スタートアップでも経験者は一定の金額をもらうべきーー楽天創業期を支えた安武氏が振り返るスタートアップ参加の方法【社員番号1桁インタビュー】

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創業期の楽天の様子/安武弘晃氏提供

本稿は社員数10人未満のスタートアップに飛び込んだ人、すなわち「社員番号1桁」な方に、時を経て当時のことを振り返ってもらう連続インタビュー企画。起業家の柴田陽氏と川村亮介氏が「社員がほとんどいない最初期のスタートアップのリアルな情報や認知が少ない」という問題意識に端を発した連載である。(前編からの続き)

スタートアップでも「経験のある人は一定の金額をもらってしかるべき」

読者の中には数年の社会人経験があり、腕に覚えがある方も多いだろう。こういった経験者がスタートアップに転職する場合について安武氏は「スタートアップであろうが大手であろうが、生活はそこに存在している。経験のある人は一定の金額をもらってしかるべき」と話す。

「スタートアップだから『いろんなものを捨てて将来の博打にかける』みたいな空気があるんですけど、やっぱり得策じゃないかな。スタートアップでも適切な権限や働き方、それを支えるベースとなる普通の給与が約束された上で勝負するというのが妥当です」。

最近はある程度の段階でベンチャーキャピタル等から資金調達を受け、高給ではないにせよ一定の給与を用意できるスタートアップ環境が整備されつつある。

「スタートアップ議論で違和感があるのが、リスクを取って将来大きなものを得るのか、それとも今のまま我慢するかっていう『2つのネガティブ比較』みたいになっている点ですね。いいとこ取りしてもいいんじゃないかな。うまくいくかどうかというオールオアナッシングではなくて、うまくいかない場合もまた転職してセカンドプランがあるや、ぐらいの感覚でスタートアップ人生を楽しむのが大切と思うんです」。

会社に長く在籍するほど、辞めたら誰も評価してくれなくなるのではないかという恐怖感があるかもしれない。こういった「今いる場所が今の物事の前提」に思えてしまうバイアスは取り去るのが難しい。安武氏もまた「楽天をやめたら誰も相手してくれなくなるのではないか」という恐怖感があったそうだ。

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創業期の楽天の様子/安武弘晃氏提供

ビジネスモデルが優れているほど組織は劣化するーービジネスモデルのジレンマ

NTTという大きな組織や今もなお成長し続ける楽天、また、M&A などを通して多数のスタートアップから成長のモメンタムを失った企業までみてきた安武氏は「ビジネスモデルのジレンマ」という面白い視点について語ってくれた。

企業には利益の分配装置としての役割があり、企業が大きくなることで大きな雇用を生み、社会的意義が果たされる。一方で企業が大きくなる過程で「外から売上や利益を取ってくる人」ではなく「分け前を優先して考えてしまう人」が増えてくるのだそうだ。確かに創業初期のスタートアップには、エンジニアやデザイナーなどの作る人と事業開発や営業などの売る人しかいないことが多い。

成長する中で優れたビジネスモデルを開発できた企業は、ビジネスモデルという仕組みにより収益が上がる。そのため新規事業などリスクを取って挑戦できる環境が提供されやすい反面、ダメな人が入ってきても事業自体は安泰だったりする。

スタートアップはビジネスモデルが脆弱だ。業績が悪くなればダメな人は淘汰されてしまう。

しかし皮肉なことにビジネスモデルを鉄板にすればこういう人も残ってしまい、果ては働く魅力が減ってしまうことにつながる。大企業になるほど属人性を排して仕組みで儲ける傾向にあるのは直感的にも納得できるが、このように構造的に捉えるのはエンジニアらしい発想で興味深い。

チャレンジするメンタリティの人と一緒に人生を過ごす

2016年1月に楽天の取締役常務執行役員を退任した後、安武氏はベイエリアに移り創業者として自身の事業をスタートアップしている。今は数人のメンバーとともにプロダクト開発をしており、18年の時を経てふたたび「社員数1桁」のフェーズを経験しているそうだ。

「楽しいお祭りというか。自分が引退する頃になって、あの頃楽しかったよね、いろいろやったよねと言い合えるような人と時間を共有し、新しいことに挑戦するメンタリティの人のために自分の人生の時間を使いたいですよね。スタートアップ的なことが全員にとって正しいとは全く思いませんが、そういうことがやりたい人には選択肢が用意されているべきです。ついでに、もっと自由な方がいいかなと思って米国に飛び出してみました」。

インタビューの最後、安武氏は私たちにメッセージとしてこうアドバイスをくれた。

「チャレンジしたいとか、スタートアップ的なことをやってみたいと思うなら、やってみるべきです。でも『やらない』という選択肢を取るんだったら、やらなくて幸せな道を探すのもまたひとつだと思いますよ」。

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