スタートアップに実行力を学ぶーー森永製菓はアクセラレータープログラムを通じてオープンイノベーションを狙う

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スタートアップの「アクセラレータープログラム」が日本に入ってきたのが2010年頃。2012年頃には、大企業も「アクセラレータープログラム」を提供するようになった。

今日では、多くの企業が”オープンイノベーション”を目指して、アクセラレータープログラムを実施している。「森永アクセラレータープログラム」も、大企業である森永製菓が実施するアクセラレータープログラムのひとつだ。

森永製菓がスタートアップ・アクセラレータ・プログラム「Morinaga Accelerator」をスタート

「森永アクセラレータープログラム」は、2014年12月に、東京のインキュベーターである01Boosterと共同でスタートした。プログラムのスタートから1年以上が経過し、森永の社内にも変化が生まれ始めたという。

今回、アクセラレータープログラムの現状と、大企業とスタートアップのコラボレーションによって生まれたサービスについて、森永製菓 執行役員 新領域創造事業部部長の大橋啓祐氏と、01Booster代表取締役の鈴木規文氏に話を伺った。

アクセラレータープログラムのはじまり

左:01Booster代表取締役の鈴木規文氏 右:森永製菓 執行役員 新領域創造事業部部長の大橋啓祐氏
左:01Booster代表取締役の鈴木規文氏
右:森永製菓 執行役員 新領域創造事業部部長の大橋啓祐氏

大橋氏「:2014年4月に、新領域創造事業部が立ち上がりました。新しい事業を立ち上げることがミッションではありつつも、何をやったらいいんだろう、というのが最初の状態でしたね。そんなときに01Boosterの鈴木さんにお会いしました。最初は、具体的に何をするのかも決まっていませんでした」

そう大橋氏は鈴木氏との出会いを振り返る。具体的なアクションは見えないものの、強く課題を感じていたという。そのとき、鈴木氏から言われた言葉が、今でも印象に残っているそうだ。

大橋氏:「アイデアに価値があると考えていること自体が間違いなんです。新規事業は実行することに価値がある」そう言われて、衝撃を受けました。どうしたら私たちはマインドを変えることができるか、そう相談したところ、鈴木さんからはアイデアソンという提案がありました。

初めて、アイデアソンを開催した大橋氏たちは、印刷会社や流通会社など普段の取引相手以外と初めて出会う。そこで、自分たちの視野が狭いことに気づいたという。

大橋氏:参加したメンバーもマインドセットが変わりました。社長も最終日に様子を見に来たんです。社長も何か新規事業をやらないといけないと考えつつも、大企業の新規事業はなかなかうまくいかない。そして、うまくいかないパターンは、全部自前でなんとかしようとするときに多い。これはいままでとは違うやり方が必要だと考えていました。

アイデアソンで手応えを感じた大橋氏は、鈴木氏から「アクセラレータープログラムを始めてみませんか」と提案され、すぐに動いた。

大橋氏:私たちは、それまでベンチャーの人たちのエピソードを聞いたことがありませんでした。会社で働く人間は商品が売れなくても給料が入る。ベンチャーの起業家たちはそうではありません。厳しい環境の中で、立ち上がった人たちは、アイデアではなく実行力に圧倒的な差がある。森永製菓に足りていない実行力が学べるのでは、そう考えたことがアクセラレータープログラムを決めた理由です。

素早い社内决定プロセス

4月に大橋氏と鈴木氏が出会い、アイデアソンの開催からアクセラレータープログラムの募集開始までに要した期間は、約8ヶ月。様々な企業のアクセラレータープログラムを支援する鈴木氏も、その熱量に驚かされたそうだ。

鈴木氏:新領域創造事業部の人たちの本気度がとても高いことを感じました。ここが大きなポイントです。森永製菓は、「何か新しいことを起こさないといけない」という熱量が高まっていた状態。そこに私たちが何かしらの触媒として入っていくことで、一気に燃え上がるんじゃないか、そう考えました。

森永製菓のアクセラレータープログラムは、かなりの速さでスタートまでこぎつけた。その裏側には、ある想いと社内の構造があった。

大橋氏:会社を辞めて起業する人は、新しいことをやりたいけれど、決裁スピードが遅くて辞めるパターンがとても多い。私たちは、ベンチャーの人たちと付き合っていく上で、とにかくハイスピードで回したいと考えました。幸い、私たちの部署は社長直轄。決裁が特に早い環境にありました。もちろん、社内の理解も必要なので、経営会議で「やります」という説明もしました。

多くの企業は「検討」で時間がかかってしまう。シンプルに决定できる体制にしていた部分が、素早くアクセラレータープログラムをスタートできた理由だろう。

鈴木氏:担当部門の人たちが本当に新規事業を生もうとしているかが成否を分けます。新規事業に関する部署でも、本気で新規事業を生もうとしていないことがほとんど。

社内と社外の変化

アクセラレータープログラムを実行したことで、どのような変化が周囲に起きたのだろうか。

大橋氏:社内の反応については、アイデアソンの段階から、現状の会社に対して問題意識を持っている人をセレクトしていたので、「本当にやるんだ」という感じでした。アイデアソンに呼ばれていなかった人は「何やるんだろうね」という状態。ただ、社長がいろんな場で発信をしていたので、社内的にはいいムードで動いたと思います。

起業家を招いての講演やアイデアソンを開催するという活動も、社内のコンセンサスを高め、社内の雰囲気をアクセラレータープログラムと合わせていくことにも一役買っていた。

大橋氏:よくある新規事業の失敗理由には、何をやっているかわからないから、というものが挙げられると思います。社内の人を動かすには、なんだか楽しそう、手伝ってあげたいなという雰囲気を作ることが大事なのではと考えていました。気配りとまではいきませんが、気をつけていましたね。

社内だけではなく、アクセラレータープログラムを通じて、社外との接し方にも変化があった。

大橋氏:アクセラレータープログラムをやり始めたら、付き合う人が変わってきました。たとえば、アクセラレータープログラムつながりで、学研アクセラレーターの方々とお会いしました。それまで、学研の方々とのお付き合いはありませんでした。視野が広がったことで、競合の捉え方が変わったり、新しいビジネスの仕組みに敏感になりました。私たちのビジネスは原材料を仕入れて、作って、売るというもの。アプリやウェブサービスなど、シンプルな仕組みではないビジネスがあることを改めて認識しました。

アクセラレータプログラムの今後

morinaga

手応えを感じている森永製菓のアクセラレータープログラム。今後は、一体どのようにプログラムを進めていくのだろうか。

大橋氏:まずは、出資もした2社をきっちり応援することに注力します。アクセラレータープログラムを、お祭りのようにやっても意味がありませんから、プログラムが浸透するように年1回ではありますが、しっかりと実行するプログラムにしていきたいと考えています。そうすることで、しっかりサポートする事業がプログラムから複数生まれるかもしれません。

鈴木氏:アクセラレータープログラムを通じて会社も変わります。重要なのは、成果は半年では出ないということ。中長期で捉え、ベンチャーと一緒に事業を育てていく意識が重要になります。そして、このプロセスを通じて副次的な効果が生まれます。

大橋氏:直接の投資にはつながらないけれど、ユニークなスタートアップとのネットワークができたことも副次的な効果のひとつですね。

森永製菓のアクセラレータープログラムは、会社のネットワークや考え方を広げているようだ。

大橋氏:ネットワークが増え、「お菓子会社」に掛け合わせる先が増えると、 事業の幅が広がっていくのではないかと考えています。既存の競合先だけを見ている会社にはならず、視野を広げていきたいと考えています。

新領域創造事業部から生まれた「おかしプリント」も、そんな姿勢から生まれたサービスのひとつ。従来の、どこかの会社にただ発注するというやり方ではなく、強みのある会社を組み合わせて事業を立ち上げた。

大橋氏:これまでは、ベンチャーに仕事を発注しようとしても、「それってどういう会社なの?」と言われて、なかなか発注できませんでした。そのため、バリューチェーンの中で、有名企業に大きく任せてしまうことが多かった。考え方を変え、バリューチェーンを細かく切ったことで、ビジネスの組み立て方も変わってきています。

アクセラレータプログラムを通じたオープンイノベーションは、今後どうなっていくのだろうか。

鈴木氏:社内の人たちに社外を受け入れる姿勢やマインドセットがなされていくと、さらなる変化が生まれます。いまだ、アクセラレータープログラムを下請け探しだと捉える会社も多いですが、パートナーシップを組むという思想になると、オープンイノベーションの世界では勝っていけるはずです。今後も、アクセラレータープログラム等を通じて、マインドセットを変えていくように働きかけていきたいと思います。

「森永アクセラレータープログラム」は現在、2016年の参加者を募集している。5月12日(木)と6月3日(金)には、事前セミナー・交流会を開催する

「森永アクセラレータープログラム」を実施したことで、アクセラレータプログラムを通じて生まれた新規事業「お菓子プリント」については、後編で詳細をお伝えする。

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