寺田倉庫のインキュベーション施設「Creation Camp TENNOZ」、第1期入居スタートアップ9社を発表

SHARE:
Image credit: Masaru Ikeda

今年4月、寺田倉庫が「Isle of Creation TENNOZ」の第一弾として、同社所有の倉庫をリノベーションしたインキュベーション施設「Creation Camp TENNOZ」を開設することについてお伝えした。ここでは、最大10社のシードスタートアップを無償で受け入れ、2年間のオフィス無償利用に加え、1社あたり1,000万円の出資や投資家・事業会社からのメンタリングなど、総合的な支援を受けられる。

プロジェクトには、日本航空(東証:9201)、サツドラホールディングス(東証:3544)、コクヨ(東証:7984)など複数の企業が協力し、天王洲エリア全体でスタートアップが集まり働きやすい環境を整備することを目指している。また、この取り組みは、東京ウォーターフロントの新たな需要開拓を狙うもので、人口減少やデジタル化の波に直面する東京の未来に向けた新しいモデルの創出を目指している。

9日、Creation Camp TENNOZ の第1期に採択されたスタートアップの披露イベントが開催された。このプロジェクトには200社以上からの応募があり、スポンサー各社の代表らがプランを審査した結果、9社が選ばれた。子育て支援デバイス、自動車整備、更年期障害ケア、環境配慮型家具など、多岐にわたる分野で革新的サービスを展開する9社が登壇し、熱のこもったピッチを行った。

milkmagic by BetterDays

Image credit: Masaru Ikeda

BetterDays が開発した「milkmagic」は、ボタン一つで調乳できる日本初の機器である。この機器は厚生労働省のガイドラインに準拠しており、70℃以上の温度で調乳することで食中毒菌を殺菌できる。また、日本の粉ミルクメーカー全社に対応しており、パートナーシップを結んでいる。同社は、一般家庭向けだけでなく、保育園などの施設向けにも展開を計画している。

Image credit: Masaru Ikeda

milkmagic の強みは、日本の電圧100ボルトで数秒で70℃まで水を加熱する技術を搭載していることや、粉ミルクメーカーとのパートナーシップ、さらには ToC、ToB の両面 でのビジネス展開が可能な点にある。BetterDays は今後、ベビーケアからシニアケアまで、サポートできる領域を徐々に拡大していく計画だ。

JOYCLE by JOYCLE

Image credit: Masaru Ikeda

JOYCLE は、ゴミを運ばず燃やさずに資源化する分散型インフラを提供している。代表取締役の小柳裕太郎氏は、日本の焼却炉の数が減少している現状を踏まえ、ごみの処理コストの上昇やCO2問題に取り組むべく事業を立ち上げた。小柳氏は、社会的変革のレバレッジの高い環境エネルギー分野にリスクマネーと技術革新を持ち込むことが日本の未来、世界の未来につながると信じている。

Image credit: Masaru Ikeda

JOYCLE が開発しているシステムは、IoT センサーと AI を活用し、燃えるごみを分別せずに炭化し、その熱を利用して発電も行う。さらに、大手通信会社と連携し、Starlink と組み合わせて販売する計画も進行中だ。このシステムにより、廃棄物処理コストの削減と環境貢献を同時に実現することが期待されている。今日、寺田倉庫を含む投資家からの資金調達が発表された

Mobility Dock by Mobility Dock

Image credit: Masaru Ikeda

Mobility Dock は、街の整備工場と自動車オーナーを繋ぐマッチングサービスを提供している。代表取締役の加藤与哉氏は、コロナ禍でモータースポーツ業界が打撃を受け、多くのメカニックが仕事を失った経験から、この事業を立ち上げた。自動車業界が整備士不足という深刻な社会課題に悩まされている現状を改善したいと考えている。

Image credit: Masaru Ikeda

このサービスを通じて、自動車オーナーは適切な整備を受けられ、整備工場は新たな顧客を獲得できる。特に、中古車や輸入車のオーナーをターゲットとしており、整備難民と呼ばれる層に対するソリューションを提供している。整備工場の魅力を発信し、車が大好きな自動車整備士の働き方を変えていくことを目指している。

My Fit by My Fit

Image credit: Masaru Ikeda

My Fit は、更年期障害に特化したオンライン診療事業「MILILY」を展開している。代表取締役の山田真愛氏は、多くの50代の女性に支えられて成長してきた経験から、自分の健康を後回しにする人を1人でも減らしたいと考え、多くの50代女性が更年期症状に悩みながらも適切なサポートを受けられていない現状を改善したいという思いで事業を立ち上げた。

Image credit: Masaru Ikeda

MILILY は、産婦人科医による20分間のオンライン診察を提供し、ホルモン療法から漢方まで幅広い医薬品を自宅に届ける。また、継続的なデータ取得から個別ケアを推進している。このサービスにより、3ヶ月間で80%の利用者が症状軽減を実感しているという。更年期障害診療の複雑さに対応し、必要に応じて他の専門科への案内も行う。

XRT by HKSK

Image credit: Masaru Ikeda

HKSK(ハクシキ)は、リアルとデジタルを繋ぐ新しい技術「XRT(クロスリアルターミナル)」を開発している。創業者は、東京大学でコミュニケーションと信頼について研究する中で、人とのコミュニケーションの起点としてのものの重要性に着目し起業した。コレクション性の高いものが人を繋げ、信頼を醸成することに気づき、リアルなものをデジタルの力で拡張し人を繋げる力を高めるのを目指す。

Image credit: Masaru Ikeda

HKSK が開発している XRT は、NFC タグを活用してリアルアイテムとデジタルアイテムを一対一で結びつける技術だ。この技術を活用し、ブランド毀損の最小化とブランド価値の最大化を目指している。具体的には、真贋証明技術とコレクション・ロイヤリティの技術を提供し、ファッション業界などでの活用を見込んでいる。

KNOTTER by ナラー

Image credit: Masaru Ikeda

ナラーは、「旅する家具」というコンセプトで、長期にわたって使い続けられる家具を提供している。創業者は、大量消費される安価な家具が時間の経過やライフステージの変化に耐えられずに捨てられている現状を改善したいという思いから起業した。建築設計に携わる中で、家具のいつかは捨てられてしまうものという認識を、ずっと受け継がれるものへと価値転換を起こしたいという。

Image credit: Masaru Ikeda

ナラーの家具の特徴は、簡単な運搬が可能な設計になっている点だ。例えば、ベッドフレームは分解して持ち運びが可能で、電車の朝ラッシュ時でも運べるほどコンパクトだ。このような設計により、ライフステージの変化や引っ越しなどにも柔軟に対応できる家具を提供している。

OIKOS MUSIC by OIKOS MUSIC

Image credit: Masaru Ikeda

OIKOS MUSIC は、ファンがアーティストの音楽権利に投資できる原盤権のマーケットプレイスを提供している。CD からストリーミングへのビジネスモデル変化により、過去の楽曲も再生回数に応じて収益を生み出すようになり、音楽権利の金融商品化が可能となった。この変化は、音楽産業の構造を大きく変え、アーティストの収益モデルに新たな可能性をもたらしている。

Image credit: Masaru Ikeda

同社は、アーティストの継続的な活動支援と文化投資の普及を目指している。ストリーミング配信からの収益を投資家に分配するシステムを構築し、さらにラジオ番組やイベント開催など、アーティストと投資家をつなぐ多角的な取り組みを行っている。世界中のアーティストが集まる場所を作ることを目標としており、音楽業界の重鎮や有名ミュージシャンもメンバーに加わっている。

CHEEZ by verbal and dialogue

Image credit: Masaru Ikeda

verbal and dialogue は、プラント建設業界向けに工事写真業務の AI 支援システム「CHEEZ」を提供している。従来90時間以上かかっていた工事写真の整理・提出作業を、写真を撮影するだけで一瞬で完了させることができる。特に2024年からの改正労働基準法施行により、プラント建設業の残業規制が義務化される中で、この解決策は業界にとって非常に重要となっている。

Image credit: Masaru Ikeda

同社のビジネスモデルでは、工事案件ごとのプライシングと5年間の写真保管義務に対するプライシングを設定している。プラント業界の特性を活かし、現場単位から元請下請け単位まで柔軟な導入アプローチが可能である。60兆円を超えるプラント業界の生産性向上に貢献し、6年後の IPO を目指し、グローバルな展開も視野に入れている。

Creator’s X

Image credit: Masaru Ikeda

Creator’s X は、AI の力でアニメ制作をサステナブルにすることを目指している。アニメ制作の中間作画と背景制作に焦点を当て、 AI を活用して制作プロセスを効率化する。独自の AI モデルを開発し、既存のイラスト制作ツールと連携させることで、制作工数を大幅に削減することが可能となる。特に、30分のテレビアニメ1話あたり7万枚にも及ぶ作画や、深刻な人手不足に悩む背景制作の課題に取り組んでいる。

Image credit: Masaru Ikeda

同社は単なるツール提供にとどまらず、AI と人間のコラボレーションを最適化するプロセスデザインとマネジメントを重視している。自社でアニメ制作スタジオを立ち上げ、M&A も進めている。アニメ制作の新たな形を作り出すことで、クリエイターの待遇改善や作り手不足の解消、ひいては日本のアニメ文化のさらなる発展を目指している。創業者の動画配信サービス業界での経験を活かし、AI ツールの開発だけでなく、アニメ制作全体のワークフローを再設計することで、業界全体の変革を目指す。


寺田倉庫 代表取締役社長 CEO 寺田航平氏
Image credit: Masaru Ikeda

Creation Camp TENNOZ は10月1日に正式オープンする予定。寺田倉庫の代表取締役社長 CEO 寺田航平氏は、天王洲の持つポテンシャルを最大化させたいという思いを熱く語った。寺田氏は現職に就く前、データセンター事業のビットアイルを創業し上場させた経験があるが(その後、アメリカのデータセンター大手エクイニクスが買収)、過去と比べ業界の成熟を実感していると語った。

私たちは天王洲で約74年事業を行ってきた中で、この場所の持つ力を最大限に引き出していきたいと思います。今の皆さんのプレゼンを聞いてもわかる通り、非常に優秀な方々が起業する社会になってきました。最終的な成功を手に入れるまでには、さまざまな苦難があると思います。ここに集まっていただいている皆様と一緒に、こういった起業家の方々の成長をサポートしていきたい。

Creation Camp TENNOZ は、単なる施設提供にとどまらず、入居企業の成長を支援し、日本発のグローバル企業を生み出すプラットフォームとなることを目指している。イベントには、ベンチャーキャピタリストや大企業の代表者も多数参加し、スタートアップエコシステムの構築に向けた協力体制が確認された。若手キャピタリストの紹介も行われ、次世代の投資家との交流機会も設けられた。

Members

BRIDGEの会員制度「Members」に登録いただくと無料で会員限定の記事が毎月10本までお読みいただけます。また、有料の「Members Plus」の方は記事が全て読めるほか、BRIDGE HOT 100などのコンテンツや会員限定のオンラインイベントにご参加いただけます。
無料で登録する