民泊市場に新星ユニコーン誕生ーーAirbnbには真似できない戦略「Sonder」とは何者か?

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ピックアップ記事: Sonder Raises $210M, Becomes Hospitality’s Latest Unicorn

ニュースサマリ:7月11日、短期宿泊サービス「Sonder」がシリーズDで2.1億ドルの資金調達を発表。本ラウンドで企業価値が10億ドルを突破したことから、同額以上の未上場企業を指す「ユニコーン」入りを果たした。

SonderはAirbnbに代表される既存民泊サービスとは違いハイエンドな物件を提供する。不動産オーナーから直接物件を借り、自社で管理をしつつリースする又貸しモデルを採用。直接物件管理及びリースすることから、ホテルで受けられるようなアメニティの提供までをも行う。

Airbnbではホスト各自が管理をいるため、サービスの質が一律化されていない課題がある。そこでホテルより高価ではなく、民泊サービスより質の高い宿泊サービス提供を目指す。2019年度の収益予想は4億ドル。昨年の4倍の成長率を掲げる。現在8,500に上るスペースを提供しているとのこと。

話題のポイント:Sonderのビジネスモデルの肝は2つ。不動産市場でトレンドになっている「アービトラージ(又貸し)」と「ホテルライク民泊」です。

一つ目のアービトラージに関してはWeWorkの事例が好例でしょう。

同社は不動産オーナーから借りた物件を小分けにして売り出す又貸しのモデルを採用。初期投資がかかるハコ(物件)を先に抑えてしまい、小スペース単位で売り出すビジネスモデルです。

個人や中小企業はハコを丸ごと借りられるような十分な資金を持ち合わせていません。一方、どうしてもコワーキングスペースを利用する場合、環境の悪い既存サービスを利用するしかありませんでした。そこで単価を多少高く設定したとしても売り上げられるようなサービス設計にしたのです。

具体的には人的ネットワーキングからバックオフィスサポートまでを完備した1スペースを貸し出し始めました。

数年単位でずっと滞在する回転率の高い商材ではないため、1部屋もしくは1席の値が多少張ったとしても、既存コワーキングスペースを選ばずにWeWorkを選び、売り切れる算段です。

Sonderが参入する中短期の宿泊市場も同様。

従来、ホテルは巨大なハコを保有していましたが非常に高価。民泊サービスの安さを知ってしまった利用者、なかでも若者には手の届きづらい存在として認知されつつあります。

一方、Airbnbは安価ですが各ホストが滞在環境をコントロールします。かつアメニティーが充実しているわけではないため利用者の需要を完全に満たせるわけではありません。

ここで2つ目のホテルライク民泊の考えが登場します。高価なホテルと安価なAirbnbの中間に位置するソリューションに潜在需要があったのです。

まずSonderは都市データを参考にしながら自社で有望な物件を探し出しオーナーから借り、1部屋単位で旅行者へ又貸しします。長期滞在を想定していないため、単価はAirbnbより多少高く設定。

たとえ高単価であっても売り切らせるため、ホテルライクなサービスで市場ポジションを確立。Sonderが自社で物件を管理し、アメニティサービス提供も行います。市場もこのトレンドに乗っています。660万ドルの資金調達を果たしてエグジットした「Domino」や、1,390万ドルの調達に成功している「WhyHotel」が登場しています。

<参考記事>

ホテルライク民泊の登場は物件を丸ごと貸しきるか、質の悪い従来型コワーキングスペースを利用するかの2択市場に切り込んだWeWorkのロジックと同じと言えます。

高すぎる物件を又貸しモデルで収益化。低価格で勝負する競合とは高級サービス路線で差別化を図ります。価格勝負ではなくサービスクオリティで対抗したのです。

トラクションは順調に成長中。シリーズDのデックによると合計物件資産価値は23億ドル。6,500ユニットを貸し出しています(ピックアップ記事では8,500)。NPS(ネットプロモーター指数)は業界水準の約2倍の71。向こう12ヶ月の収益額は3.1億ドルとのこと(ピックアップ記事では4億ドル)。

テクノロジードリブンの考えに則り、チェックインからアメニティー手配までのオペレーションコストが従来ホテル業界比で74%削減に成功しています。物件の賃貸期間は平均して12年とのこと。12年で回収できる初期賃貸コスト当たりの利益比率(ROI)は10以上。

最も注目すべきは2021年から物件内の全ての家具やインテリアを販売する戦略を打ち出している点。民泊物件に小売店舗の機能を付け足そうとしているのです。加えて2022年からは数年単位の住宅サービスの提供も開始予定。詳細は発表されていませんが1ヶ月から入居できるサービスになるかと思われます。

どの都市へ行っても手軽に短期から長期まで滞在できるホテルライク民泊としてAirbnbに並ぼうとしているのです。

いつでもウェブを通じて住環境へアクセスできる「Housing as a Service(HaaS)」の市場ポジションを狙っています。

HaaSの考えは累計6,340万ドルの調達をしている「Common Living」や、日本人起業家の内藤氏率いる「Anyplace」が市場参入する領域。非常に高いポテンシャルを秘めます。

Sonderの場合、自社で物件を丸ごと賃貸しているためHaaSという長期滞在需要を狙う攻め方は非常に自然で合理的と感じます。マーケットプレイスモデルであるAirbnbでは真似できない拡大戦略と言えるでしょう。

このようにSonderは民泊市場にWeWorkのビジネスモデルを持ち込み大成長を果たしたスタートアップです。ホテルライク民泊のコンセプトを軸に、将来的にあらゆる住宅需要に対応する世界的プラットフォームを目指しています。

Sonderの戦略は民泊以外の高級有形資産にも適用できるはずです。みなさんの事業にも応用して戦略を練ると何か新しい発見があるかもしれません。

Image Credit: tommypjr

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