大企業による「新規事業創造」スキームとはーーGCPが朝日新聞らと新ファンド設立

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グローバル・カタリスト・パートナー共同創設者、大澤弘治氏
グローバル・カタリスト・パートナー共同創設者、大澤弘治氏

インターネット環境の整備や、昨今のスマートフォンの爆発によって明らかに流れが変わってきているのが情報流通の速度だ。新聞で報道されていた時代に比べ、発生した出来事はソーシャルを通じ、即時にアップデートが伝えられるような状況が生まれてしまった。

結果として流行り廃りが激しく、その流れに合わせなければならない企業活動も迅速かつ柔軟な変化を求められるようになった。

国内でオープンイノベーションという言葉が盛んに使われるようになった背景もそんなところにあるのだろう。

内部の人材だけでこの流れに乗ることが難しい企業は、その新規創造の力を外部に求める。国内でもその動きは活発となり、KDDI ∞ Labo(ムゲンラボ)は通信キャリアが積極的に仲介役を買って出た事例だろうし、最近国内の大手企業が独自にアクセラレーションプログラムを立ち上げる、なんて話題も最近よく聞くようになった。

スタートアップ・エコシステムにとってはM&Aの活性化は好材料だ。

一方で相性の良いスタートアップが都合よく存在するかというとそこは難しい。そもそも違う文化を持つ企業の統合ともなると更に困難が伴う。そこで折衷案的な選択肢としてよく挙がるのが、社内部署の新規事業でもなく、企業買収でもない「社内ベンチャー」といった取り組みになる。

この手法に外部からの資金提供を加えて新しいプログラムを提供しようとしているのが、グローバル・カタリスト・パートナーズだ。

このほど日本に投資事業責任組合を設立し、独立行政法人中小企業基盤整備機構や朝日新聞社、日本電気、ヤマハ発動機、ACCESS等を有限責任組合員(LP)として50億円規模のファンドを立ち上げている(組成日は2014年8月)。同ファンドでは既にデータ解析のFULLERやラクスルなどへの出資も実施しており、ファンドのマネージング・ディレクターにはグローバル・カタリスト・パートナーズ(以下、GCP)の共同創設者でもある大澤弘治氏が就任している。

大澤氏は三菱商事にて情報産業の事業開発や投資に携わった人物。1993年からシリコンバレーに赴任し、99年に同社を退職してGCPを設立。GCPでは米国やイスラエルのアーリーステージのIT系企業に投資を続け、これまでに3ファンド(総額3億ドル)の運用を実施してきた。現在のポートフォリオには楽曲検索のShazamの対抗馬、SoundHoundなどが並んでいる。

大澤氏は今回のファンド設立の背景に日本企業の「元気のなさ」を挙げる。

「93年からシリコンバレーに駐在員として赴任していますので、(半導体事業などの)日本企業が米国で元気な姿もずっと見てきました。あれから20数年、いつの間にかそういった企業は中国や韓国に取って代わられて忸怩たる思いがあるんです。(北米からみる)アジアのスタートアップといっても中国やシンガポールが出てきて『まず日本』とはならない」(大澤氏)。

大澤氏の米国赴任が93年、ネットスケープの上場が95年だから彼は米国も含めていわゆる市場の「熱狂」を生で体験してきている世代だ。車、バイク、家電、半導体。様々な日本製品がもてはやされたあの時代を経験している人から眺めると、今の日本は確かに物足りないかもしれない。

では大澤氏はどのようにして日本企業の新規事業創造を活性化させようとしているのだろうか。大まかに説明するとこのようなものになる。

まず、パートナー(LP)となる企業内で本業とはあまり関係のない新規事業のアイデアがあったとして、それでもやりたい場合、GCPが出資をしてスタートアップさせる。アイデアを出した企業はその元となった担当者を出向させるだけで、この段階では株式などの権利は持たない。

出向者も完全にスタートアップに在籍してもいいし、企業に残ったままでも構わない。事業をフェーズ毎に切っておいて、そのタイミングまでに軌道に乗れば、企業はその権利をある一定条件で買い戻すことができる、といったスキームだ。

大澤氏によれば、この方法であればアイデアをスタートアップさせた段階では、元ネタを提供した企業はこのスタートアップとなんら関係がなく、自由な振る舞いができる。また、出向する人材もうまくいかなかった場合に戻る場所が残される。

「大企業には潜在的に優秀な人材が眠っています。しかし新規事業を作ってスピンアウトさせる、という手法は難しい。なぜなら企業のガバナンスというのは本業用に作られていて、事業計画のゴールが予見できるものに対してうまくデザインされている。つまりダウンサイドはその計画のゴール以下にはならないようになっているんですね。

けれどスタートアップというのはやってみないとわからないのが常です。優秀な人材もキャリアパスにマイナス評価がつくのを恐れて新しいことにチャレンジしたくない場合もある」(大澤氏)。

もし事業が軌道に乗らなくても、企業のリスクはLP出資している金額だけとなる。「意気込んで立ち上げたベンチャー子会社が倒産!」という見出しは新聞には踊らないわけだ。

しかしどうだろう。このアイデアを聞いた段階で大澤氏にも伝えたが、理想的に見えて大きな穴がぽっかりと空いているように思った。つまり、出資をする企業側、起業家となる社員の双方に用意されているリスクヘッジが「逃げ道」になる可能性がある点だ。

正直、起業や新規事業はしんどいことしか待っていない。

確かに中堅の会社員が家族もローンも全て捨ててこういった「いばらの道」に人生を賭けるというのは、大変難しい選択だと思う。この点の難しさについては大澤氏もよく理解した上で「新しいスキームにチャレンジすることが大切」というのはごもっともだ。

大企業における新規事業の難しさは「雇用を守れ」というルールと、「捨て身で事業を創造せよ」という社会的意義のジレンマとも言えるかもしれない。

彼らの取り組みはまだ始まったばかりだ。続報があればまた話を聞いてみたいと思う。

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