アルツハイマー抑制効果のあるウエアラブル・デバイスを開発した、韓国の神経科学者スタートアップ「Ybrain」

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【編注本稿は beSUCCESS の英語版である beTECH.AsiaBusiness Korea からの翻訳です。THE BRIDGE では通常、パートナーシップに基いて beSUCCESS 韓国語版からの記事を転載していますが、本稿は原文が英語で韓国語訳が存在しないため、原著者の承諾により英語版からの翻訳を掲載するものです。


ybrain_logo博士号を持つ、韓国の神経科学者とグーグル出身エンジニアらが、人類が現代最も恐れる脳の病を克服しようとしている。アルツハイマー型認知症を発症した人々のうち年間50万人が命を落とし、その看護にかかるコストの総額は年間2,200億ドルに上ると見積もられている。この疾患に関する決定的な治療法が無い中で、韓国の Ybrain が、他の臨床ソリューションよりも成功率の高い、病の進行を抑えるソリューションを開発した。

Ybrain は資金調達を終えており、完全に機能するプロトタイプを使って、臨床試験は韓国で7月に開始される予定だ。同社は2015年早期のサービスローンチを目指している。

Ybrain について知るべく、COO キム・スンヨン(김승연)氏にインタビューする機会を得た。

Ybrain は電気信号を用いて、特に脳の領域に的を絞り、神経科学技術に基づいたウエアラブルデバイスを開発しています。アルツハイマー型認知症に代表される脳障害の症状を軽減することを目指しています。(キム・スンヨン氏)

このデバイスには、ウエアラブルなヘッドバンドの前部に2つのセンサーが埋め込まれており、そこから2ミリアンペア(スマートフォン出力電流の約8分の1)の電気信号が流される。これらがアルツハイマー症状に対抗すべく、脳の活動を刺激するのだ。患者は自宅で利用でき、利用頻度は一日に30分間、週に5日間だ。実験結果による限り、現在で考えられる方法の中で、これがアルツハイマー型認知症に対応できる最良の方法だということが判明している。

このサービスは、既にアルツハイマー型認知症を発症している患者のみならず、将来発症する可能性の高い、50代や60代の軽度認識障害の人々も利用対象としている。

ヘルスケア分野の市場機会

キム氏は韓国国内に1億ドルの市場があると考えており、2017年までに50億ドルまでに膨らむと予想している。ヘルスケアは、イノベーションやモバイル変化に残された主要分野の一つであり、市場が変貌を遂げる中で、ウエアラブルの医療デバイスやモバイル・プラットフォームがどう統合されていくかは興味深い。Ybrain はこの巨大なビジネスチャンスを明らかにモノにしようとしている。

ヘルスケアの4分野(新薬、個人医療、幹細胞研究、医療デバイス)の中で、韓国は特に医療デバイスにおいて、世界の市場リーダーになれる可能性を確実なものにしているようだ。

競合の存在

ニューヨークに本拠を置く Soterix Medical は Ybrain が開発しているのに似たサービスを提供している。大きな違いは Soterix Medical の治療を受けるには、患者は病院に出向く必要があるということだ。この点において、Ybrain のソリューションは自宅で自己完結できる。

サンフランシスコの Halo Neuroscience も競合になり得る。彼らはスタンフォード出身の医学博士のチームで構成されており、シリコンバレーでモバイル分野の実績があり、脳機能の改善デバイスを開発している。しかし、キム氏によれば、Ybrain がハードウェア開発に長けており、アルツハイマー型認知症に対象を絞っていることによって、他の競合と差別化を明らかなものにしているのだという。

チームメンバーのバックグラウンド

Ybrain は博士号保持者を中心とするチームで、博士4人、修士2人、エンジニアリングの学士号を6人が持っている。

Ybrain の CEO は、カリフォルニア工科大学で神経科学分野のポスドク(博士研究員)の学位を取得している。CTO は材料科学の博士号を持ち、サムスン・モバイルでチップ設計のチームに従事した経歴を持つ。COO のキム氏自身も韓国科学技術院(KAIST)で神経科学の修士号を取得しており、モバイル分野でビジネスを構築する上で幅広い経験を有している。

モバイルからハードウェアへ

Inmobi のマーケティング担当副社長の座を辞めて、最近 Ybrain に参画したキム・スンヨン氏は、次のように説明する。

これまでの5年間、モバイルはバズワードでした。これからの5年間のモバイルは、ハードウェアとソフトウェアをつなぐもので支配されるでしょう。この技術の新しい波の中でリーダーになりたい。そして、人々の生活の中に本当の違いを作り上げるという目標を成し遂げたいんです。

アプリ業界には非常に熾烈な競争があり、韓国から生まれる次世代のスタートアップは、アプリやゲームのようなソフトウェア・サービスよりも、ハード寄りの技術で戦うことが求められるようになるだろう、とも述べた。

世界展開を目指して

シリコンバレーは依然として、ソフトウェア開発やプラットフォーム・サービスの主戦場だが、Ybrain はウエアラブル・デバイスの開発を韓国で始めることを選んだ。韓国はサムスンやLGのお膝元であり、これらの企業がイノベーションに従事する韓国スタートアップに対して、素晴らしいローカルパートナーだけでなく、堅牢な世界ネットワークを提供してくれるからだ。

医療デバイス周辺には遵守すべき法律が多く、市場が小さいゆえに多くの検証が求められ、Ybrain は世界展開を一歩ずつ進めることになるだろう。その第一段階として既に70万ドルを資金調達しており、最終的な開発工程と市場展開のため、2014年7月中にシリーズAラウンドの調達を終える見込みだ。

ビッグデータと将来

ビッグデータ分野のビジネス機会を獲得すべく、Ybrain はビッグデータを活用して、自社プロダクトをさらに多様に使えるサービスを2年以内に提供しようとしている。

モバイルデータは〝聖杯〟であり、ビッグデータを集めるだけでなく、正しいデータを正しい目的で使うべきだと考えています。(キム・スンヨン氏)

サムスンを辞めて、スタートアップへ

世界的なIT業界におけるサムスンの位置づけは、これまで起業を考える韓国のトップエンジニアにとっては障害だった。しかし、それは現在変わろうとしている。元サムスンのデベロッパで、Ybrain の CTO はかつて、サムスンの社内で Ybrain のようなプロジェクトに携われないことに不満を抱いていた。彼のように、韓国のトップ企業の約束された立場を辞める決断は、韓国ではより一般的な動きになりつつある。

韓国のスタートアップ・エコシステムからサクセス・ストーリーが生まれるにつれ、このような動きは加速しつつある。Kakao や Coupang(쿠팡)が数十億ドルのバリュエーションをつけたことは記憶に新しい。成功ケースが増えれば、起業の機会を理解し実行する人も増えるだろう。

韓国のスタートアップ・エコシステムは既に存在し成長を続けています。我々は次のレベルへと成長できると確信できるような、より多くの素晴らしい企業が必要なんです。(キム・スンヨン氏)

【原文】

【via BeSuccess】 @beSUCCESSdotcom

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