止まらない。

Luma AI は テキストから動画を生成する AI モデル「 Dream Machine 1.5 」をリリースした。このモデルは、テキストの理解力向上や動画内のテキストレンダリング機能の追加など、大幅な改良が施されている。特に、非英語のプロンプトへの対応や、生成速度の向上は注目に値する。これにより、コンテンツクリエイターやマーケターにとって、動画制作のプロセスが大きく変わる可能性がある。例えば、プロモーション動画やソーシャルメディア向けのショートフォーム動画の制作が、より迅速かつ低コストで行えるようになるだろう。

コストか倫理か。

AI 関連銘柄の資金調達も活発だ。今日は4件あった。

建設業界では、Trunk Tools が 2,000 万ドルのシリーズ A 資金調達を完了し、建設文書の自動整理と質問応答システムの開発を進めている。創業者の Sarah Buchner 氏は12歳で大工として働き始めた経験を持ち、業界の課題を熟知している。同社の技術は、複雑な建設プロジェクトの文書管理を AI で効率化し、作業の遅延や手戻りを減らすことを目指している。米市場のコンストラクションテックで新顔は珍しい気がする。投資した Redpoint は1999年創業で、 Netflix や Stripe、Snowflake など有名どころがポートフォリオに並ぶ老舗だ。

また、防衛産業向けの AI 企業 Defcon AI は、4,400 万ドルの資金調達を完了した。同社は、軍事物流の最適化や作戦計画の立案を支援する AI システムを開発している。この技術は、複雑な軍事オペレーションの効率化と意思決定の迅速化に貢献すると期待されている。Defcon AI の創業チームには、元米空軍高官や防衛省の要職経験者が含まれている一方、AI の軍事利用には倫理的な議論も考えるべきポイントになるだろう。

AI 活用で飽和しているデリバリーに切り込む The Rounds

配送サービス分野では、The Rounds が 2,400 万ドルのシリーズ B 資金調達を完了し、定期的な日用品配送サービスの拡大を図っている。同社は、再利用可能な容器を使用し、AI を活用して顧客の消費パターンを予測することで、持続可能な配送モデルを構築している。この取り組みは、eコマースの環境負荷軽減と顧客体験の向上を両立させる新たなアプローチとして注目されている。

The Rounds の特徴は、「家庭の補充係」というコンセプトにある。顧客は週単位で必要な日用品を定期的に受け取ることができ、使い終わった容器は回収され再利用される。また、AI を活用した消費予測により、過剰在庫や品切れを最小限に抑えることができ、効率的な在庫管理が可能となっている。さらに、The Rounds は地域の生産者や小規模ビジネスとも連携し、ローカル経済の活性化にも貢献している。これは、大手 eコマース企業による市場独占への対抗策としても注目されている。

こうした中、Eppo のような AI モデルのテスティングプラットフォームの重要性が高まっているようだ。Eppo は顧客が特定のユース ケースに合わせて AI モデルを評価およびカスタマイズできる実験プラットフォーム。Eppo のようなツールは AI モデルの ROI を計測する上での意思決定を行うための重要な役割を果たすと考えられる。このほど Eppo は2,800万ドルのシリーズ B 資金調達を完了した。

月面の水を採掘

宇宙開発分野では、Starpath Robotics が月面水採掘計画を加速させるため、1,200 万ドルの資金調達を行った。同社は、月面の水氷から液体酸素を精製し、宇宙船の推進剤として供給することを目指している。この技術は、月面での持続可能な人類の活動を可能にする重要な要素となる可能性がある。特に、SpaceX や Blue Origin などの民間宇宙企業が月面着陸計画を進める中、月の資源利用は、将来の宇宙探査や宇宙での経済活動の基盤となる可能性があり、この分野への投資は今後も増加すると予想される。

EU で起こる「ふたつの」Apple ショック

EU では、デジタル市場法( DMA )の施行により、 Apple の App Store 以外の代替アプリストアが登場し始めている。TechCrunch には早速、代替となる AltStore PAL 、 Setapp Mobile 、 Epic Games Store 、 Aptoide などが解説されていた。これらの代替ストアは、Apple の審査プロセスを経ずに独自の基準でアプリを提供できるため、より多様なアプリが市場に出回る可能性がある。

注目はやはりこのきっかけともなる論争(そして訴訟も)を繰り広げた Epic Games Store だろう。人気タイトル「Fortnite(フォートナイト)」が iOS に戻ってきたこともあって話題が広がっている。各ストアの特徴は TechCrunch の記事を参照されたい。

一方で、これらの代替ストアの運営には課題も存在する。Apple は代替ストアに対して「Core Technology Fee」と呼ばれる新たな手数料を課しており、これが小規模な開発者にとっての障壁となる可能性がある。また、セキュリティやプライバシーの懸念も指摘されており、各ストアがどのようにこれらの課題に対処するかが注目される。

Apple に関する話題でもうひとつの注目が決済だ。決済分野では、PayPal が EU 市場で Apple Wallet に挑戦する可能性が浮上している。同じく EU の デジタル市場法により、iPhone の NFC 機能が開放されたことで、PayPal は独自の モバイルウォレットを 開発できる状況になった。これにより、決済市場の競争が活性化し、消費者にとってより多様な選択肢が生まれる可能性がある。PayPal は既に EU 市場で強固な顧客基盤を持っており、この新たな機会を活かすことで、モバイル決済市場でのシェア拡大を狙っている。

アプリストアや PayPal をはじめとする競合他社の参入により、Apple は新たな差別化戦略を模索する必要に迫られるかもしれない。また、この変化は他のサービス提供者にも影響を与え、EU のモバイル決済市場全体が再編される可能性もありそうだ。

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