イスラエルの退役将校3人で創業、トランプ氏襲撃で注目を集めたファクトチェック自動化企業Cyabra(サイアブラ)がSPAC上場へ

Image credit Cyabra

アメリカ大統領候補 Donald Trump(ドナルド・トランプ)氏が7月13日、ペンシルバニア州での集会で襲撃を受けた。X(旧 Twitter)上では、確証のない情報が拡散され、議論の流れを乱す大量の偽アカウントが現れた。

「staged(やらせ)」とタグ付けされた投稿は50万以上のビューを集め、「fake assassin(偽の暗殺者)」と述べた記事は200万人以上が閲覧していた。

しかし、AP 通信The Guardian、SkyNews などのメディアが最初に配信したニュースには、ソーシャルメディアの騒ぎは反映されていなかった。

AP は襲撃事件後、ソーシャルメディアのトランプの発言量が平時の17倍にも達したことを観察した。彼らは報道で、ネット分析会社、ファクトチェック企業、当局の見解を引用し、ネット上に大量の偽情報と陰謀論があることを裏付け、内容を一つ一つ明らかにした。また、The Guardian や SkyNews などのメディアも、最初のニュース報道で、同じイスラエルのファクトチェックスタートアップ Cyabra(サイアブラ) を引用していた。

メディアが Cyabra を信頼する理由

Cyabra は2018年に設立された。彼らは Facebook、X、Instagram などのソーシャルメディアから大量のアカウント情報を収集し、投稿時間、投稿数、アカウント作成日、所在地などの条件から、悪意ある情報を拡散するボットアカウントを特定する。

同時に、公式認証アカウントの投稿と写真を照合し、投稿内容に生成 AI が使われていないかをチェックし、これを偽情報の可能性として扱う。

具体的に説明すると、Cyabra はデータを得た後、AI で数百の行動パラメータを研究する。最近作成されたアカウントか、短期間に投稿が異常に多いか、特定のテーマしか投稿しないなどだ。また、偽アカウント同士のつながりや、フォロー関係を分析し、特定の話題について偽アカウントの規模を把握する。

私たちがチェックするのは、あなたが言っていることだけではなく、あなたの行動なのです。(Cyabra マーケティング副社長の Rafi Mendelsohn 氏)

トランプ氏襲撃事件の例で言えば、AP は Cyabra のレポートを引用し、ソーシャルメディアの投稿に「#fakeassassination」や「#stagedshooting」のタグがついているものの45%がボットアカウントだと指摘した。

この襲撃事件の他にも、2022年に Elon Musk(イーロン・マスク)氏が Twitter 買収を検討した際、Cyabra に Twitter ユーザの調査が委託された。すると、Twitter のユーザの11%が人間ではなく、これが他の SNS と比べて非常に高い割合だったことがわかった。

Warner Music も以前 Cyabra と提携していた。彼らは映画の宣伝期間中、ソーシャルメディアで配信した広告を、ボットやフェイクアカウントから逸れさせ、確実に視聴者に届けたいと考えた。そして、ブランドの評判を脅かす偽情報を拡散するアカウントを特定したいという要望があった。

イスラエル退役将校が創業、労力の掛かるファクトチェックの課題を解決

Cyabra の創業者 Dan Brahmy 氏、Yossef Daa 氏、Ido Shraga 氏は、いずれもイスラエルの特殊作戦司令部(SOCOM)出身だ。
Image credit: Cyabra

Cyabraは、イスラエルの特殊作戦司令部(SOCOM)出身の Dan Brahmy 氏、Yossef Daa 氏、Ido Shraga 氏の3人が創業した。彼らは情報部での訓練を生かし、独自の技術を開発し、アルゴリズムとデータ分析でボットの活動パターンを観察している。

Mendelsohn 氏によると、ファクトチェックは非常に労力集約的で、定量化も難しい。これが長年の課題だったという。

台湾ファクトチェックセンター(台灣事実查核中心)の基準によれば、ファクトチェックのレポートは先にチェッカーが証拠を見つけ、原稿を起草し、編集者が一字一句確認してから公開される。台湾のファクトチェックセンター副編集長 Weiting Chen(陳偉婷)氏によると、月50~60件の情報を訂正できるが、遺伝子組み換えや核処理水など複雑な問題では、より時間がかかる。

一般的なファクトチェック機関が情報内容に焦点を当てるのに対し、Cyabra はソーシャルアカウント自体に注目し、企業、政府、学界に対して、データ、グラフなどを提供し、偽アカウントの関係性や広がりを示す。

企業のマーケティングで必須になりつつあるフェイク情報対策

Cyabra はこの1年で19の国と提携し、ソーシャルメディア上のネットワーク攻撃や選挙への脅威を防いできたが、主な収益源は実は企業市場だ。

Forbes によると、フェイクニュースによる世界経済への影響は約80億米ドルと推定される。87%の経営者が、偽情報の拡散が企業の評判リスクとして最も深刻だと感じている。

リサーチ会社の Gartner は、2028年までに企業の偽情報対策費用が5,000億米ドルを超えると予測している。

Mendelsohn 氏によると、Cyabra のサービスに企業が関心を持っているのは、業界全体で最も成長が早い分野だ。Disney、Zara、Amazon、トヨタなどの企業の情報セキュリティチームや広報部門が含まれる。

ポンペオ前国務長官が 取締役に就任

CIA 長官、国務長官を務めた共和党の Mike Pompeo(マイク・ポンペオ)氏は、Cyabra の民主主義への貢献を称賛し、今年1月に取締役会メンバーに加わった。Cyabra の「About us」ページには、Pompeo 氏の感想が掲載されている。

サイバー悪用行為への重要な防御策を提供する Cyabra と協力できることを光栄に思います。

 

しかし、Pompeo 氏 が取締役会に加わったことで、Cyabra の姿勢や取り上げるテーマに影響があるのではないかと懸念の声もある。

Cyabraは 特別な声明を出したり、回答したりしていない。現時点では、たとえ Pompeo 氏が共和党の人物であっても、トランプ襲撃事件の判決をめぐり、ソーシャルメディアで4分の1の偽アカウントが判決の正当性を批判していたことを明らかにしたレポートを、通常通り公表している。これはトランプ陣営にとって都合の良くないデータだ。

民主党のバイデン政権が任命した 国務副長官 James O’Brien(ジェームズ・オブライエン)氏は、Cyabra について「卓越した情報開示を行い、最良の意思決定に役立つグラフも提供してくれる」と評価している。

NASDAQ へ SPAC 上場

今後2年で30億人以上が選挙に参加する中、誤情報や偽情報の氾濫は、新政権の正統性を疑わせかねない。世界経済フォーラムの2024年グローバルリスク報告書は、偽情報が今後2年間で最も深刻なグローバルリスクとなると強調している。Cyabra は積極的に資金調達を行い、すべての人が「知る権利」を得られるようサポートしたいと考えている。

最近、Cyabra は特別目的買収会社(SPAC)の Trailblazer Merger Corporation(TBMC)との合併を通じて、NASDAQ へ上場すると発表した。この取引では、Cyabra の評価額は7,000万米ドルとなっている。2024年第4四半期の取引完了後、Cyabra の社名で運営されていく予定だ。

【via Meet Global by Business Next(数位時代) 】 @meet_startup

【原文】

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