gumi、メルカリの中からチケットキャンプを選択した酒徳氏が振り返る、スタートアップ参加の道【社員番号1桁インタビュー】

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本稿は社員数10人未満のスタートアップに飛び込んだ人、すなわち「社員番号1桁」な方に、時を経て当時のことを振り返ってもらう連続インタビュー企画。起業家の柴田陽氏と川村亮介氏が「社員がほとんどいない最初期のスタートアップのリアルな情報や認知が少ない」という問題意識に端を発した連載である。

創業2年でmixiが115億円の価値を付けたチケットC2Cサービス「チケットキャンプ」。

創業期から取締役CTOをつとめる酒徳千尋氏は、モバイルゲーム事業を展開するgumiの社員番号2番でもあった。社員番号1桁としてスタートアップに参画するということについて話をお聞きする。(編集部注:インタビュアーは柴田陽氏と川村亮介氏のお二人、回答は全て酒徳氏)

突然のZynga Japan解散

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2007年ごろのウノウの様子/写真提供:酒徳千尋氏

「本当に青天の霹靂でしたね」ーー当時を振り返る酒徳氏はこう切り出した。

ウノウがZyngaに買収されて2年強が経過した2012年10月のある日、酒徳氏はあと3カ月足らずで会社が解散されるという衝撃的な告知を受ける。

ウノウがまだ12、3名だった2007年に入社した酒徳氏は、入社直後からウノウの出資先だったgumiの立ち上げに参画した。1年目はgumiの1番目のエンジニア(ウノウからの出向扱い)として、そして2年目はgumiの社員番号2番として同社が5,000万円を調達するまでの苦しいフェーズを支えた。

その後ウノウに復帰して数々のサービスに関わった後、Zyngaによる買収を迎える。会社の解散が告知されたのは買収から2年2カ月後のことだ。解散にあたり、会社が手配した転職サポートによってたくさんの転職オプションが目の前に並べられたが、酒徳氏は自分が起業することも含め、小さい会社しか選択肢として考えられなかった。

「自分としては、官僚的な組織文化に違和感があったんです。自分はスタートアップ向きの性格なのかもしれません」。

メルカリ、gumi・・・4つの選択肢

酒徳氏は4つの選択肢を検討していた。1つ目は古巣でもあるgumi。代表の國光宏尚氏から戻ってこないかと誘われており、gumiの海外事業にも興味があった。2つ目はウノウ創業者である山田進太郎氏が、次なるプロジェクトとして準備中だったメルカリ。3つ目はZyngaの同僚であるゲームプロデューサーが立ち上げようとしていたゲーム会社。そして4つ目がZyngaの同僚でもある笹森良氏が構想中のフンザだった。

中でもフンザの成功確度が一番高そうだったと酒徳氏は振り返る。

「当時笹森さんは、チケットのC2Cサービス(今のチケットキャンプ)と、ネイルサロンの口コミサイトの2つのアイディアを検討していました。いずれも、市場調査や競合の弱み、後発でも勝てるポイントなどが既に分析され、事業計画は相当練り込まれていた」。

笹森氏の経営手腕について同僚として間近で観察したことも一因だったという。

「自分として選択肢の中で笹森さんが一番だったんです。Webサービスに対して研究熱心だし、Zynga Japanの最後の1年間において事業の選択と集中で黒字化に近づけたことも、彼の手腕が大きかったと思う。社員をモチベートするモチベーターとしての才能もあると思った」。

今となってはもう笑い話だが、メルカリについては「ジェネラルなフリマアプリというのは全然ピンと来なかった」と思ったとのこと。

代表の山田氏についても、今は「ビジョナリーでモチベーターというイメージがある」と前置きした上で、当時の感想については「ウノウ時代は性格として独善的なところもあったし、うまくいかないと思ってました。ただ世界一周から戻ったらすごい変わってましたね」(筆者注:山田氏はメルカリ創業前1年間で世界一周旅行をしていた)

創業期のスタートアップを選ぶ軸は「腹を割って話せるか」

ウノウ、gumi、フンザと、数々の創業期にエンジニアとして関与してきた酒徳氏は、創業期のスタートアップを見分ける軸として2つのポイントをあげてくれた。

「創業メンバーたちと腹を割って話せるかということ。創業期であればサービスを巡って意見が対立する場面は当たり前で、腹を割って話せなければ相手の意見を尊重できない」。

2点目については「サービスの性質として自分が興味を持っているかどうか」。

例えばフンザであれば、創業者の笹森氏はライブ好き、(執行役員の)松浦想氏はアイドル好き、酒徳氏は演劇やスポーツ観戦が好きなのだそうだ。酒徳氏は「自分がdog fooding(サービスを自分で使ってみること)できることは大事ですよね」と語る。

意外だったのは創業期のスタートアップを選ぶ軸として「成功の確度は考えても仕方ない」という発言だった。というのは酒徳氏自身が4つの選択肢を選ぶ際に「成功の確度」で決めたように思えたからだ。その点については、酒徳氏は以下のように説明する。

「若い頃に比べ、だんだん技術を追求する面白さよりも、技術を使って何を実現するのかの方が興味が出てきたんです。面白い技術を満載しても誰にも使ってもらえなければ意味がないので、作るのであればヒットする、みんなに使ってもらえるサービスを作りたい。一方で、そのサービスが当たるか、ヒットかホームランかなどということは事前には分からないですよね?」。

つまり、成功の確度は重要であるものの結局見積もれないため、よりブレない軸として上記の2つがあるということなのだろう。

リソースが少ないからこそ、優先順位についての感覚が研ぎ澄まされる

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2007年ごろのウノウの様子/写真提供:酒徳千尋氏

フンザが創業期に重視していたのは徹底して無駄なことをやらない、本当に必要なことしかやらない姿勢だった。酒徳氏は「少ない人数、限られた時間で、何をやるかについて相当神経質なり、感覚が研ぎ澄まされていった」と振り返る。

例えばチケットキャンプには、ローンチからしばらく一部の機能が実装されていなかった。「去っていくユーザーを追うより、新しいユーザーを追うべき」というのが当時の理由だ。一分一秒でも削って本質的なところだけを追いたいという徹底ぶりはすさまじいものがあったそうだ。

サービスを通じてユーザー価値を届けることに集中したいという、ここまでの強い思いは、以前の社内政治に飽き飽きしていたことがフンザ創業メンバーの共通体験としてあったからかもしれないと酒徳氏は語る。

あらゆる人からSEOの話を聞いた

リリースから爆速で成長し、たった2年足らずでミクシィに買収されたチケットキャンプ。意外にもリリース直後から順風満帆ではなかったらしい。以前に手がけたもっと苦しいプロダクトよりは初動がいいと楽観視していた酒徳氏に対して、笹森氏は強烈な危機感を持っていたという。

「結果的には、笹森さんの危機感が正しかった。あのとき危機感を持っていなければいまのチケットキャンプはなかったかもしれないですね」。

当時、危機感を持って取り組んだのはSEO対策だったという。2カ月位、SEOに詳しいあらゆる人から話を聞いて施策を磨いた結果、サービスは上昇気流に乗ることになる。

酒徳氏が考える創業期スタートアップに向いていない人は?

自身の経験を踏まえ、創業期のスタートアップで勤めるデメリットとしては、ワークライフバランスの取りにくさがあると酒徳氏は振り返る。わかりやすいエピソードとして、笹森氏と深夜12時に交わしたチャット上の議論を説明してくれた。

「一部のユーザーにバグがあって、いま深夜12時から修正リリースを出すかどうかの議論になった。笹森さんは、たとえごく一部のユーザーであっても、修正が簡単ならば一刻も早くユーザーに届けたいという考え。僕は、明日10時に出せば影響ないのではなないかという考えだった。その時は結局折れて、12時から修正リリースを出しました」。

このような状況は創業期では日常的に発生する。こういう議論についていけない人、ワークライフバランスを重視するような人だとやはりうまくいくことはないだろう。ただこのとき酒徳氏が深夜の緊急リリースに反対したのは、早く眠りたいと思ったためではない。

「長期間走れるほうが大事だと思っていたから反対しました。C2Cのような長期間かけて伸びるようなサービスは、常に全力疾走していたのでは気力・体力が削られてしまい必要なときに走れない」。

こんな議論でさえ、本質的なサービス価値につながるかどうか、という点では、両者の哲学は一致しているのだ。

スタートアップに参画するタイミング

美術展の企画などをする仕事から、技術職へのジョブチェンジとして派遣社員扱いでドワンゴに2年務め、エンジニア勉強会をきっかけとして2007年にウノウに入社した酒徳氏。彼にも、社長と意見が合わないと翌日出社しない、というような時代があったようだ。

Twitterに会社の愚痴を書き込むようなこともあった。変わったのは2009年以降、つまりgumiでの立ち上げを経験してからだと語る。

「リーダー的なポジションになってから、部下がそういうことをしていると見苦しいなということに気づいたんですね。それ以降はやらなくなりました」。

数々の立ち上げに参画してきた酒徳氏だが、最近は「以前ほど馬力が出なくなってきた」とも打ち明ける。結婚・出産して家族ができると長時間労働はさらに厳しくなる。

「もしかすると、小さな子供がいる人は創業期のスタートアップに参画するのはやめたほうがいいかもしれない」と漏らした酒徳氏。「子どもがまた小さいという貴重な時期を、仕事に費やしていいのか、本当に考えるべきですね」。

今は「いかに自分が動いてしまわずに、人にやってもらうか」が酒徳氏のテーマだという。能力の高いエンジニアを採用するということは大前提とした上で、能力やモチベーションは引き出せるという。

「人によっても何をモチベーションとしているかは違う。褒めたほうが良い人は普通の200%増しで褒め、放っておくとふらふら本質的じゃないことに時間を使っちゃう人は、厳しい言葉で目指す目標の方に立ち返らせる。いかに最大限のパフォーマンスを引き出すかが仕事なんです」。

安武氏や藤本氏のインタビューでも共通していたテーマである、家族持ちはスタートアップに参加しづらくなるという問題。優秀なエンジニアであれば、あまり年齢に関係なく転職機会があり、失業の恐怖は比較的小さい。

逆にそれがゆえに、いつでもスタートアップに転職できると楽観していると、昼夜問わずスタートアップに打ち込むという機会を逃してしまうのかもしれない。独身で若いうちに創業期のスタートアップに参加して経験を積み、レバレッジできるものを蓄えておくという教訓が引き出せるのではないか。

創業直後のスタートアップに会える合同説明会「社員番号一桁ナイト」を開催します。

THE BRIDGE では柴田陽氏、川村亮介氏らと協力し、社員数10名未満のスタートアップに出会える場「社員番号一桁ナイト」を定期開催いたします。創業メンバーとして「イケてる」スタートアップに参加したい方はぜひご参加ください。(詳細はこちらから)

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