なんとなくでVCから資金調達は絶対にしちゃダメ!

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img_takamiya_02本稿はnanapi代表取締役で起業家の古川健介氏が主催するMedium「The First Penguinー起業家たちの軌跡から学ぶメディア」からの転載記事。執筆陣の一人でグロービス・キャピタル・パートナーズのパートナー、高宮慎一氏が投稿したこちらの一本を本人の許諾を得て掲載させてもらった。

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Poison by design by Austin Valley, on Flickr

僕は、スタートアップの成長を支援する、ベンチャーキャピタル(VC)というオシゴトをしています。スタートアップに投資をして資金を供給し、投資した後は社外役員の形などで経営面もがっつり支援しています。

(誤解を恐れずに言うと)

よくスタートアップに投資する前にあえてネガティブな言い方をして、「VCからのファイナンスは、“悪魔との契約”だ」と言って、“経営者の腹落ち度”を確認したりします。

イメージは人気コミック『ARMS』のあのシーン…

「力が欲しいか?」

です。

“悪魔との契約”の意味?

どういうことかと言うと、VCからの資金調達は、現在のステージの身の丈に合わない大型の資金がどうしても欲しいとき、資金面以外でも経験豊富なアドバイザーに参画して欲しいときの、奥の手、ニトロ注入みたいなものだと思うんです。

そういう意味で言うと、数多くあるファイナンスの手法の中でも、特殊なケースにのみうまくハマる、非常にイレギュラーなものと言うこともできます。なので、VCからファイナンスできることが良い事業の定義ではないし、VCからファイナンスできない、すべきでない、良い事業なんて山ほどあると思っています。

VCからの調達を考えるようなステージのスタートアップだと、通常売上、利益はまだまだ立ち上がっていなくて、銀行からのデット(貸付)はつかない、かと言ってオーガニックな(事業で稼ぐ)キャッシュフローだと、ちょぼちょぼ過ぎて事業に投資するスピードが全然あがらない。でも、市場が大きくてめちゃ成長してとか、競争が激しくってスピードを持って面を押さえないと競合にやられるみたいなときに使う奥の手なんだと思うんですよね。

一方で、起業家は失うものもあり、VCというビジネスは、「そもそもそういう仕組だ、仕方がない」というレベルで、お金を入れる代わりに株式、いわばその会社の“カラダの一部”をもらいます。(この辺りはこちら『ベンチャーのExit戦略については、起業家は最初から理解しておいたほうがいいかも』

VCも、ファンドを作るにあたり背後にいる投資家のお金をお預かりしていて、ファンド満期時(通常10年程度)にそれにリターンをつけてお返ししなきゃいけないんです。だから、投資先のスタートアップを株主として、社外役員/アドバイザーとしてがっつりサポートしますが、いつかは“Exit”(※)をすることが必須になります。

※株主が、株式を売却する機会という意味で“Exit = 出口”という言葉が使われています。通常だと、上場やM&Aなどがそれにあたります。でも、あくまでも、“Exit”って、株主目線の言葉で、会社にとっては手段となるイベントなので、僕はあまり“Exit”という言葉が好きじゃないんですが…。

つまり、いつかは“カラダの一部”を持って、いなくなる存在なのです。

また、VCからのお金を受け入れるということは、VCがVCの背後にいる投資家に期待されているリターン(「ファンド全体で10年で何倍だから、このステージで投資した会社は何倍を目指す」みたいなこと)を出すことに、コミットすることを意味するんですね。ここは起業家にとって非常に大きな決断で、なんとなくでVCからお金を引くべきでは絶対になく、意識的、戦略的にするべきことなんですね。

逆に、VCとしても、この辺りをちゃんと起業家に説明して、納得してもらった上でなきゃ投資してはいけないと思っています。そして、起業家も納得してVCから調達を決めたからには、本気で約束を守るべく頑張らざるを得ない…(もちろんそれでも結果が伴わないケースはあり、結果としてそうなるのは仕方がないと思いますが、それでも精神論として約束は絶対に守る!ということになってしまいます)。

その辺りの認識が、起業家と投資家で合っていないと、いざExitというときにおおいに揉める可能性があります。なので、投資する前段階で、資本政策は不可逆だからこそ、お互いにすべてをさらけ出したうえで、きっちり、認識、期待値をすり合わせることが、本当に大事だと思うのです。

なので、僕はあえて「悪魔に体の一部を渡して、力を得る」というネガティブな言い方をして、ちょっとひっかけっぽいんですが、それでも大きな機会をモノにしたいですか?競争に勝ちたいですか?と、経営者の腹落ち度を確認するようにしています。

「悪魔」というとネガティブなイメージになってしまいなんなんですが、僕らVCからしても、逆に起業家に約束をしています。「契約するからには、最強の悪魔になります、悪魔同士の戦いなら負けません!」と。ひねくれずにストレートに言うと「僕たちVCも会社の成長に貢献するよう死ぬ気でがんばります、同じ船に乗って一緒にやりましょう、だから僕たちを選んでください!」ということなんです。

なんやかんやで、誰からお金を調達するのかを選ぶのは起業家です。VCが勝手に投資したいスタートアップを選んで投資できるのでなく、起業家に選んでもらってはじめて、投資できるわけですから。

では、VCから調達する際に、気をつけるべきことは?

気をつけるところは、以下の3つだと思っています。

  1. そもそもVCって必要なんだっけ?
  2. 空約束しない、心から約束できることのみ約束する
  3. キャピタリスト個人と、人と人との信頼関係を築く

1:そもそもVCって必要なんだっけ?

まずは、そもそも論ですが、自社の事業にVCは必要か?適しているのか?ということが最初に答えるべき質問になります。

今、世の中的にはVCからの大型調達が話題になっています。10億円の調達はざらで、場合によっては数十億円の調達まで見られるようになりました。そんな中、VCから調達できることが良い事業、大型調達することがかっこいいといったように、ファッション化しているような気すらします。しかしながら、当然、VCだけが資金調達の手段ではありませんし、事業特性ごとに適した調達の手段があるのです。

「世の中にインパクトを与えたいから、競合に勝たないと意味がない、大きくスケールさせる必要がある」

または、

「想いがあるユーザに対して、想いを共有できる仲間と、規模よりもその想いを大事にしていきたい」

どちらが原点にあるのかで、最適なファイナンスの手段は変わります。前者は、スピード感が求められ、また競争が激しいことが予想されるため、VCファイナンスという“奥の手”が大きく有効です。

一方で後者は、オーガニックなキャッシュフローや借入可能な範囲で、じわじわ、でも堅実に成長させていくことが良いかもしれません。VCファイナンスで求めらる、急成長やExitを約束することにも、無理があるかもしれません。

自社の事業特性を見極め、VCからの調達のリスクや失うもの、それによって得るものを天秤にかけ、それでもVCから調達したい、すべきだと腹落ちして、はじめてVCからの調達をすべきです。そして、そのうえで、VCを選ぶ際には、お金だけでなく、お金以外で自分達に必要な支援をしてくれるところから調達をすべきです。

2:空約束しない、心から約束できることのみ約束する

Exitについてもそうなんですが、何事もVCから投資を受ける前に、自分ができない、やりたくないと思うようなことは空約束をしないことが大事です。

これ、結構やってしまう誘惑にかられちゃいます。いい条件(時価総額や契約条件)で投資を受けたいからといって、自分でも達成が無理だと思っている事業計画を無理矢理に約束したり、本当はオーナー企業的に自分がすべてコントロールしていたいのに上場をすることを約束したり、M&Aは嫌なのに上場できなかったらM&Aします、なんてことを約束してしまいます…。

これは絶対にしないほうがいいです。むしろ投資前には、VCと目線を合わせ、「これは約束できるけど、これは約束できない」とフランクかつ真摯に話し合うべきです。それでもお互いに一緒にやりたいとなって、はじめてVCから調達をすべきなのです。

3:キャピタリスト個人と、人と人との信頼関係を築く

VCは会社としてスタートアップに投資しているとはいえ、Exitするまでの短くても数年、長ければ5年とか7年、起業家と一緒にやるのは、担当するベンチャー・キャピタリスト個人です。

長期間同じ船に乗るからには、まずはそのキャピタリスト個人との“心の信頼関係”が何よりも大事だと思います。では、どうしたら“心の信頼関係”を築けるのか?

いざ資金調達が必要という段階になると、思いっきり利害が絡んでしまいます。起業家と投資家でお互いにいろいろお化粧をして、自分を良いように見せてしまいます。そんな状況では、本当の心の信頼関係を築くことは難しくなってしまいます。利害が絡むずっと前から接点を持ち、信頼関係を築くしかありません。

調達が現実味をおびる数年前から、しかも形式ばったミーティングだけでなく、食事やスポーツなどでもキャピタリストと会い、そのキャピタリスト個人の人となり、自分との相性を確認し、そして信頼関係を深めていくのが良いでしょう。実際に、僕が投資したスタートアップは投資する数年前から友達付き合いをしていた起業家がほとんどです。

また、“心の信頼関係”を築いていく中で、プロダクト、事業戦略、組織、資本政策など、さまざまな相談やディスカッションをする機会もあるでしょう。すると、そのキャピタリストと“スキルの信頼関係”も築くことができます。投資を受けた後に、どんな支援をしてくれるのか、自分がアドバイザーから補いたいと思っていることを提供してくれるのか、イメージをつかむことができます。

そういう意味では、デューデリ(“デューデリジェンス”投資前の調査)はVCの活動だと思われがちですが、起業家にとっても投資を受ける前にVCをデューデリすることが大事です。自分自身で接点を持って判断すると同時に、そのキャピタリストの他の投資先、うまくいっているところにも、うまくいってないところにも、ヒアリングすることがおすすめです

心の面、スキルの面、双方でそのVCと信頼関係を築くことが、資金調達の局面のみならず、投資を受けた後も、うまくいくことの秘訣でしょう。

エコシステムという大きなメカニズムのひとつのパーツ

最後になりますが、日本でもVCからの資金の流量が増え、スタートアップが数十億といった大型調達をできてきています。今までは大きく遅れをとっていた資金面でも、シリコンバレーのスタートアップと伍して戦える前提が整ってきました。日本のスタートアップエコシステム全体にとって、非常に良いことだと思います。

アメリカだと、「お父さん、お母さんの年金のお金がVCに投資され、それがスタートアップに流れ込み、子どもたちの新たな産業が生まれている」という良いサイクルができあがっています。スタートアップが大きく成長し、VCにリターンを生みだし、VCが年金基金などの投資家にリターンを生み出す、そしてそのリターンを原資に投資家はVCに更に大きな資金を供給し、VCはスタートアップに資金を供給する…といった具合です。

そのサイクルが自己拡大的によりうまく回っていくために、エコシステムのプレーヤー全員(起業家、VC、VCの背後にいる投資家、M&Aの買い手、上場後に株を引き受けてくれる株主、証券会社・弁護士・会計士などのプロフェッショナルファームなど)にとって、Win-Win-Winになることが重要だと思っています。

なので、VCはもとより、スタートアップ、起業家も、自己利益の最大化の部分最適を図ってはいけないと思っています。パイの自分の分け前を増やすことより、エコシステムの参加者全員で、パイ全体を大きくすることが大事なんじゃないかなぁと思います。VCもエコシステムという大きなメカニズムの一つの歯車として、スタートアップの成長を支援し、投資家にリターンを返すことで、サイクルを回すことに貢献したいなぁと考えています。

「The First Penguinー起業家たちの軌跡から学ぶメディア」

【原文】

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