地方で起業にチャレンジする現実

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インターネットが出てきた頃、私はこの技術が「時空を越える」ものだと教わった。時間と空間。メールならオンデマンドで伝わるし、遠いスーパーまでいかなくても重たい水が買えるようになる。ーーそしてそれは実現した。

一方で、変わらない現実もある。例えば起業する場所だ。東京一局集中で、人も金もモノもここに集積している。そして今、この問題を解決しようと活動している人たちがいる。

先週末、私は福岡であるイベントに参加してきた。満員御礼の壇上には、福岡にゆかりある実業家たちが中心となって立上げたスタートアップ・サポーターズ福岡(S2福岡)の姿があった。

S2福岡は明星和楽で発表された、福岡での起業支援コミュニティ活動。ーーMOVIDA JAPAN代表取締役の孫泰蔵氏、nomad代表取締役の小笠原治氏、paperboy&co.取締役で福岡支社長の進浩人氏らが中心となり、福岡を舞台に起業家の育成を目指している。

地方で起業する現実と課題は何か。現場で出会った声からいくつかの「やるべきこと」を考えてみた。

福岡は起業しやすい?ーー決定打を模索する福岡

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突然の高島氏セッション参加に目が泳ぐペパボ進氏(左:高島市長、右:進浩人氏)

「チャレンジできる状況を作るんよ」ーーイベントにサプライズで飛び込んできたのが福岡市長の高島宗一郎氏だ。スタートアップ福岡都市宣言などで起業支援を強く推進しており、福岡の起業家との距離が近い。高島氏は福岡が起業しやすい街であるといくつかの理由を挙げていた。

  • 15歳から29歳の若者の割合が日本一
  • 大学が京都についで集積している
  • オフィス賃料が安い

ーーしかし同時に高島氏は「じゃあ三カ月後に福岡に来て起業する?って言われても来ない。そのポイントを知りたい」と、模索している状況を語る。

地方で起業する現実と新しいチャレンジ

私は福岡で実際に起業している何人かの起業家に話を聞いてみた。現在AppToyにチャレンジしているある起業家は資金面で苦労しているようだ。

「人には恵まれていて住みやすいですし、ソフトウェアのエンジニアに優秀な人が多いです。ただ、簡単にエンジニアを見つけられるわけじゃなく、増えてきている勉強会などで声をかけていますね。一方で資金調達は難しくって、投資機関には『それだったら東京に行った方がいいよ』って言われることもあります」。

資金調達の担い手は東京にいるVCやインキュベーターのような存在ではなく、大きな企業や銀行系の投資機関が中心になっているようだ。また、何人かは「実際に人に会う」ことを課題に挙げていた。

「もし福岡が起業しにくかったら東京へ行ってました。コストは安いですし、そもそもIT系はどこでもやれます。ただ、人のつながりをつくること難しくって、最近増えつつあるこういうイベントを利用してます。営業などで東京に行くには、金銭的な面もありますが、それよりも少ない人数なのでそこにリソースを割けないというのが大きいです」。

この営業面と資金面の二つについてはよく話を聞いたので、この辺りがネックになるのだろう。ただ、話にもあったようにイベントや行政の支援が徐々に出てきているので、環境は良くなったと話す声も多数聞こえた。

福岡からカーシェアリングに挑戦するリーボ

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福岡スタートアップの新星「リーボ」

着実に結果を出しつつあるスタートアップも福岡からでている。リーボ代表取締役CEOの松尾龍馬氏もその一人だ。彼は東京よりも競争が激しくない福岡だからチャンスを形にできたと語る。

「カーシェアリングのマーケットは確かに東京や大阪が中心です。ただ移動費が安くなったのは大きいですね。東京と福岡で3万円ちょっとで行けますから、スタートアップでも福岡で作って首都圏で営業することができるんです。

人、モノ、金、全ての面で苦労はしましたが、東京に比べて競争はそこまで激しくない。結果的にファイナンスは東京に向かいましたが、福岡でもスタートアップすることができました」(松尾氏)。

リーボの創業は2011年7月。約1年半の準備期間を経てリリースしたカーシェアリングサービスには全国から問い合わせがきているという。現在はそれに対応できるパッケージを準備中なのだそうだ。

学校をやめたい大学生、会社を飛び出す若者

ところで今回のイベントでは参加人数こそ多いものの、なるべく会場と会話しようと務めていた。

例えば、スタートアップするために、どういう方法で仲間を集めたらいいかという質問に、ヌーラボ代表取締役の橋本正徳氏は「フィーリングが大切」と自身の経験を踏まえてアドバイスしたり、小笠原氏も「仲間の間はいいけど、チームになったらリーダーが必要になる」と、具体的な指摘をしていた。

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小笠原治氏

学校を辞めるかどうか迷ってる大学生に孫氏が「本質は自分が学びたいことを学べる時に学べるところで学ぶべき。ただ両親は子供のことを一番に考えてくれる人。だから真正面からしっかりと自分の考えを伝えるべきだと思う」とお兄さんのように答えていたのも印象的だった。

時間は短かった。けど、こういう機会に先輩起業家との距離を縮め、アドバイスを貰えるルートを確保することこそ重要だし、場所を用意する側にも求められる姿勢になるのかもしれない。

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イベントは終始なごやかな雰囲気で進む(写真右:ヌーラボ橋本氏)

ペイ・フォワード

「福岡を盛り上げなきゃいかん」ーー二年前頃から福岡の起業家と積極的に会うようになったという孫氏。「シリコンバレーなどで起業家のプレゼンテーションを聞いているが、福岡の起業家と全く遜色がない。ある意味で東京の起業家よりもユニーク」。地元福岡の新星をこう評する。

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孫泰蔵氏

彼には三つの顔がある。実業家、投資家、そして育成者だ。彼の講演にはよく出てくる言葉がある。それが「一隅を照らす、これ則ち国の宝なり 」ーー1000年前に最澄が残した言葉だ。

「起業は会社を作ることじゃない。大企業にいようと行政にいようとどこでもいい。誰もが気が付いていない。取り組んでいない問題にスポットライトを当てて、人々のライフスタイルを変える。どんな小さなことであれ、自分にしか気がつけない一隅を見つけること。みんなが少しずつ一隅を照らせば世界は劇的によくなる」(孫氏)。

ペイ・フォワード。彼の多くの失敗と成功の体験は次の起業家に伝えられる。

やるべきこと

自分事として地方で起業できるかと考えた時、私は単純に取材対象やイベントが東京に集中しているし、Skypeがあったとして、キーマンにはやはり会って話をしなければ重要なことは引き出せない、という課題が大きく存在している。

一方で高島氏が披露した若者の多さ、オフィスの賃料の安さ、空港からのアクセスの良さなどすぐに分かるメリットも多い。こういう情報はもっと数字を含めて分かりやすく伝える必要があると感じた。

特にコストの安さは開発やオペレーション拠点として、スタートアップであっても魅力的なレベルかもしれない。

だからこそ伝える力、メディアの役割は大きいと思う。情報が正確に伝われば、少なくとも営業や投資に関してはマッチングの精度は上がるはずだ。大手メディアでなくても私たちのようなブログがもっと中に入り込んでこういう情報を拾うべきなんだろう。今後、福岡の起業コミュニティと連携を模索したいし、うまく仕組み化にチャレンジしたい。

あと、孫氏と話した時に地域の「初等教育」はもっと質を上げるべきという指摘があった。

確かに周囲の中堅(30代中心)キャピタリストやシリアルアントレプレナーは、丁度子供が初等教育に入る頃で、シンガポールなどに移住してグローバルな環境での教育を受けさせる、という話をいくつか聞いている。男性の起業家はよしと決断しても、家族の理解が得られなければ移住は無理だろう。

今後も地域の起業については追いかけたい。