KDDIは「事業共創」をどう積み上げた

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写真:KDDI 経営戦略本部 ビジネスインキュベーション推進部 部長 中馬和彦氏

政権がひとつの区切りを迎えようとしている。

超低金利・株高という経済政策は、日本のスタートアップ・エコシステムにとっても大きな影響を与えることとなった。2012年末の発足時期に660億円程度だった国内投資額は2018年に1360億円と倍増しており、同時期のベンチャーキャピタルの資金調達額も500億円未満から3300億円と大きくジャンプアップしている。

同時にこの10年で変化したのが協業のスタイルだ。

オープンイノベーションと呼ばれる手法は従来のシナジー投資とはまた異なり、単なる「足し算」ではなく、大企業のアセットと新興サイドのテクノロジーを掛け合わせ、新しい市場を生み出す試みとして度々話題になった。

この手法における牽引役がKDDIだ。2011年からスタートアップのインキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo」を開始し、2017年にはIoTプラットフォームのソラコムを買収。そのテクノロジーを大きく躍進させ、KDDIの「共創」を次のステージに押し上げることに成功した。

9月4日には経済産業省などが主催する「イノベーティブ大企業ランキング2020」の投票でも3年連続1位を獲得するなど、国内企業連携の橋渡し役としての存在感を積み上げている。そこで本稿では、同社で共創事業「KDDI ∞ Labo」などをリードするKDDI 経営戦略本部 ビジネスインキュベーション推進部の中馬和彦部長にそのノウハウと裏側を伺うことにした。(太字の質問は全て筆者、回答は中馬氏)

失敗のない共創なんてない

KDDI ∞ Laboはスタートアップだけでなく大企業との連携も深めた/画像:KDDIプレスリリースより

中馬氏はINFOBARなどの端末をはじめ、J:COM(ジュピターテレコム)ではMVNO事業を立ち上げるなど所謂「0→1」の新規事業立ち上げを経験してきた人物だ。私はまず、共創における「すべからず」から聞いてみることにした。

ーー協業検討には何かフォーマットがあるわけではないが、特にこれはしない方がよい、という「すべからず」があれば教えて欲しい

中馬:とあるカンファレンスでお題に「失敗しないオープンイノベーション」について語って欲しいというものがありました。私はそれを「失敗を恐れない」に書き換えて臨んだんですね。失敗しないメソッドは教えられません。私は数多くの失敗を重ねてきました。なのでその分の成功体験の数も多いわけです。大企業では一度の失敗をもって「ほらみたことか」と言われることが多くみられる。成功の果実を得るためには、最低でも10回程度のチャレンジが必要なのです。

ーー経営サイドとして上手い失敗のさせ方は

中馬:やはり権限移譲でしょうね。私たちは時間をかけてしつつあります。社内コンセンサスも最低限にとどめ如何に報告しなくて済むか?のスキームを構築することが重要です。多くの企業を見た結果、個が「立った」担当者がいる会社は総じて上手くいっているようです。恐らく個人が責任をもって発言できているということは、権限移譲が進んでいると捉えてよいと考えます。

ーースタートアップも打席に何回立てるかが重要とよく言われる。大企業視点での失敗の質の違いは

中馬:国内企業は優秀な方々が多いので、似たようなことは大体やり切っています。なので、新しいことをやる際、必ずカニバリズムが発生します。こういったケースでは全く関係ない飛び地で失敗してくるのがコツですね。

共創の推進と撤退

失敗が前提になるのであれば、考えなければならないのが「撤退基準」だ。だらだらと続けては打席が減るし、かといって見誤れば投資が無駄に終わる。絶妙なタイミングはどこにあるのか。

ーー失敗を重ねる際に判断が難しいのが成果や撤退をどう考えるかだ。どういう基準を設ければよいか

中馬:やはり1年ぐらいで判断するのが大事でしょうね。というのも今、2〜3年変わらないマーケットってないんですよ。「昨日の自分を否定しろ」と表現することがあるのですが、従来「悪」とされてきた朝令暮改は今や勝利のための重要な戦略です。要求を常に捉え、マーケットが変われば計画は常にアップデートする。

ーー共創事業の場合、社内外含めステークホルダーは多岐に渡る。チームをある方向に導くためには分かりやすい計画がないと難しいが

中馬:フェーズフェーズでKPIは変えるべきです。確かに結果がでないとプロジェクトは沈みます。企画は一本足打法ではなく、2発・3発と用意する。そこから熱量の高い場所を探すんです。だからマイルストーン的なものも実は置きたくないんです。

信頼できるパートナーが共創を加速させる

少なくとも株式を公開している企業にとって、成長は社会的な義務だ。一方、あるドメインで10年・20年の成長を単独で続けるのはやはり困難が伴う。投資や協業・共創の考え方はある意味で当たり前であり、だからこそのユニークさ、難しさがある。中馬氏は共創のきっかけに、ある一つの共通点があることを教えてくれた。

ーー失敗についてお聞きしてきたが、それも全て成功のための過程だ。これはという要諦はどこにある

中馬:共創相手に、この人だけは信頼できる、というパートナーを見出すこと。私もそのようなパートナーに出会えた時は、一気に距離を詰めて勝負に出るようにしています。

企業はそもそもどこも新規事業、成長へのチャレンジをやっているのです。周辺領域は当然調べているし、温度感はそれぞれあったとして、ドメインを跨いだ飛地への投資も手掛けています。つまり、再現性はほぼないに等しい。そういった中で、プロジェクトに対して予算や評価、リソースの配分をやるわけです。確かに難しいので、各方面から相談を受けることはありますね。

ーー確かに各企業の経営陣がしっかりとした経験者に投資をし、権限移譲した上で、その人たち同氏が繋がって波長が合えば、それは十分に新しい事業を生み出す可能性が見えてくる

中馬:かつてガラケーからスマホにパラダイムが変わった時は、インターネット上で新しいサービスが定義されるブルーオーシャンで、スタートアップの成長支援はシンプルでした。ただし、現在は違います。リアル社会がデジタル化されるトレンドのため、イニシアティブはリアルアセットを抱える大企業側です。要は大企業がアセットを開放することが成長には不可欠なのです。

ーー産業構造自体変えようとするには、より大きな舞台装置が必要になる

中馬:例えば「まちづくり」がテーマの場合、特定のゼネコンが特定のスタートアップを支援するだけでは十分ではなく、複数の大企業が業界を越えてアライアンスを組むことで、新事業でなく「新産業」と呼べるレベルまで昇華させることができるようになります。また複数の業界が混ざり合うことでこれまでになかった産業の隙間が生まれ、そこがスタートアップの新たなビジネスチャンスとなるわけです。

共創の課題

ということで中馬氏に話を伺いながら、新事業・新産業創造における共創のあり方や落とし穴について辿ってみた。複数の企業が手を取り合って大きなステージを作り、その上でスタートアップが新たなテクノロジーやアイデアで生まれたスペースを埋めることができれば理想的だ。実際、KDDIが取り組む事業共創プログラム「∞の翼」はその思想でプロジェクトが組まれている。

一方、国内で毎月のようにスタートアップとの協業は報道されるも、大きなインパクトを残すものは数少ない。この課題について中馬氏はプレーヤーの少なさを指摘をしていた。実は先月に開始された「MUGENLABO支援プログラム 2020」はその課題解決を考える過程から生まれている。

前述した理屈で言えば、このプログラムは大企業とスタートアップが対になったケースで、穿った見方をすればやや受託のマッチングのように見えなくもない。しかし、実際はこのような機会を提供することで、熱量の高い企業や人が可視化されれば、全体としてはプラスだ。

この10年で事業共創に関わる環境は大きく変化した。何もなかった時期と異なり、ノウハウや失敗の情報は手に入りやすくなっている。つまり、成功の確率は上がっている、ということだ。KDDIや連携する企業群が向こう5年でどのような成果を出してくるのか、国内のオープンイノベーション環境は次のステージに入った印象がある。