「リアル版Dropbox」ミレニアル世代のセルフストレージ事業を紐解くーー生き残りに必要な2つの鍵とは(後編)

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<ピックアップ : Clutter and the Emergence of Real Estate-As-A-Service Platforms>

セルフストレージ市場で生き残る2つの方法

(前半からの続き)ここからは先述したリスクをどう回避するかを、実際のスタートアップの事例を挙げて紹介していきます。

2013年にカリフォルニア州で創業した「Clutter」は高い収益率と低い設備投資で市場を大きくリードするスタートアップです。表立ったテクノロジーなどは持ち合わせてはいないものの、約9,600万ドルもの資金調達を果たし、著名VCであるSequioa Capitalからの投資も受けています。

同社がターゲット顧客とするのが郊外の一軒家に住む家族。大荷物を長期間預かって欲しいニーズを持ち合わせており、預けた荷物の引き出し回数も年に1〜2回程度。長期間の保管を想定していることから、LTVの高さが特徴です。加えて、荷物の配達回数も少ないことから物流網整備へのコストも低く済みます。

移住することもほとんどないため、早急に各都市に倉庫を構える必要もありません。また、郊外で安く借りることのできる大型倉庫を活用することで、設備投資のリスクも回避できています。このように都市部から郊外に住む家族層へと顧客属性を変えるだけで、大きく商機を獲得したのがClutterなのです。

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それでは都市部に住むミレニアル世代のニーズをスタートアップはどのように満たせるのでしょうか?このままでは資金力の持つ大企業だけが勝ち残る寡占市場になってしまいます。1つの答えがAIの活用です。

貸し倉庫版Airbnb「Neighbor」は2018年3月末に250万の資金調達を実施。同社は自宅の空き場所を貸しスペースとして提供するP2Pマーケットを運営します。自社で倉庫を持つ必要がないため、初期投資をかけることなくリスティング数を増やすだけで事業拡大できます。

注目すべきは顧客当たりの収益率を上げるため、AIを活用している点です。スペースを貸し出すオーナー側は1カ月ごとの利用料金を設定します。その際、Neighborはアルゴリズムを使いどのくらいの収益を担保できるのかを事前に計算して料金プランを提案するのです。

Boxbeeに代表される従来の都市型セルフストレージサービスは一律料金を設定していましたが、事業運営上の柔軟性に欠けていました。そこでNeighborは地域ごとに変わってくる需要と供給をアルゴリズムを通じて予測をし、運営手数料の徴収額を向上させようとしています。こうして顧客当たりの収益率の最大化を目指しているのです。

同じく貸し倉庫版Airbnbの事業モデルを展開していたRoostは、テクノロジー面における競合優位性がない、単純なP2Pセルフストレージサービスの事業モデルを展開していたため、あまりスケールせずに早々に事業売却してしまいました。一方、NeighborはRoostと同じ市場にテクノロジーを持ち込んで事業開拓を企んでいます。

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アルゴリズムの活用は、AirbnbのAPIを使った事前予測をおこなう「Loftium」の事業モデルと似ています。同社は新居住宅を購入したい人に向けて、頭金約500万円を担保するサービスを提供。条件として2〜3年の間、Airbnb向けに部屋を貸し出し続けなければなりません。

ここで特徴的なのが、AirbnbのAPIを通じて得られる地域ごとの需要と供給に基づいた料金設定データを用いて、どのくらいの期間部屋を貸しだせば500万円の貸し出し金が回収できて、収益が十分上げられるのかを予測する、という点です。頭金は機関投資家から資金調達をするため、Loftium自身が背負う初期コストもカバーできています。

この点、Neighborの事業モデルは一見競合優位性が低いように思えますが、独自アルゴリズムを用いた需要と供給の事前予測により、価格設定を巧みにおこなうことで差別化を図っています。今回の資金調達も、このようなアルゴリズムが評価されたことが大きな理由であるとみてよいでしょう。

一方、Neighborの顧客獲得戦略には大きく3つの課題が立ちはだかります。1つに、荷物の搬入は顧客自身で行わなければならない点が挙げられます。2つ目にプライバシーに関する問題や管理設備の信ぴょう性を担保できない点。3つ目に都市間移住をする際、顧客自身で運び出しを行わなければいけないわずらわしさが、顧客心理に大きく影響するでしょう。サービスを利用するに至るまでの心理的ハードルが非常に高いのが、貸し倉庫版Airbnbの最大の弱点です。

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Image by Jamie

ここまでセルフストレージ市場の概要から最近のトレンドまで簡単に説明してきました。なかでも収益率の低さや設備投資の問題をいかに乗り越えるのかという点は、他の不動産サービスでも同じ課題感を抱えていることでしょう。

そこでClutterのように顧客属性を変えると同時にボトルネックを解消するモデルや、Neighborに代表されるようにAIの活用によって収益の最大化を図るトレンドは見逃せません。

いずれにせよLTVの向上、もしくは低いLTVをカバーするテクノロジー活用が肝要になってきます。この点、Clutterは高いLTVを持つ顧客をすでに囲い込んでいますが、Neighborがどのようにこうしたターゲット顧客を囲い込み成長するのか期待されます。米国ではミレニアル世代の都市移住の文化は拡大の一途をたどるでしょうし、その上で、彼らの生活スペースを確保するソリューションとしてAIを使ったNeighborのモデルが市場に評価されるのかに注目が集まります。

皆さんもターゲット顧客の属性を変えることで収益構造が大きく変わる可能性や、AIを使った事前予測によって価格設定の最適化がおこなるかを探ってみてはいかがでしょうか?

via Medium

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