「ネットで生鮮品を買う」はキャズムを超えるか

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感染症拡大を受けて魚ポチは屋外でのドライブスルー販売を実施

本稿はスタートアップ自身がストーリーを投稿する「POST」記事です

感染症拡大が小売に与える影響の大きさはご存知の通りです。

「ネットで生鮮品を買う」という大きなパラダイムシフトは起こるのかーー。

その答えは「ある課題」をクリアするために小売各社が大きく動いている今の現状をお伝えすることでご理解いただけるかもしれません。私たちフーディソンもまた、このコロナ禍という大きなうねりの中で、生鮮食料品のネット販売に挑戦した一人でもあります。

本稿では私たちの経験と合わせて、この可能性についてお伝えしたいと思います。

コロナ禍が引き起こしたEC需要の拡大

3密を回避した新たな生活様式が浸透したことにより、自宅で食事をする機会が急増した方も多いのではないでしょうか。

この「外出せずに食材を買うことのできるEC」に向かったという事実は数字にも出ていて、総務省統計局の家計調査によると、2020年5月の外食の支出額が前年同月比で55.8%減少しているのに対し、生鮮肉への支出額は23.4%増加するなど外食以外の食料支出は増加しているのです。

実はこれまでは食品関連の消費者向けEC化率は3%未満に留まるなど、他産業と比較しても低い水準で推移していました。

これが感染症拡大で一変したのです。

中でも大きな要因が「在宅」問題です。

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4月に始まった生鮮品EC「うおポチマルシェ(β版)」

以前から食品ECを利用する理由として「共働き世帯の増加」による家事負担軽減需要があったのですが、現在は外出自粛で家にいる時間が多くなったことにより、特に食事における負はこれまで以上に大きくなっているようでした。

例えば私たちの実施したユーザーインタビュー(※1)でも「今はずっと子供たちもリモートで家にいる、3食つくるのが面倒」「コロナの前はみんなが同じ時間にいなかったので食事について話す機会があまりなく悩みも少なかった」という声が挙がっていました。

このような状況から、コロナ流行以来、生協やネットスーパーでは欠品が相次ぎ、新規の購入が一時停止されるなど需要が殺到。AmazonやZOZOの登場により本や衣類をネットで買うことが一般化したように、食の領域でも同じようなことが起こる大きなきっかけとなるかもしれません。

ネットで生鮮食品を買うハードル

もう一点考察しておくべき事項があります。それが「なぜこれまで期待されている以上に食品ECは普及してこなかったか」という点です。いくつか私たちユーザーインタビューから得られたインサイトと共に共有したいと思います。

一つは食品以外のECでも不安としてあげられる「実物を見て購入できない」という点がやはり大きいです。特に生鮮品においては鮮度や安全性が重要であり、ECで実物を見ずに購入することに不安を感じている消費者は多いです。

私たちのユーザーインタビューでも「スーパーだと手に取ってすぐ決められるが、ネットは感覚的にどれがいいかがわかりにくい」、「量が思ったより多いとか、思ったより大きさが小さかったとかあってわかりにくい」という意見がありました。

また、食事はその時の忙しさや気分によって決めていくことが多いため、必要な食材が必要な時に届くことが他のEC以上に重要になってきます。これが満たされないと日常的な利用には繋がらない、ということも分かってきています。

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生鮮品に必要な「当日配送」のハードル

例えばユーザーが配送で重視することとして「当日または翌日届く」と回答したユーザーが37%、「配送時間を選べる」が30%、「配送日が選べる」が29%と、多くの消費者が注文から早く届くことや希望日時での配達を望んでいることが見えてきています。

ただし、これらの要望に応えていくことは簡単なことではありません。視点を変えて事業者の目線でこの課題を考えると次のような課題が浮き上がってきます。

  • スーパーは、店舗で販売することにオペレーションやシステムが高度に最適化しており、そこにECが加わるというのは単純に販売チャネルが一つ増えるというだけでなく、ECにあわせた仕入や物流の体制を一から別途構築していく必要がある
  • 販売可能な商品は日々店舗ごとで仕入れているラインナップ・数量に限定されるため、チャンスロスと在庫リスクのバランスを見ながら店舗在庫とサイト上の在庫を連動させる必要がある
  • 各店舗でECサイトへの掲載作業やピッキング、配送の対応をする必要があるためこれらを担う人員の確保や効率的なオペレーション設計・継続的な改善を行っていく必要がある

これらを実現するには従来の店舗での業務とは全く異なるナレッジやマインドが必要になるため、簡単に乗り越えられるハードルとは言い難いのがこれまででした。

また生協などの店舗を持たない事業者の場合、店舗という物流拠点・販売チャネルがないため、在庫リスクをスーパーほどは取れず、受注を受けてから手配する商品も多いため配達までのリードタイムが長くなるなどの課題があり、結果週に1回決まった日時にしか配送ができないなどのサービス上の制約が出てくる、というケースもあります。

改めて:「食のECはキャズムを超えるのか」

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こだわりの生鮮品ネットスーパー「Perrot」

それではどうすればもっと食のECが普及するのか。実は、この状況も踏まえ、ダイナミックに大きく動いているのは大手です。幾つかの動きをご紹介します。

  • 例えば国内トップの小売企業イオンは2019年11月に英国のネットスーパー企業Ocadoとの提携を発表し、2023年には最先端の中央集約型倉庫の設立し「次世代ネットスーパー」の立ち上げを目指すとしている
  • セブン&アイホールディングスは既に西日暮里にネットスーパー専用の店舗を開設
  • 楽天と西友は「楽天西友ネットスーパー」専用の物流センターを2020年秋頃より稼働予定と発表
  • オイシックスも2021年9月に大型の物流センターを新たに設立予定で、更なる需要拡大に備えている(オイシックス・ら・大地株式会社 FY2020/3 決算説明資料より)

ということで、現在巻き起こっている生鮮食料品ECに関する状況を幾つかの視点で共有させていただきました。

確かにこれまでは物流、IT、食の安心安全など食のEC化にはハードルが多く存在していました。しかしコロナ禍という急激な環境変化でひっ迫した需要はそれらを大きく変化させており、各社対応を急いでいることからも、キャズムを超えて食品ECがマスマーケットに浸透する日はそう遠くないのではないかと考えています。

本稿は消費者向け生鮮品EC「perrot(ペロット)」、飲食店向け生鮮品EC「魚ポチ(うおぽち)」、いつも新しい発見のある街の魚屋「sakana bacca(サカナバッカ)」、フード業界に特化した人材紹介サービス「フード人材バンク」を開発・運営する株式会社フーディソン経営管理部、松本広大氏によるもの。Twitterアカウントは@matsuko_dj。彼らの事業や採用に興味がある方、彼らとの取り組みを希望する企業はこちらからコンタクトされたい。

※1:株式会社フーディソンが運営する消費者向け生鮮品EC「perrot(ペロット)」のユーザーに2020年6月、7月に行った電話インタビュー