ロンドン拠点TasterのAIとオートメーションを見れば納得、フードデリバリ時代を制するのはバーチャルキッチンかもしれない理由

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Taster の共同創業者ら
Image credit: Taster

Deliveroo や Uber Eats といった会社が派遣するライダーやドライバーが街中を勢いよく走り回り、あらゆる種類のテイクアウト料理を運ぶ中、フードデリバリサービスは目に見えて急増している。しかし、新しいプラットフォームが登場するとよく起こることだが、二次的でそれほど目立たない革命がレストラン業界に押し寄せている。バーチャルキッチンが出現した結果だ。

ロンドンを拠点とする Taster は、フードデリバリサービス、人工知能(AI)、そしてデータの交わるところが新たな機会を生み出している事例の1つだ。こういった機会はさらなるディスラプションを招き、レストラン業界を脅かしている。フードデリバリーサービスは当初、地元レストランのブームになっていたかに見えたが、最終的にフード業界の戦いに勝つのは、最適化と自動化が可能なバーチャルキッチンかもしれない。

Taster は2年前に Anton Soulier 氏によって設立された。同氏は Deliveroo の初期の従業員で、フード業界の変容をさらに一歩進めたいと考えた。

同氏は言う。

こういったプラットフォーム上に食べ物を扱う会社を築く、大きなチャンスだと思いました。それらはロジスティクス面で非常に優れています。そして私の仕事は食べ物を提供することです。

人々が食べ物を買ったり食べたりする形が抜本的に変化する中、それを後押ししているのがデリバリサービスだ。人々が家で料理する機会は徐々に減り、調理済みの食品がオンデマンドで届けられる方が好まれるようになっている。2018年の UBS のレポート「Is the Kitchen Dead?(台所は廃れてしまったのか?)」は、350億米ドルのフードデリバリ経済は、2030年までに3,650億米ドルに成長するだろうと予測している。

同レポートによると、「2030年までには現在家で調理されている食べ物のほとんどがオンラインで注文され、レストランやセントラルキッチンから届けられるようになるというシナリオもありえる。食品小売業、食品メーカー、レストラン業界、さらには不動産市場、家電、ロボット工学への影響は重大なものになる可能性がある」という。

このシナリオの効果の1つは、フードデリバリサービスの継続的な成長だ。しかしこの変化をもたらすのは主に、既存のデリバリサービスの能力を活用しようというサードパーティー企業だ。

その一部が CloudKitchens のような新参者だ。Uber の元 CEO、Travis Kalanick 氏が築いた同社は、デリバリ専門ブランドをローンチしたいシェフにスペースを提供している。カリフォルニアを拠点とする Kitchen United は昨年、自社倉庫の拡大にあてるため1,000万米ドルを調達した。同社はデリバリ専門スタートアップに調理スペースを提供している。また今年3月にベルリンを拠点とする Keatz が、ベルリン、アムステルダム、マドリード、バルセロナ、ミュンヘンといった場所のバーチャルキッチンネットワーク向けに、新たな資金調達で1,350万米ドルを獲得した

一方、デリバリプラットフォーム自体も、調理分野に参加するようになった。2年前に Deliveroo が、データやキッチンスペースをデリバリ専門レストランに提供する Deliveroo Editions をローンチした。Uber もこの分野に参入し、バーチャルブランドにキッチンスペースを貸し出すサービスを試みていると報じられている。また同社は、既存のリテールレストランと協力し、Uber Eats からのみ利用可能なバーチャルブランドにキッチンスペースを提供するという。

これはつまり、Taster が激しい競争環境に直面しているということだ。様々な取り組みがあるがおそらく統合が必要になるだろう。しかし Taster が今日どう機能しているかを見れば、バーチャルキッチンというトレンドが加速している理由を垣間見ることができる。

キッチンで作業する Taster CEO の Anton Soulier 氏
Image credit: Taster

Taster は115人の従業員(内シェフ100人)と11か所のキッチンを抱える。先月末のベンチャーキャピタルで、Battery Ventures、Heartcore Capital、LocalGlobe、そして Founders Future の Marc Ménasé 氏から800万米ドルを調達した。

同スタートアップは、ロンドン、パリ、マドリードで、デリバリ専用に調理を行うキッチンをいくつも運営している。調理された食べ物は、こういったサービスの様々なアプリ専用のブランド、Out Fry(韓国風フライドチキン)、O Ke Kai(ハワイ料理)、Mission Saigon(ベトナム料理)などで販売される。消費者から見ると、Taster というブランドはバーチャルキッチンのマーケティングに一切登場しない。

このアプローチはただちに、既存のレストランに対する利点を複数もたらしている。食事をする部屋や食品をピックアップするカウンターが不要なため、不動産面で節約できる。全従業員が調理だけに専念し、接客にかかる費用を省くことができる。また新たなチャンスが到来した際には、追加的なバーチャルブランドをローンチするためにキッチンを活用できる。

Soulier 氏は次のように述べる。

人々が Deliveroo を利用する様を、毎日目にしていました。とにかく目を見張るような成長でした。ですが、訪れる客のために料理を作る従来のレストランは、デリバリモデルにはあまり適していませんでした。

Taster のようなサービスはデリバリのために考え出されたため、容器は食べ物を新鮮かつ熱いまま届けるためにデザインされるし、メニューはすぐには消費されないことを念頭に選ばれると Soulier 氏は言う。

このアプローチは、Taster がデリバリプラットフォームから受け取るデータと組み合わさればさらに強力さを増し、人気に応じてメニュー品目を迅速に調整することができると同氏は語る。

また Taster のバックエンドは、多数の自社サプライヤーと直接つながっている。そのためメニュー品目の変更に伴い、システムがサプライヤーへの注文内容を更新できる。

この大きな課題には早期に取り組みたいと考えていました。サプライヤーに直接発注できるため、プロセスが大幅に自動化され無駄が減ります。

同社は次にそのデータを利用して、休日や天候といった要素によって需要と供給がどのように変化するかを予測するため、独自のアルゴリズムの開発を始めた。システムはこういった変動を追跡し、自動的に発注を調整する。

ビジネスのこの部分はまだ新しい。しかしキッチン数が拡大しデータ量が増加するに従い、同社は人工知能をさらに活用し、自動化を拡張したり、より一層予測的でデータドリブンの工程を生み出したりすることができると Soulier 氏は確信している。

自動化の規模と水準がこれほどになると、今後数年のうちに、単独営業のスタンドアロン型レストランは継続がさらに難しくなるだろう。消費者は食事をする際、プラットフォームが収集するデータに基づくニッチな選択肢をもっと目にするようになり、このような食事形態はますます受け入れられていくだろう。またこのようなバーチャルキッチンの動向により、新たな飲食店のローンチに伴うリスクが大幅に減少し、事業はますます合理化されていくと思われる。

この変化は、寿司をバイク便で届けてもらうという範囲をはるかに超えて波及していくだろう。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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