タイ政府が1億4,700万米ドルのデジタル経済ファンドを設立、シンガポールやマレーシアに追いつけるか?

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Bangkok Business Area via Flickr by Nik Cyclist

タイは、国内スタートアップの育成のために50億タイバーツ(1億4,700万米ドル)のファンドを設ける予定である。設立は今年の9月になる見込みだ。

The Bangkok Post の報道によると、このデジタル経済ファンド(Digital Economy Fund)は4つの機能を担うことになる:

  1. テクノロジー企業の成長支援
  2. 研究開発への取り組みを促進
  3. デジタル経済振興機関(DEPA)の運営を支援
  4. 国家デジタル経済委員会(NDEC)を費用面でサポート

情報通信技術省に代わって昨年設立されたデジタル経済社会省がデジタル経済ファンドへの資金の割り当てを担当している。こうした資金の支出を監督する運営委員会がまもなく設立される予定。

そしてこの運営委員会は、プラユット・チャンオチャ首相が議長を務める NDEC によって管理される。

また、The Bangkok Post は新ファンドの設立に加え、「デジタル経済社会省、歳入局、投資委員会が、スタートアップに提供される適切なインセンティブパッケージの策定に取り組んでいる」としている。

テクノロジーの知識を持つ労働力をタイで育てていくために、様々な機関がデジタル経済社会省と協力している。

デジタルイノベーションパークの建設

タイ政府は100億タイバーツ(2億9,400万米ドル)を投じてチョンブリー県シーラーチャー郡(バンコクの南東、タイランド湾に位置する都市)にデジタルイノベーションパークを建設中だ。同パークでは、データセンター、クラウドコンピューティング、インターネットゲートウェイサービス、光ファイバーなどのデジタルインフラが設けられる

また、The Bangkok Post は、同パークの建設によってスタートアップは「深海港、空港、鉄道、高速道路、CAT(通信企業)の海底ケーブル地上局などの輸送・物流インフラにアクセスできるようになる」と報じている。

CAT Telecom とタイ工業団地公社(The Industrial Estate Authority of Thailand)の支援を受ける同パークは、2018年の稼働開始を予定している。

デジタル経済ロードマップ

現在タイでは革新的なテクノロジー主導型経済へと転換しようという機運が高まっており、デジタル経済ファンドもそうした取り組みの一つである。

このロードマップは Thailand 4.0と呼ばれている。簡単に言えば、デジタル知的財産の生産を増やし、従来の製造業への依存を減らそうというものだ。

例えばタイ政府は、IoT などのスマートテクノロジーイノベーションを活用して農業分野の改革を行いたいと考えている。また、同国における電子決済の成長を加速させる計画もある。タイ政府の目標は、こうした戦略によって自国の労働者が「中所得の罠」から脱出し、高所得層に入ることだ。

東南アジア地域における最先端ハブの座をめぐって、シンガポールやマレーシアなどの近隣諸国が競争を繰り広げており、タイがそれらの国々に追いつきたいと考えているのが見てとれる。

しかしここで重要なのは、この野心の種が最初に植え付けられたのは10年以上も前ということだ。タイ政府は革新的なエンタープライズソリューションの成長を促進するために、2003年に国家イノベーション庁(NIA)を設置している。したがって、現在の動きはテクノロジーを主要産業に押し上げようという構想を新たに見直したものとなる。

2016年のタイにおけるテック企業の資金調達額は、合計で1億800万米ドル以上であった。4年前と比較して30倍に増加しているが、約35億米ドルというシンガポールの数字と比べるとかなり少ない。また、タイのスタートアップがイグジットに成功する割合もシンガポールの3分の1ほどにすぎない。

したがって、ハイテク産業を躍進させるためにタイ政府がテクノロジー中心のファンドやプログラムを次々と(略語ばかりで頭が混乱するほど)打ち出したとしてもなんら不思議ではない。

昨年5月、科学技術省は5億タイバーツ(1,420万米ドル)のファンド・オブ・ファンズ(FoF)を設立した。その対象となる分野は、スマートカー、ロボティクス、医療観光、デジタルヘルス、アグリテック、バイオテクノロジー、航空、バイオ燃料、食品などだ。

さらに、財務省は同様の分野へ投資を行う「競争力ファンド(Competitiveness Fund)」というファンドを設立した。

資金調達面の支援に加え、タイ政府はベンチャーキャピタルとスタートアップに対する規制の緩和も行っている。例えば、政府はベンチャーキャピタルによるスタートアップへの投資について、少なくとも今後5年間税金を免除している。また、スタートアップは従業員にストックオプションを提供することができ、これにより従業員が辞めてしまわないようにモチベーションを上げることができる。

また、タイ政府は海外の起業家やテクノロジーの専門家に対して永住権を与えるなど、彼らがタイ国内で働きやすい環境づくりも行っている。

海外からの人材といえば、タイは外資の誘致も行っている。

世界最大の小売企業である中国の Alibaba は、タイ政府との間で同国における e コマースの受け入れ環境の整備に関する協定を結んでいる。同じく中国の巨大 e コマース企業 JD も、タイ市場への参入を検討している

微笑みの国タイに注目しているのは中国だけではない。米国の旅行サイト TripAdvisor は、東南アジアにおける初の投資としてタイのレストラン予約プラットフォーム Eatigo に投資を行っている。

また、タイ政府はこれまでよりも株式を上場しやすくしたいと考えており、まだ収益のないスタートアップを対象とする証券取引所も開設する予定だ。

いくつかの障害

たしかに資金供給や政府による様々な取り組み、プログラムなどが増加することは、起業家やスタートアップの発展にとっては大きなプラスとなる。しかし、1人の子どもを育てるためには村全体が協力しなければならない。つまり、すべての村民が手を取り合って共通の目標に向かっていく必要があるのだ。さもなければ、子どもは矛盾した価値観を持って育つことになる(そしておそらくは、周りに順応できないはぐれ者になる)。

Digital Ventures の Corporate Venture Capital でマネージングディレクターを務める Paul Polapat Ark 氏によると、タイの問題点は教育システムが十分な水準に達していないことだという。

Ark 氏は e27の記事の中で次のように指摘している。

タイでは人的資本や知識基盤への投資が圧倒的に不足しています。何らかの高等教育を受けたことのある労働年齢人口の割合は他の3ヶ国では30~45%ほどですが、タイではわずか12%です。

さらに、民間の研究開発への投資は他の国では2〜4%なのに対し、タイではわずか0.5%である。

また、同国の有名な不敬罪法(王室批判を禁じる法律)に従って、動画ストリーミングプラットフォームを厳しく規制しようとする動きや、Facebook のアクセスを無効にしたり特定のウェブサイトをブロックしたりするといった脅威もある。

タイが真にイノベーション精神を取り入れたいと望んでいるならば、社会的および政治的価値観に対して狭量な姿勢を見せるテクノロジー産業とうまく折り合いをつけていく必要があるだろう。

俗に言うように、いいとこ取りはできない。

【via e27】 @e27co

【原文】

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