大企業の課題をスタートアップの好機に、46社100アセット提供で「事業共創」拡大狙うKDDI∞Labo

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MUGENLABO支援プログラム認定マークも発行

ニュースサマリ:KDDIは18日、MUGENLABO支援プログラム2020に採択された共創事例を公表した。同社プログラムは同社の大企業パートナー(KDDI∞Laboパートナー連合プログラム)とスタートアップをマッチングさせる事業共創プログラム。採択スタートアップとパートナー企業のアセット提供をきっかけに、新規事業創出を目指す。参加するパートナー企業は46社で、計101種類のアセット提供が特徴だ。

今回、大企業側で共創事例を披露したのはKDDIとJOYSOUNDを展開するエクシングの2社。KDDIは直営するau IKEBUKUROをソリューション実証店舗として提供し、エクシングは子会社が運営するJOYSOUND池袋西口公園前店にスタートアップと協業して開発したソリューションを導入する。それぞれの店舗で導入したソリューションは次の通り。(カッコの中は導入店舗)

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KDDI∞Laboパートナー連合参加企業(大企業側)

AWL:同社は店舗に対し混雑度や展示商品の接触検知が可能なプロダクトを展開している。混雑度測定では店舗入り口にエッジAIカメラを設置し人通りに応じて店舗の込み具合を測定することが可能。目視せずとも遠隔から込み具合を知ることができる。加えて、展示商品の端末接触検知機能も提供し、除菌清掃が必要な端末を適時教えてくれる(au IKEBUKURO)

GREEN UTILITY:同社は紫外線をベースとした除菌ケースをカラオケ店などに提供。スマートフォンやマイクの除菌を約1分間で実施できる(au IKEBUKURO・JOYSOUND池袋西口公園前店)

FARMROID:同社はウイルス対策を目的としたUV照射ロボット「UVバスター」を病院や大学機関に向けて提供。利用施設は予感の除菌清掃の自動化も図ることができる。特にウイルスが残り続けると言われる「床」の除菌清掃にも対応している(au IKEBUKURO)

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実際の店舗での実証が素早くできる点がプログラムのメリットと語るIdein

Idein:同社は店舗入り口に画像認識技術を活用した体温測定器を設置し、入店時の検温を自動で実施する。検知した体温やその他個人情報はクラウドなどに保存されず、カメラに付属するソフトウェア内で暗号化され必要に応じて活用される仕組み(au IKEBUKURO)

PLACEHOLDER:同社は最新のデジタル技術を駆使し、カーディーラーなどのキッズルームを必要とする施設へ知育教育ツールを提供。紙に書いたぬりえが3D化しゲーム画面に登場する設計などを特徴とする。導入企業はキッズスペースの除菌消毒を限りなく最小限に抑えることが可能(au IKEBUKURO)

ネツミル:画像認識技術を用いた体温測定器「ネツミル」で入店時の検温を自動化(JOYSOUND池袋西口公園前店)

QBIT Robotics:コミュニケーションロボ「Kebbi Air」をエントランスに設置し、感染症拡大防止の取り組みや設備・サービスに関する質問を人を介さず自動応答(JOYSOUND池袋西口公園前店)

新規事業「共創」装置としての役割「繋げるチカラ」

話題のポイント:2011年にインキュベーションプログラムとしてスタートしたKDDI∞Laboもそろそろ10年が過ぎようとしています。実は、彼らのプログラムにはもう「インキュベーション」という考え方はなくなっていて、2014年あたりから連合パートナーが立ち上がり、大企業・スタートアップの連携による具体的なグロースや新規事業創造のステージに移っていってます。さすがに10年近く運営しているので蓄積されているノウハウも相当なものです。

新規事業で重要なのが「課題」と「マッチング」です。今回の協業事例で私が特に注目したのは、どうやってこの二つの要素を双方が見つけたのかという点でした。10年前と違い、スタートアップは数多くなりました。大企業側もオープンイノベーションの考え方に一定の理解を示しています。近づいてきた両社をどうやって適切に紐づけるのか。

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AWLも協業までのスピード感をメリットのひとつと語っていた

今回、au IKEBUKUROに混雑や接触検知のAIソリューションを開発・導入したAWL代表取締役の北出宗治さんにきっかけをお聞きしたところ、KDDI∞Labo主催のイベントに登壇したことからこのお話が始まったということでした。

感心したのはそこから導入までのスピードです。協業を進める支援プログラムがあるということを知った北出さんは、同時に感染症拡大の問題でauショップが課題を抱えていることを知ります。AWLでは店舗のカメラを使ったAI検知ソリューションを提供していたので、そのノウハウをこれらの課題に活かせると考え、早速いくつかのソリューションを考案。

例えば今回導入した接触検知のソリューションでは、通常、店舗で来店者が触ったスマートフォンなどの展示物を毎回、全て綺麗に掃除する必要があったのですが、これを触ったものだけ検知して知らせることで効率化を実現しています。これを自社で持っているノウハウをベースに、店舗の課題に合わせて開発し、数週間での導入を実現しました。話のきっかけから導入まで全て含めても2カ月程度、という協業スピードです。

ここには幾つかの要素があります。まず、KDDI側が窓口を用意していること、協業側が明確な課題を持っていること、そして担当者レベルで共創のノウハウを持って「目利き」の機能を働かせていること、です。

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エクシングでも導入されるGREEN UTILITYの除菌ボックスはauショップにも設置

中でも重要なのが目利き機能で、やはりこれはデータベースをひとつ置いておいて検索してどうぞ、ではなかなかうまくマッチングしません。実際、JOYSOUNDさんの事例では、KDDI∞Laboのメンバーが企画の中に入り、難しい調整をしたようです。

通常、経営企画的な視点で新規事業を考えようとすると、当然、新しい売上、成長に寄与するものを志向します。一方、今回、エクシングは店舗を提供アセットに指定していたので、導入されるソリューションを利用するのは現場です。感染症拡大で大きな影響を受けている店舗で「即効性のない」新規事業を展示されても困るだけになります。

その点、JOYSOUNDが協業ソリューションとして選んだのはGREEN UTILITYのマイク除菌ボックスでした。店舗側でも当然、マイクを清掃する手間が省けますし、同時に、新しい商品としてエクシングはこれを共同開発・販売する新規事業としても捉えることが可能です。

もちろん、どこまでこれが売上に貢献するのかは未知数ですが、外部の企業を巻き込んで新規事業を生み出す流れとしてはよいケーススタディです。こういったケースを積み上げることで共創の打席を増やし、いつかのヒットに繋げるのがやはり正しい戦法なのではないでしょうか。

私たちのような専業系のメディアもその一部ですが、こういった要素を長年かけて積み上げ、目に見えないネットワークのようなものを作ってきたのがKDDI∞Laboです。確かにぱっと見は「人づて」という超アナログに思えるかもしれませんが、それを含めて大きな組織に属する人々が自律的に新規事業の創造に動く、というのは仕組みあってのものだと思います。

現在、KDDI∞Laboでは具体的なテーマを盛り込んだ「∞の翼」と今回紹介した「MUGENLABO支援プログラム2020」の2本の共創プログラムを走らせています。支援プログラムについては、参加するにあたって軽いコミュニケーションが欲しいという人向けに、参加する企業と直接話ができるカフェ企画も実施するというお話でした。

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