2015年にローンチされた女性の健康アプリ「Flo」は、主な機能が「生理周期の記録」を支援することだった。これはさほど革新的な技術ではないように思われるが、今年7月30日に2億米ドルの大規模な投資を受け、ユニコーンの仲間入りを果たした。Flo は、この投資を活用して自社のチームを拡大し、更年期の女性へのサービス範囲を拡大する計画だ。

Flo のサービスには生理周期の記録や排卵日の予測、個人に合わせた健康アドバイスなどの機能があり、一時期はデータプライバシーの問題で信頼危機に陥り、集団訴訟にまで発展したことがある。彼らは過去の陰りを払拭し、競争の激しい市場で先頭に立ち続けることができるだろうか? そして何より重要なのは、Flo がどのように収益を上げていくかだ。

単一機能から女性の包括的健康プラットフォームへ

近年、フェムテック産業が急成長し、投資家の注目を集めている。

PitchBook のデータによると、2021年から2023年の間に女性のフェムテック企業が44億米ドルの資金調達を行っている。また Emergen Research によると、2027年までにこの市場規模は600億米ドルに達すると予想されている。Flo はすでに2015年にこの潮流を見据えていた。

Flo は2015年に設立され、フェムテックという用語が初めて提唱される1年前から事業を開始していた。Flo のチームの目標は、単なる生理周期のトラッキングアプリを作るだけではなく、女性の成長段階に合わせた包括的な健康管理プラットフォームを構築することだった。

Flo の中核機能の1つが「生理周期」の追跡と予測だ。ユーザの生理周期データ（日付、身体状況など）を記録することで、生理周期や排卵期などの重要な時期を正確に予測し、女性の生活リズムが乱れないようにサポートする。

さらに、Flo はユーザが記録した70種類以上の生理前症状を AI で分析し、それに基づいた健康アドバイスや情報を提供することで、女性が自身の身体状況をより理解できるよう支援している。

市場には他の競合アプリ（女性の健康アプリ「Rosy」、生理・妊娠追跡アプリの「Clue」、台湾にも多くの類似サービスがある）もあるが、Flo が他社と差別化できているのは、ユーザのニーズに合わせてカスタマイズされた医療アドバイスを提供していることだ。

医療の専門家120人（産婦人科医、カウンセラーなど）からなるチームが、定期的に有料ユーザ向けに分かりやすい健康情報の記事を執筆している。これにより、Floは単なる生理周期記録アプリではなく、ユーザの身近な健康アドバイザーのような存在となっている。

現在、Flo には無料版と有料版（月額8.5米ドル程度）がある。無料版は基本的な生理周期追跡機能だが、有料版は専門家による健康情報記事、カスタマイズされた月次健康レポート、オンラインヘルスアシスタントなど、より包括的なサービスを提供している。

この製品戦略により Flo は、様々なニーズを持つ女性ユーザを惹きつけることに成功した。Flo によると、現在月間アクティブユーザ（MAU）は6,800万人に上り、その内500万人が有料ユーザだ。2024年のサブスク収入は2億米ドルに達する見込みで、前年比約50%の成長を遂げるとしている。

Flo 2つの成功の秘訣——ニッチとスーパーアプリ戦略

Flo の創業者は医療のバックグランドは持っていない。同社は鋭いビジネスセンスを持つベラルーシ人兄弟——Dmitry Gurski 氏（共同創業者兼 CEO）と Yuri Gurski 氏（共同創業者）——によって設立された。

Dmitry 氏は薬学・化学の学位を持ち、コンピュータサイエンスとプログラミングの分野で豊富な経験を持つ。また、関連書籍の出版や複数のテクノロジー企業での管理職経験から、起業とマーケティングの知見も持っている。

一方、Yuri 氏は経験豊富なソフトウェアエンジニアだ。2015年、二人は女性の健康アプリ市場の潜在的な成長性と隙間に着目し、起業を決めた。

フェムテックは長年にわたり、男性の健康産業に比べて、獲得する資金がはるかに少なかった。これは単なるビジネスの問題だけではなく、意思決定者の関心の反映でもあります。（Dmitry Gurski 氏）

彼は意思決定の多くは50〜60代の男性によって行われ、彼らの個人的な経験と関心が資金の流れに影響を与え、女性の健康課題が長期的に軽視されてきたのだと指摘した。

Dmitry 氏は、Floを通してこの状況を変え, 女性の声を聞き、その需要に応えたいと考えている。実際、兄弟は以前にもフィットネスソフトウェアや教育出版社を創業しており、Flo は3つ目の起業プロジェクトで、これまでで最も成功しているものだ。

Dmitry 氏は Flo の成功の秘訣を2つの戦略に帰結させている。一つは、長年軽視されてきた巨大な可能性を秘めたフェムテック市場を選択したこと。そしてもう一つは、生理周期のトラッキング、個別化された洞察、症状分析、専門家のアドバイス、コミュニティサポートなど、女性のライフサイクルのあらゆるニーズに応える「スーパーアプリ」として Flo を構築したことだ。これにより、激しい競争の中で他社との差別化を図ることができた。

MAU6,800万人の陰に隠された課題——データプライバシーのバランスをどう取るか?

Flo の膨大なユーザデータは、製品の継続的な改善の基盤となっているが、同時にデータプライバシーの課題も引き起こしている。この問題は一時 Flo を信頼危機に陥らせ、フェムテック産業全体に警鐘を鳴らすことにもなった。

アメリカ連邦取引委員会（FTC）は2019年、Flo がユーザの機密な健康情報（生理周期、妊娠希望など）を Facebook や Google 等の第三者データ分析企業と共有していたと告発した。これは Flo の自社のプライバシーポリシーに違反するものだった。

Flo は当初この告発を否定したが、最終的に2021年に FTC と和解し、ユーザの明示的な同意なしに健康データを共有することを停止することで合意した。同時に、Flo はデータセキュリティ対策の強化も約束した。

プライバシーの問題に対応するため、Flo は「匿名モード」を導入した。これにより、ユーザ名、メール、IP アドレスを共有せずにアプリを使えるようになり、ユーザの健康データを保護することができる。

しかし、これらの問題により Flo の評判は大きく傷つき、信頼を失って、アプリを削除するユーザが増えることとなった。2022年9月のアメリカ最高裁による「ロー対ウェイド判決の否決（女性の中絶権を認めた1973年の判決を、最高裁自らが否定したことで、アメリカの各州は州法で中絶を禁止できるようになった。キリスト教福音派の支持によって選出されたトランプ前政権の最大の功績とされる）」以降、個人データのセキュリティに対する一般の懸念も高まっている。女性の健康データが訴追に利用される可能性を危惧する声もある。

ユーザの信頼を取り戻すため、Floは「匿名モード」の導入などの対策を講じているが、カナダでは依然として集団訴訟に直面している。

2億米ドルのシリーズ C ラウンド調達、次なる標的は更年期市場か?

Flo は7月30日、シリーズ C ラウンドで2億米ドルの調達に成功した。今回の資金調達は、Alibaba や Facebook などに投資実績のあるプライベートエクイティファーム General Atlantic がリードした。この調達により、Flo の評価額は10億米ドルを超え、ついに「ユニコーン」の仲間入りを果たした。

General Atlantic の Jessie Cai 氏は、フェムテックは長い歴史があるにも関わらず、長年投資不足だった分野だと指摘し。今回の投資は Floの今後の発展への確信の表れだとして、Cai 氏自身も Flo の取締役に就任することになった。

ユニコーンの仲間入りは、Flo とフェムテック産業にとって重要なマイルストーンです。Flo を創業した時から、女性の健康サービスには、大きな需要との間にギャップがあると感じていた。これからも、世界で女性の健康が最優先課題となるよう尽力していきます。（Dmitry Gurski 氏）

同社は、今回の資金調達で更年期女性市場（2025年までに500億米ドル規模に成長すると予想されている）に進出する計画を明らかにした。

同社 CMO（チーフメディカルオフィサー）の Anna Klepchukova 氏は、次のように語った。

更年期市場への進出は、次なるステップとして自然な流れです。

症状のトラッキングや分析、個別の健康アドバイスの提供など、更年期女性に信頼される健康管理プラットフォームを目指していくとしている。このように、Flo は単なる生理周期アプリから、女性の健康ニーズに総合的に応えるスーパーアプリへと進化し、更に更年期市場への進出によって、急成長が期待できるフェムテック分野のリーディングカンパニーになることを目指している。

【via Meet Global by Business Next（数位時代） 】 @meet_startup

【原文】