ブロックチェーンゲーム沸騰前夜「My Crypto Heroes」が年末年始に全国CMの大勝負ーーCEO上野氏単独インタビュー

by Taishi Masubuchi Taishi Masubuchi on 2018.12.31

double jump.tokyo CEOの上野広伸氏

ニュースサマリ:ブロックチェーンゲーム「My Crypto Heroes(以下、MCH)」を開発するdouble jump.tokyoは、年末年始にかけて地上波のTVCMを放送すると発表した。同社によるとブロックチェーンゲームのタイトルとしてTVCMを放送するのは国内外合わせて初の試みとなる。大晦日に関東ローカルで、続いて元旦には全国ネットでも放映される。

MCHの正式リリースは11月30日。開始約1カ月でイーサリアム上のDAU(Daily Active User)は約1500人となり、DAppsゲームとしては世界最大規模を誇る。

話題のポイント:DAppsゲームはその技術を支えるブロックチェーンの性質上、長期的なユーザーの定着が難しいと言われており、先駆者であるCryptoKittiesなども初期に約1万4000人にまで到達したDAUが今となっては300人前後と言われています。

MCHは歴史上の英雄たちをブロックチェーン上のアセット(資産)として扱い、それらの収集とその他アイテムや領地などを獲得し、仮想世界の制覇を目指すというコンセプトのゲームです。今回のインタビューではdouble jump.tokyoのCEOを務める上野広伸氏に、My Crypto Heroesの未だ語られていないプロダクト設計と今までの軌跡を語ってもらいました。(取材/執筆:増渕大志。太字の質問は全て筆者が担当した。回答は上野氏による)

My Crypto Heroes:誕生秘話

ブロックチェーンを用いたアプリケーションの中でも「ゲーム」という領域に絞っての事業始動でした。事業構想の時点で、ブロックチェーン×ゲームに張ろう!と思った大きなきっかけは何かあったのですか?

上野: 元々、野村総研を経て、モバイルゲーム会社のモブキャストでゲームプラットフォームやゲームアプリの開発基盤の技術責任者を務めていたので、新しい分野のエンターテイメントに興味がありました。

コンピューターやインターネット、モバイルの発展の歴史を見ても新技術の最初のキラーユースケースとなったのはゲーム。だからこそ、インターネットに次ぐ新技術、ブロックチェーンもゲームという領域から発展していくだろうと確信していました。そんな中、2017年11月に登場したブロックチェーンゲームの祖「Cryptokitties」と、イーサリアムを基盤としたERC-721による、エコシステムの登場に衝撃を受けたんです。これが、ブロックチェーン×ゲームに可能性を感じた大きなきっかけです。

なるほど。ブロックチェーンだからこそ提供できる、今までにないユーザー中心の分散型ゲームの価値に着目したんですね。その一つの手段として、イーサリアムベースのブロックチェーンを選択した、と

上野:まず第一に、ブロックチェーンに限らずどんな技術であろうが、技術的優位性や性能よりも、世の中に普及し、社会実装されていくことが大事だと思っています。

ブロックチェーンが持つ分散型という性質を得る、またスマートコントラクトを用いたアプリケーションとERCアセットのエコシステムが既に出来つつあったことがイーサリアムを手段として選んだ決め手でした。もっとも、MCHの企画当時(2018年3月あたり)はイーサリアム以外にほとんど選択肢がなかったこともありましたが(笑。

無料で使える最強IPは「歴史上のヒーロー」

MCHの一つの大きな特徴として、ブロックチェーンベースであるのはもちろんのこと「世界の歴史上の英雄達」を集めていくコンセプトなどがあると思います。ゲームコンセプト設計の段階ではどのようなことが議論されていたのですか?

上野:そうですね、まず前職モブキャストの同僚だった玉舎(現double jump COO)と高宮(同コンテンツディレクター)とで、2018年3月に最初の企画会議をしました。企画当初より、アセットプレセールを想定したプロジェクトであったので、誰も知らないオリジナルのキャラクターアセットでは売れない。しかし、著名IPの権利を取得するには、ブロックチェーンゲームの市場性も不透明、またスタートアップ企業には資金も信用もない。そのような議論を幾多と繰り返し、様々なアイデアが出てきた中で玉舎が『無料で使える最強IPの一つは歴史上のヒーロー。これでいこう』となりました。

歴史上のヒーローとすれば、日本限定または特定地域限定ではなく世界各地の偉人をアセット化できるというメリットもあります。では、MCHがゲームとしてユーザーが新感覚だと思える1番の面はどのようなところにありますか?

上野:最大のポイントはブロックチェーンを用いるため「ゲームアセットの所有権がユーザー自身にある」ことです。この点が、既存のスマートフォンソーシャルゲームとは全く異なるコンセプト設計ですね。現在のゲームではその性質上、ユーザーは運営会社からゲームアセットを「借りているだけ」であるといえます。そのため、ゲームにかけた時間もお金も、そして情熱もゲームを辞めればまたサービスが終了してしまえば全て無になってしまいます。

MCHはアセットの所有がユーザー自身にあることを大前提として、エコシステムを設計し、またビジネスモデルを設計、その上でゲームデザインをしています。これは従来のゲームとは真逆のアプローチであるといえると思います。

MCHが人気を集める根本的理由

なるほど、まさに今までのゲームに欠けていた面をユーザーはMCHで感じることが出来るんですね。DAppsゲームといえば、その先駆けはイーサエモンやCryptokittiesでした。その人気の反面、ブロックチェーンベースアプリケーションの性質上、継続してユーザーが定着しないという問題が指摘されていました

上野:確かにDAppsゲームはDAUの維持率という問題を抱えています。ただ、私たちはDAU維持だけに着目して何か工夫をしたということはありません。強いて言うならば、面白いゲームをコミュニティードリブンに、爆速で開発・リリースしていることではないでしょうか。それを実現しているのが10人の精鋭チームです。ユーザーにGAS代をかけず高いUXをもたらすイーサリアムメインネット、Loomサイドチェーン、オフチェーンの3レイヤーハイブリッドDApps設計、またHTTP/2とgRPCによる新世代Webであると信じています。

少しトピックを変えて。MCHリリースのためにはまず、プレセール・クラウドセールを経てアセットを先行して売ることが必須でした。企業経営者として、セールに際して不安だったことや、セール後のマイルストーンをどの様に考えていましたか?

上野:正直、プレセールは全て手探りでやり続け心配だらけでした。そもそも、アセットを先行して売るということの意味すら分かっていない状態からのスタートです。アセットに対する適切な値付けもわからなかったので、在庫連動型ダッチオークションシステム(特許出願中)を開発し、価格を市場に委ねました。プレセール前日にはミートアップを実施し、ホワイトペーパーではなく直接対話する形でプロジェクト説明と我々の意欲をコミュニティーに伝えました。

ユーザーとのコミュニケーションに細心の注意をはらい、コミュニティーに約束したことは徹底的に死守しました。一部の粗悪なブロックチェーンプロジェクトやICOのようにプレセールをゴールに我々は絶対にしたくありません。プレセールはいわば、シードステージのスタートアップへの投資のようなもの。当然そこで受けたものは数十倍にして返すのが我々の責務であると思っています。そうした中で、我々ができることは、とにかく面白いゲームをコミュニティードリブンに、爆速で開発することだけだと思っています。

試行錯誤の結果プレセールは成功しました。我々の開発に対する想いが、クラウドセールの成功へと繋がり、今なおもコミュニティーから信用を頂き支持されていることに起因していると思っています。

2億円の資金調達の目的

プレセール・クラウドセール共に成功を収め、正式リリースから丁度1カ月が経過しようとしている今、このタイミングでgumiグループとの資本業務提携また2億円の資金調達を発表されました

上野:gumiさんとの事業的な連携はもちろん色々とあり得ると思っています、ただ、それが今回の提携の大きな目的ではありません。まず、そもそもMCHが成功しないことには戦略も業界もありません。MCHを成功させること、それがパイオニアとしての役割であると覚悟を決めています。

この先2年、ブロックチェーンは幻滅期が続くと見ているので、その間を生き抜き、むしろ攻め続けられる資金が必要でした。gumiさんには我々のその意思を理解し、未来を信じていただき、今回2億円を投資していただきました。もちろん将来構想は色々とあるけれど、MCHの成功の前にそれを語るべきではないと思っています。

業界初のTVCMという手段を選んだ理由は”ワクワク”感

今回、MCHはTVCMという手段を選択しました。もちろん、MCHの成功に必要不可欠だと判断したからだとは思うのですが、具体的にTVという媒体を通して狙っていること、またどの様なムーブメントを起こしたいのか教えてください。

上野:2018年末の今、ブロックチェーンゲーム業界は明らかに黎明期にあり、既存ユーザーはまだイノベーターが多く占めています。暗号通貨に対する社会の視線やユーザーに必要とされるリテラシー、今までのプロダクトの品質とUXでは中々社会的ムーブメントを起こすことが難しいと感じてます。

プレイに伴う暗号通貨やウォレット、GASも不要、超軽量Webアプリでネイティブアプリ並みに高速に動作しながらもダウンロードさえ不要。ネイティブアプリのような派手なUIは無理ですが、こんな状態でも十分にアーリーアダプター層までのリーチは可能なんだと判断したのがリリース10日目ごろでした。

TVCMは弊社の玉舎とMCHユーザーでもあった博報堂との話から始まりました。玉舎が『年末年始にTVCMをやる』と言い出した時には、スタッフも博報堂側も度肝を抜かれたし、正直あと2週間でそんな前代未聞なことができるのか?と思いました。

ただ、同時にその一言で社内がワクワクとした気持ちに包まれたのも確かです。このワクワクは必ず世に伝搬できるはず。そして2019年に向けて日本が、そして我々がブロックチェーンゲームを牽引していくのだという意思と覚悟を表明するのにこれ以上のタイミングと手法はない、そう思いTVCMという手段を用いることになりました.

ワクワク感。本当に大事なポイントですね。私も、当初TVCMのことを聞いたときは信じられない気持ちと共に、TVCMを通した社会のリアクションを考えるとワクワクが止まりませんでした。ただ、2週間はさすがに短いですね(笑。

では最後にブロックチェーンという大きな枠組みについて。現在分散型アプリケーション全体に言われている課題としてUIやUXの向上、またユーザー需要に沿っていないなどが挙げられています。また、実用的なアプリケーション構築のために完全な分散型ではなく必要な個所、必要でない箇所の見極めが大事だという議論も増えてきました。その中で、MCHはどのようなビジョンやブロックチェーン的思想の立ち位置の元進んでいこうとしていますか。

上野:double jump.tokyoはブロックチェーン専業企業なので、当然非中央集権的な世界観を目指しています。9月から行ったバトルβのMCHは、1バトル1億GAS相当のトランザクションを発生させるSolidityで書かれた、まさにフルのDAppsでした。イーサリアムだけでの実現は不可能だったので、サイドチェーンにLoomNetworkを用いました。しかし、サイドチェーンを用いてもたった150程度の同時トランザクションで詰まりが発生し、1000人に満たないユーザー数で撃沈してしまいました。

このようなUXでは我々の目指すMCHの実現は不可能です。なにより、プレセールに参加いただいたユーザーへのプレイ負担が大きすぎます。我々は、DAppsであることの夢や思想よりも、ユーザーを抱えた開発運営会社として、今ある技術での最適解を見出す必要があると考えています。

その結果、現在は今の未熟なブロックチェーンは使えるところだけ使い、当面はオフチェーンとのハイブリッドでいくしかないと決断しました。もちろん、いずれはフルDApps化(完全な分散型アプリケーションである状態に)し、MCHの運営自体をコミュニティーに委ねたいと思っています。しかし、その実現のために最低でも2年はかかると見越し、資金調達も実施しました。

最後に躍進の年となった2018年を振り返り思うこと。また、2019年に向けて自社の向かう先、ブロックチェーン市場に対する期待・予想に対して一言お願いします。

上野:2018年はとにかく懸命に立ち上げただけ、ただそれだけの年だったと思っています。躍進の年は2019年です。昨年のCryptokittiesからはじまったブロックチェーンゲームが、1年を経て2018年11月、次世代ブロックチェーンゲームといえるMCHが立ち上げられたのには意味があると持っています。

我々は、2018年中には多くの同種のゲーム、つまり競合がもっと多く登場するだろううと思っていましたがご存知の通り、予想外にいないのが現状です。MCHだけでは市場を拡大するのは不可能だと思っているので、一緒に業界を切り拓いていく仲間が欲しいと心から思っています。

double jumpとしてはMCHのエコシステムが一応の完成をする予定の2019年3月まではMCHの開発・運営のみにフォーカスしていきます。それ以降は、MCHで作ったコードや得たノウハウを積極的に業界で活用してもらえるような枠組みを作っていきたいと思っています。ゲーム間経済圏もできたら面白いし、MCH基盤を利用した強力なIPタイトルなんてアイデアもいいなと思っています。

ただ、まずはMCHを、弊社のアドバイザーである岡本吉起さんの大ヒット作のような、圧倒的な世界No.1タイトルにすること、それを最優先課題として取り組んでいきたいと思っています。

2019年は『ブロックチェーンゲーム業界』といえるだけの仲間と業界発展のため、技術開発、法制度整備、市場開拓のための団体も作っていきたいです。

ありがとうございました!

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