Tokyo XR Startupsが第5期デモデイを開催、課題解決型など4社を輩出——次期からは「MCH」開発元とブロックチェーンゲームのチーム育成も

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ゲームデベロッパの gumi(東証:3903)らが運営する、バーチャルリアリティ(VR)などに特化したスタートアップ・インキュベータ「Tokyo VR Startups」は2日、東京都内でインキュベーションプログラム第5期のデモデイを開催した。会場では第5期に参加した4チームのほか、過去のピッチ卒業チームから6チームが参加。参加者数ではこれまで最大規模の盛大なイベントとなった。

Tokyo XR Startups は通算で5回のバッチを通じて25チームを輩出しており、前回バッチまでの輩出スタートアップ21チーム中20社が次のラウンド(Tokyo XR Startups 卒業後の、Tokyo XR Startups 以外からの調達)に漕ぎ着けている。また、HoloEyes、InstaVR、JollyGood、Activ8 など数億円を超える資金調達に成功しているスタートアップも数社いるとのことだ。

これまでのバッチでは VR を使ったゲームやキャラクター系のビジネスを提供するスタートアップが多く見られたのに対し、課題解決を前面に掲げたチームの登壇が目立った。タイミング的に B2B を想定したスタートアップが資金調達に成功しやすいこともあるだろうし、新発売された Oculus Quest で操作性の自由度が高まり、VR で実現できる可能性が広まったことも影響しているのだろう。

Can Golf by CanR

CanR は VR を使った物理トレーニング技術を開発・提供するスタートアップ。スポーツのトレーニングにおいては、イメージトレーニングを使ったものが多いが、CanR では VR と物理デバイスを使って、実際に身体を動かす形でのトレーニング環境を提供する。手始めにプレーヤー人口が多く、トレーニング意欲が強いゴルフに特化し「Can Golf」を開発した。

アマチュアゴルファーの7割を占めるスコア100を切れない初心者が、クラブのように握れるデバイスを使って、室内でも 3D 環境でスイングの仮想トレーニングができる。2次元映像からイメージするしかないビデオ撮影による方法に比べ、上達スピードやスコア改善のスピードに圧倒的な優位性があるという。

Image credit: CanR

代表の川崎氏は VR けん玉師の称号を持ち、VR を使ったけん玉のトレーニングを試したところ、劇的な効果が得られたことから、CanR の創業に至った。ただ、けん玉のトレーニングではマネタイズが難しいため、趣味での技能向上に対しお金を払うユーザが多いゴルフにフォーカスすることにしたそうだ。

ムジュウリョク

ムジュウリョクは、日本で開発された中国向け VTuber「天夢」の中国向け市場展開を行なっている。VTuber 市場を考える上で参考となるアニメの市場規模で、中国は日本を超えた。日本のアニメ市場は売上ベースで3年連続減少傾向にあるのに対し、中国では右肩上がりだ。

日本で流行ったものは3年後に中国で流行るという通説。日本では1万体を超えた VTuber が、中国ではまだ1,000体未満であること。中国のアニメファンが1.1億人、ライトファンの人口も入れると3.5億人に上るという市場可能性を背景に、VTuber ビジネスが中国進出する上で今が最良の機であると、代表の潘氏は力説する。

日本の VTuber の中国市場進出支援に加え、bilibili(嗶哩嗶哩)TikTok(抖音)で展開する「天夢」の展開を通じ、インバウンド事業などでマネタイズする。

PainVR by リクティー

身体のコリから来る痛みなどについて、電気治療・マッサージ・鍼灸・湿布薬などを使った治療や施術が一般的だが、これらは即効性はあるものの対処療法でしかなく、根本的な治療には繋がりにくかったり、担当するセラピストのスキルに大きく依存したりするなど課題は多い。

日本整形外科学会と日本腰痛学会が監修する「腰痛診療ガイドライン」では、むしろ、運動による療法が強く推奨されているが、腰痛持ちの人には「動きたくない」「どう動いていいかわからない」人が多いのも事実だ。そこでリクティーでは、VR の没入感とセンシングにより運動を促す「PainVR」を開発した。計測後にレポートを出すことで患者に治療の実感を与える。

運動疼痛を持つ患者のリハビリに PainVR を使ってもらったところ、使わない場合に比べ31%も多いの向上改善例が見られたそうだ。Oculus Quest の普及によりスタンドアロン展開が可能であることから、病院や診療所を通じた B2B2C でのサービス展開を狙う。エンジニアだけでなく、腰痛専門家や理学療法士らをチームに擁し、将来は東アジアの疼痛患者3.4億人をターゲットに入れたいとしている。

バーチャルマニュアル by 体験シェアリング

体験シェアリング代表の山本氏は、以前、住友商事のトルコ法人に勤務していたことがある。そこで多言語でのコミュニケーション、特に不慣れな言語で業務上の細かい部分を伝えることが難しいと痛感。MR(Mixed Reality)を使った多言語での業務トレーニング環境「バーチャルマニュアル」を提案した。労働力不足が叫ばれる日本で外国人労働者の受け入れは必至の課題であり、彼らの研修プロセスの質の向上と効率化が課題になるとした。

バーチャルマニュアルは MR を使ったマニュアルで、マルチデバイスに対応し翻訳で100ヶ国語以上の言語に対応できる。導入企業は環境をスクラッチ開発する必要がなく、SaaS として即時に月額9,800円で利用開始できることが特徴。バーチャルマニュアル上のデータをトレーニングだけでなく、ゴースト化(オペレータによる VR・ロボットを使った遠隔制御)などにも応用したいという。


MCH+ について説明する、double ump.tokyo の CEO 兼 CTO 上野広伸氏
Image credit: Masaru Ikeda

今回の第5期デモデイ開催とあわせ、Tokyo XR Startups では第6期参加スタートアップの募集を開始した。応募締切は9月30日まで。Tokyo XR Startups は今期から、ブロックチェーン・スタートアップを支援対象に加えているが、次期からは大ヒットブロックチェーンゲーム「My Crypto Heroes」の開発で知られる double jump.tokyo のブロックチェーンゲーム開発支援プログラム「MCH+」と連携し、アクセラレータプログラムを運営する。

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MCH+ との連携プログラムに採択されたスタートアップには、最大で 500ETH の開発資金が提供されるほか、double jump.tokyo が中心となって開発・エコシステム構築・ファイナンス・人材育成の支援を行う。このプログラムには、ブロックチェーン や dApp の技術や知識が無い人・チームでも参加が可能で、非ブロックチェーンのゲームやアイデアから My Crypto Heroes に続く、世界を席巻するブロックチェーンゲームを輩出することが狙い。CryptoGames の「Crypto Spells」は、MCH+ のフレームワークを活用して開発が進められたという。

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