事業戦略家の五嶋一人氏がアイスタイルグループ入り、「スタートアップ再生人」として投資事業を牽引へ

by Takeshi Hirano Takeshi Hirano on 2015.10.5

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写真左:五嶋一人氏、右:菅原敬氏

国内スタートアップ界隈またひとつ新しい看板が加わる。

アイスタイル【3660】は10月5日、本日付での子会社であるアイスタイルキャピタルの人事および商号の変更実施を発表した(リンク先はPDF)。新たに「iSG インベストメントワークス」という社名になった同社の代表取締役には五嶋一人(ごしまかずひと)氏が就任する。なお、これまで同社代表取締役だった菅原敬氏は取締役となり、2名体制で同グループの投資戦略を牽引することになる。

五嶋氏は銀行でそのキャリアを開始し、2003年にソフトバンク・インベストメントに転職。住宅ローンの証券化事業立ち上げやベンチャーファンドの管理業務、事業子会社の立ち上げ等を経験した。その後、2006年にはディー・エヌ・エーにて事業戦略室長として球団買収案件、国内外のPMI(Post Merger Integration、買収後経営統合業務)などに携わり、2014年にコロプラへ移籍。投資だけに留まらない、幅広い事業戦略分野で活躍してきた人物だ。

そんな彼が、代表として投資事業を牽引することになる。つまり、スタートアップする人たちにとっては、またひとつ相談できる「窓口」が増えたわけだ。

なお、本誌では以前、彼が勉強会で講演した際の記事を書いているのだが、その事業戦略家としての考え方、結論ファーストを徹底するスタイルがうかがい知れる内容になっている。ご興味ある方はぜひご一読いただきたい。

これまでのアイスタイル・キャピタルには投資実績としてネイル販売のMichiや、ファッションメディア運営のワンダーシェイク、動画広告のオープンエイトなど、本業とのシナジーが感じられそうな事業が並ぶ。それぞれ数百万円から数千万円規模で投資を実行し、外部資金を投入した大規模なファンドも組成してこなかった。

iSG インベストメントワークスは今後、アイスタイル本体とは独立した投資意思決定を行う投資事業を運営し、新たに投資事業有限責任組合、つまりファンドの組成も計画することとなる。五嶋氏の話では、まだファンド規模については未定、非公開ということだった。

注目される「シリーズA前期」への注視

さて、気になるのはどういう投資を実行するのか、という点だろう。これを読んでいる起業家諸氏は、果たして対象となるのか。

結論から言うと、かなり幅広い範囲を請け負うというのが両者の話を聞いた感想だ。

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資料提供;iSG インベストメントワークス

まず投資範囲についてはO2OやIoT(Internet of Things)にAR/VR、ヘルスケアなど、インターネットでありながら実業を伴う成長産業を主に支援するとしている。これはアイスタイルの持つコマースやリアルビジネスのノウハウが活かせそうな分野でもある。ステージについてもシードからレイターまで幅広い。

ただ、興味深いのはそのステージの考え方だ。五嶋氏の説明では、現在、国内のファンドでなかなか手を出していない部分があるという。それがこの下の図にある「シリーズA前期」だ。

「シリーズAラウンドというのは実は二つに分かれてるんですね。通常、ベンチャーキャピタルが投資するのはプロダクトができて、KPIがしっかりとしている事業です。ただこのプロダクトができてる、というのが曲者で、本当の意味で公開できる状態になるまでの資金がない、というタイプがいるんです。そこをケアできないかなと」(五嶋氏)。

シード期を支援するいわゆるシードアクセラレーター的な事業者はこの数年間で多数見かけるようになった。それぞれ数百万円規模を出資して数パーセントの株式を取得し、3カ月程度のプログラムを提供してプロダクトの公開までを支援する。

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資料提供;iSG インベストメントワークス

この後、一般的には種類株(初回なのでA種優先株)で数千万円から億円規模の資金調達をするのが「シリーズAラウンド」と言われる資金調達ステージなのだが、当然、プロダクトが「できた」だけであって、どうやってそこから成長させるか、全くわからないという状況で投資家に話を持ちかける場合の方が多いだろう。

投資家たちはKPIがしっかり決まって、そこを踏み込めばどうやって成長するかわかる「分かりやすい計算式」を求め、起業家たちはその計算式が出るまでを支援して欲しいと願う。ここがシリーズAラウンドでよくある両者のギャップになる。五嶋氏の考えはこの一番厳しい「真の死の谷」をケアする、というものになる。

行くことも、戻ることもできないスタートアップたちの再生方法

もちろん起業家諸氏にとって喜ばしい話なのだが、少し待って欲しい。彼らも投資事業だ。この難しい状況をどうやって成果に結びつけるのか。

その解がセカンダリー投資とバイアウト投資の手法だ。

セカンダリー投資は主にシードアクセラレーターが所有する、ファンドの償還期間を超えて支援を要するような案件群の株式を「まとめて」取得し、事業の再生、成長を促進させた上で、最終的なキャピタルゲインの獲得を狙う。バイアウト投資は複雑になった株主構成を一旦綺麗に整理し、こちらも事業再生させた上で適切なリターンを目指すという手法になる。

つまり、シリーズAを目の前にして、前述したようなギャップから前に進むことも後に戻ることもできない状態になったスタートアップの経営状況を一度「リセット」するのが彼らのやり方、といえばいいだろうか。

もちろん荒療治は必要で、そこまで付いている株式の評価額なども同時にリセットされることになる場合が多い。(これは別のケースだが、本当にスタックした場合は株の価格は1円などでやり取りされることになる)

「これまでのキャリアでこのバルク案件というのはやっていて、(困難に陥った)100社もあればやはりその中で光るものを持った会社も1社ぐらいは出てくるんです。再生したその後に上場を果たしたケースもあります。(それでも再生ができなかったケースについては)数年の時間をかけて清算することもありますし、他の会社に吸収するということもあります。これらは一つ一つ丁寧にやっていかなければなりません」(五嶋氏)。

インタビュー最後に五嶋氏に、もし起業家が事業に迷ってやめるべきかどうか悩んだ場合、どこで判断したらよいか尋ねてみた。するとこんなコメントをくれた。

「時間よりも経営者の気持ちの部分が大きいです。(外的要因で)やめるにやめられないような状況であれば、それはやめるべきだし、創業者の思いだけでやっている場合はやはり、しっかりと検証すべきなのでしょうね」(五嶋氏)。

彼らが数年経過した国内スタートアップ・エコシステムの最後のギアとなるのか。今後の実績が気になるところだ。

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