MBAも変化の時代、働きながら受講可能な「NAMBA(Not an MBA)」とは

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Image Credit: Jolt

ピックアップJolt raises $14.1m to target US MBA market

ニュースサマリー:イスラエル発のエドテック企業「Jolt」は13日、シリーズAにて1410万ドルの資金調達を実施したと発表した。リード投資家にはBalderton Capitalが参加し、Hillsven Capital、Octopus Venturesも同ラウンドに参加している。

Joltは低価格かつ月払いが選択可能な、従来の大学院(MBA)に相当するスクールを運営。イスラエル・テルアビブ、イギリス・ロンドンに校舎を構える。調達した資金は米国・ニューヨークへの進出に用いられるという。

同社ホームページによれば、最安価格のコースは月175ポンド(約220米ドル)または合計4500ポンド(約5800米ドル)から受講可能だという。学生自身で受講スケジュールの調整ができる点も特徴で、休職することなくフレキシブルに学位取得をすることも可能だ。伝統的な「MBA」ではなく、独自にサービス設計する「NAMBA(Not an MBA)」の取得を目指す。

話題のポイント:「大学・大学院機関」といえば、大きな校舎を持ち、大人数が収容可能なクラスルームで授業やディスカッションを行うイメージが一般的でした。ところが、ミネルバ大学の登場に代表されるように、校舎の必要性やオフライン授業の必要性に対する疑問が提唱され始めます

イスラエルとロンドンをベースにMBAライクな授業を実施するJoltも校舎を持たず、コワーキングスペースの一室で授業を行う形式をとっており、伝統的な大学院とは環境から違うことが分かります。

今回ご紹介するJoltはそうした環境のみならず、コアとなる「コンテンツ」にも大きく変革をしています。同社独自プログラム「NAMBA」がどういった意味でMBAを「Not」しているのか、具体的に見ていきましょう。

MBAの問題点

JoltではMBAの問題点を2つあげています。1つ目は柔軟性に欠ける「スケジュール」。基本的にMBAは社会人経験を数年積んだ後に進む道です。そのため、休職するか一度退職する選択肢を求められます。一方、Joltでは「働きながら通う」ことをベースとしたカリキュラムを設定し、フレキシブルに授業選択が可能なカリキュラム・デザインを採用しています。

2つ目が「高い授業料」。オンラインマーケティング会社「QuinStreet」の調べによれば、MBAの学位を取得するまでにかかる授業料の平均は5万ドルから8万ドルとのデータを公開しています。対してJoltでは、約10分の1相当の5800ドルの低価格授業料を設定しており、月額支払いもできることから金銭問題を限りなく取り除くことを目指しています。

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Jolt Academic Committee のメンバー例

さて、同社のカリキュラムは正確にはMBAではなく、世界のMBAで提供されているコンテンツを基に新たに生み出したオリジナルの学位「NAMBA」を提供しています。カリキュラムは「Academic Committee」と呼ばれ、各業界で活躍している名だたるMBAプログラムを卒業したメンバーが作り上げています。

同委員会は理論的・実践的な研究をベースとした3つのコンセプトを踏襲し、NAMBAのサービスデザイン設計をしているといいます。その1つが、Googleが優れたマネージャーをリサーチするために実施したプロジェクト「Project Oxygen」です。

JoltではGoogleの同プロジェクトの研究成果を活用し、そこで定義される10つのスキルをNAMBAで身に着けることができるよう、カリキュラムに盛り込んでいます。

2つ目はMBAの最高峰ハーバードビジネススクールの所属するハーバードビジネスレビューが提唱する、最高のマネージャーに必要な17のスキル。

3つ目はGlassdoorとLinkedInにて募集のあったスタートアップ企業にて、マネージャー職として求められているスキルを同社独自に分析したもの。全12のスキルが挙げられています。

同社ではただ単に「イノベーティブな授業」と語るだけでなく、実際に研究成果として挙げられているファクトを基にカリキュラム作成が行われています。教科書にある決まりきった定例を学ぶのではなく、時代やトレンドに沿った形で、かつ実践的なスキルを集中して学ぶことが出来る環境を作り上げているようです。

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また、同社では「Super-HR Club」と呼ばれるコミュニティー運営を通し、あらゆる業界業種の最新トレンドを自然と吸収できる環境を整えています。

たとえば、デザインを学びたければMOOCを通じたオンライン学習や、オフラインで学べる場の提供も充実させています。Joltは実践スキルのレベルアップを叶える一方、従来のMBAが目指してきた「素晴らしいマネージャー・経営者」になるための最新トレンドを学ぶことができるといえるでしょう。

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具体例を挙げれば上図にあるように、Calculus 101(微分積分)やStatistics 101(統計学)を題材として学ぶのでなく、「Data」という大きな視点で学ぶことで、トレンド全体を踏まえながら専門性を学ぶことができます。

米国は下降、その他は上昇トレンド

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Quartzが発表したデータによれば、年々名門MBAへの出願率は下降を続けており、時間とお金をかける意味がないとまで言われるまでにMBAの価値は疑問視されるようになっています。2018から2019年において米国トップ10のMABスクールに対する出願率は前年度と比べ5.9%、約3400人減少したとのデータもあります。

ただ、世界に目を向ければ下降気味であるのは米国のみで、逆にアジア圏では相当数の上昇を見せているのが実情で、まだまだMBAグローバル市場は衰えていないとも言えます。

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Quartz

ではなぜアメリカだけがMBAの出願率低下に陥っているのでしょうか。語学学校などを運営する教育機関「Kaplan」の調べによれば、わざわざ米国のMBAを目指さない理由の42%を、経済が好調であることと紐づけています。その他にも、MBAの価値に対する疑問視や、政治的な影響、高額な授業料、MBAを必要とする職の低下などが挙げられています。

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Kaplan

対して、MBA出願率が最大の成長率(約8%)のアジア・パシフィック地域では、GDP増加や新興ユニコーン企業の台頭などを牽引に、マネジメント職の需要が今まで以上に高くなりつつある状況が大きく影響しています。

北米に本社を置く企業が、APEC地域に拠点を大規模に設立することも珍しくなくなりつつあることも一つの要因となっているかもしれません。なかでもシンガポールは米国と同等レベルまでに1人当たりのGDPが成長を遂げており、APECが世界経済にとって重要なエリアになっていることは間違いありません。

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APEC

米国で伝統的なMBAを取得することの価値はこれからも変わらず存在し続けるかと思います。ただ、Joltをはじめ、新たな形でのMBAが一般的になれば、より実践的なカリキュラムを提供するスタートアップや教育機関が増えることも予想されます。ミネルバ大学のように、世界を旅しながら学ぶ大学院が誕生してもおかしくなく、そこまで到達すれば「特定の国で取得するMBA」といった概念も取り払われることになるでしょう。

学べるチャンスが世界に広がりつつある今、MBAの価値を作り上げてきた旧来のMBA提供者たちが内部からどうイノベーションを起こして、新興エドテックスタートアップと差別化するのか、といった視点も面白いと思います。

 

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