処方ミスによる事故は米国だけで100万件超ーービッグデータを活用し、時に生死に関わる処方ミスをリアルタイムに防ぐ「MedAware」

by Yukari Mitsuhashi Yukari Mitsuhashi on 2015.10.14

処方ミスをリアルタイムに防止してくれる「MedAware」
処方ミスをリアルタイムに防止してくれる「MedAware」

ビッグデータを活かすことで私たちの生活を抜本的に良くする分野があるとすれば、それはヘルスケアではないでしょうか。身近なところでは、活動量計などで取得したデータを基に、日々の生活改善を促すウェアラブルなどがあります。一方、時に生死に関わることもある処方ミス発生の防止に取り組むのが、イスラエル発の「MedAware」です。

2012年に設立されたMedAwareは、ヘルスケア管理にビッグデータを取り入れ、特許取得済みのテクノロジーを使うことで処方ミスをリアルタイムに防いでくれるシステムを開発しています。

MedAwareを開発するのは、IT業界と医療業界の二足のわらじを履いて活動してきた共同ファウンダーでCEOのGidi Steinさん。2002年にテルアビブの医療学校を卒業した後は、内科の道に進み、イスラエルのRabin Medical Centerの内科診療部の副長を勤めたことも。そんなSteinさんが、MedAwareを立ち上げることになった理由とは。

以下、Q&A形式でお届けします。

画面のクリックミスで人の命が奪われてしまう現状

Q. MedAwareの仕組みについて教えてください。

A.機械学習のアルゴリズムが異常を検知、処方のミスマッチにはアラートで反応。

MedAwareは、機械学習のアルゴリズムを用いることで異常を検知します。数百万を超える診療記録をもとに自動的に数式モデルを生成し、処方薬の種類に応じて、その特定の処方薬が処方される可能性が高い患者とそうでない患者を教えてくれます。処方箋が入力されると、MedAwareが患者のプロフィールと処方薬をマッチングし、そこにミスマッチがあるとアラートが出ます。そのアラートに対しての医者の反応がモデルにフィードバックされることで正確性が磨かれ、「アラート疲れ」を防止します。

Q. 診療医として患者さんを見てきたSteinさんが、MedAwareを立ち上げることになった背景について聞かせてください。

A.9歳の男の子が画面のクリックミスで命を落としてしまったこと。

内科の現場で働く医師として、私自身も、自分はずっと医療の道を志す若者に教えたり、患者を診察することに人生を注ぐものだと思っていました。でも、数年前に起きたある事件がそれを変えました。かかりつけの医師が、コンピューター画面上で間違ったプルダウンメニューを選んでしまい、間違った薬を処方してしまったことで9歳の男の子の命が奪われてしまいました。

この医師は、男の子にぜんそくのための薬「Singulair(シングレア)」を処方したかった。でも、プルダウンメニューで隣にあった抗凝血薬「Sintrom」を処方してしまった。既存のシステムにはこれを防止する術がなく、その翌週、男の子は自転車から落ちて頭蓋内出血で死亡しました。医師が間違った判断を下したのではなく、うっかりのミスだった。文字のタイポ(ミススペル)によって、人の命が奪われてしまったも同然です。

処方ミスによって、米国では毎年のように何百、何千もの命が危険に脅かされています。目の前の患者を診療することより、この課題に対するディスラプティブなソリューションを見つけることでよりも多くの患者の命が救えるだろうと考えました。

イスラエルと米国の病院などで、計150万人の患者を対象に試験運用

Q. MedAwareの規模感がわかるような数値があれば教えてください。今はどんなステージなのでしょうか。

A.イスラエルと米国の病院などで、計150万人の患者を対象に試験運用。

MedAwareのテクノロジーは、150万人の患者によって試されました。私たちのシステムは、Sheba Medical Center(イスラエル最大の病院)に試験導入され、もう間もなく病院に本格導入されます。また、イスラエルで2番目に大きなHMO(医療保険)でも、2016年の第一四半期の導入が決まっています。

2つの病院とHMOを含む3つのパイロット調査で、42万5,000人の患者、4,400万の処方箋を解析しました。その結果、約6,000人の患者に対して、生存期間の短縮、入院期間の延長、再入院などの形で命に関わる処方ミスがあることが判明しました。

また、米国マサチューセッツ州ボストンにあるBrigham and Women’s Hospitalでのパイロットプログラムも最終段階にあります。このプログラムでは、5年以上の受療歴がある80万人の外来患者を対象にしています。近いうち、その結果も共有できると思います。(パイロット調査の詳細

Q. 現在、MedAwareのような処方ミスを防ぐソリューションはありますか。それらとの違いは?

A.データドリブンであることで生まれる正確性と、アラート疲れの防止。

競合と言えるルールベースのソリューションには、ユビキタスな処方薬の飲み合わせのアラートシステムなどがありますが、これらは処方ミスのほんの一部しか特定できません。また、誤報のアラートによって、「アラート疲れ」が起きています。

一方のMedAwareは、ビッグデータ解析と機械学習アルゴリズムを用いることで処方箋を特定します。さまざまな臨床症例のシナリオにおける従来の処方箋パターンを集め、それを逸脱したパターンを特定します。MedAwareのデータドリブンな自己学習システムの特徴は、高い適応性とパーソナライズ、また非常に正確であることです。

エンジニアはイスラエル国防軍のエリートプログラム出身者ばかり

Q. MedAwareは、OurCrowdから資金調達をしていますね。詳しく聞かせてください。

A. 協力を惜しまない個人投資家が集まるのが、OurCrowd。

前回の資金調達ラウンドでは、GE VenturesとOurCrowdから100万ドルを調達しました。GE Venturesは、スタートアップ企業にとってこの上ない最高のパートナーです。OurCrowdは、エクィティに特化したクラウドファンディングプラットフォーム。つまり、そのデューディリジェンスのプロセスは、他のCVと変わりません。また、ポートフォリオ企業とOurCrowdの財務関係も通常のVCと類似しています。むしろ、投資家と直接繫がるわけではないため、より良い関係を築くことができる。

OurCrowdを活用するメリットはさまざまです。でも主に、プラットフォームに登録する5,000人を超える個人投資家が、ポートフォリオ企業を支援するための労力を惜しまずに協力してくれること。なぜなら、企業の成功が投資家の成功そのものを意味するからです。OurCrowdには、関連する分野の影響力のある個人投資家が集まっています。これは、予想もしなかったところで、新しいドアを開いてくれています。

Q. MedAwareを立ち上げるにあたって最大の困難は何ですか?

A.エンジニアの採用、ビジネスモデルの確立、そして資金調達。

まず、不可能を可能にするための世界でも最良レベルのアルゴリズムとソフトウェアエンジニアを採用すること。また、分散化され保守的な米国のヘルスケアシステムにおいて適切なビジネスモデルとGo-to-Market戦略を見つけ出すこと。そして最後に資金調達です。

私たちのエンジニアは、全員、口コミや人からの紹介で採用に至っています。その多くは、イスラエル国防軍によるエリート トレーニングプログラム「Talpiot program」の出身者です。彼らは皆、もっと給与の高い職に就くことができる優秀な人材です。でも、ソフトウェアやアルゴリズムの専門家が、その仕事で人の命を救う機会に恵まれることは非常に珍しいと言えます。そこに魅力を感じて、MedAwareに参画してくれています。

Q. 近々でMedAwareが予定している動きについて聞かせてください。

A.新たなパートナーシップの模索やテクノロジーを応用した新たなソリューション開発。

今後、数ヶ月の間に明らかにできると思いますが、非常に興味深いパートナーシップに向けて動いています。また、私たちのユニークなテクノロジーを活用することで、医療や保険制度、そのプロバイダーに向けたアクショナブルなリスク管理サービスも開発しています。不要なヘルスケアコストを削減し、パーソナルリスクの特定や結果予測を行うものです。

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