リチウムイオン電池は“多様性”の時代へーーエアバスが選んだ「Amprius」の魅力を紐解く

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Image Credit:Amprius HP

ピックアップ:Airbus Partners with Amprius, Leader in High Energy Density Battery Technology

ニュースサマリ:シリコンベースのリチウムイオン電池を開発する「Amprius」は2019年10月31日、Airbus Defence and Spaceから資金調達したことを発表している。調達額は非公開。今回の資金をもとに、AmpriusはAirbusの次世代事業「高高度疑似衛星: HAPS」と、「電気垂直離着陸: e-VTOL」向けのバッテリー大量生産体制の確立を目指す。

話題のポイント:Ampriusの最大の魅力は「軽さ」です。この点において現在市場に出ている製品で最も優れているでしょう。下図は重量エネルギー密度(横軸)と体積エネルギー密度(縦軸)を示したもので、赤い領域がAmpriusの製品です。横軸に注目すると、最新のリチウムイオン電池に比べても重量を60%ほど軽減できていることがわかります。

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Image Credit:Amprius HP

なぜAmpriusは軽い電池を作れるのでしょうか。答えはとてもシンプルです。採用している素材が軽いのです。

Ampriusは電極を100%シリコンで作製しています。シリコンはリチウムイオン電池で採用されることが多いグラファイトに比べると、1gに約10倍の電気を貯めることができます。言い換えれば、シリコンと同量の電気を貯めるのに必要な重量が1/10で済むということです。

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Image Credit:Amprius HP

シリコンを使うと軽くできることはよく知られています。この事実が知られているにも関わらず、シリコンが採用されないのには理由があります。シリコンは充電されると、膨張して破壊されてしまう欠点を抱えているのです。

少しでもシリコンの恩恵に授かろうと、シリコンをグラファイトに混合する試みがされる中、2007年にスタンフォードの研究者は問題を根本的に解決する研究を発表しました。シリコンをナノワイヤー形状にすると、電気を貯めても壊れないといった内容です。そして、発表をした研究者がAmprius創業者のYi Cui氏でした。つまり、Ampriusの凄さとは、シリコンが持つ能力をほぼ100%活かせる点にあるのです。

さて、そもそもリチウムイオン電池において軽さは魅力となり得るのでしょうか。実際、日常生活でリチウムイオン電池の重さに嫌々している人は少ないと思います。

Ampriusの電池を搭載することを公式に公開しているアプリケーションは下記です。

  • 高高度疑似衛星(High Altitude Pseudo-Satellite:HAPS)
  • コンフォーマルウェアラブル
  • クワッドコプター
  • 電気垂直離着陸(e-VTOL)車両
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Image Credit:Amprius HP

今回の調達および提携では、Airbusが開発するHAPS機種「Zephyr」とe-VTOL車両に、Ampriusの電池が採用されることを前提に行われました。HAPSとは成層圏を無人で飛ぶ飛行機で、ソフトバンクの子会社であるHAPSモバイルとFacebookが、ネットワークが繋がりにくい地域や発展途上国にインターネット環境を提供するのに基地局として利用することを発表しています。

HAPSには疑似衛星の名前が付いていることからも分かる通り、衛星同様に永続的なサービスを維持するためには、数カ月間の連続飛行が求められます。回線を継続して提供するためには、航続距離が必要になる仕組みです。そして、重さは航続距離に大きく影響します。

簡単に解説します。水平に飛行するには重量と釣り合う揚力が必要です。仮に飛行機の重量が軽くなると、必要な揚力(浮くための力)は小さくなります。HAPSが飛行する環境を考慮すると、揚力を小さくするためには迎角(空気の流れに対する翼の角度)を小さくすればよく、そのとき抗力が小さくなることが一般的に知られています。抗力が小さい状況とは、同じ速度を出すにしても必要なエネルギーが少なくても済むということです。例えると、50m走で7秒を出すとしても、向い風が強い状況と、追い風が強い状況では、疲れ方が全く違うのと同じです。

飛行を少ないエネルギーで維持できれば航続距離が伸びます。そのため重さはHAPSを実用化するための重要な要素なのです。これはHAPSに限らず、ドローンやe-VTOL、軍人が身に着けるコンフォーマルウェアラブルでも同じくことが言えます。

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Image Credit:Amprius HP

以上のように、Amprius軽さがとても求められる業界に足して、自社の強みを活かして事業展開をしています。

Pocket-lintによると、現在材料の選定から構造の改良に至るまで、様々なアプローチで研究が盛んに行われています。なかには、全く壊れないバッテリーを作れるという金ナノワイヤー、折り紙のように折り畳めるバッテリーなどがあり、強みがはっきり見えるものが目立ちます。今後、Ampriusのようにバッテリーの強みに合わせて用途が決まるような多様性が生まれていくのはないかと思います。

バッテリー性能の発展次第で、今後IoTや5Gが生活を劇的に変えるのかがかかっていると言っても過言ではありません。どの企業がどのポジションに着くのか、そういう視点でも増々注目していきたい業界です。

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