Appleが描く巨大なモザイク画ーーその一片としてAR/VRのSpacesを買収か

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Appleの買収確認書には次のように書かれている。

Appleは時々、小規模なテクノロジー企業を買収することがあります。
そして、通常は私たちの目的や計画について議論することはありません。

Appleがこの言葉を使うのを何度も目にしてきた。顧客基盤を持たない企業を買収する時には特にだ。今や月に1〜2度は見られるだろうか。だが大抵は誰かが偶然気づいたり、ある企業のサイトに掲載された「新しい方向へ向かっている」という曖昧な投稿に関する情報をひそかに入手したりするまでは分からない。

8月24日、AppleはVRスタートアップのSpacesに対し漠然とした確認を行った。VentureBeatではこれまでにSpacesの2016年のローンチ2017年の資金調達2018年のロケーションベースVRゲームセンターの開設今年初め、パンデミックの影響でZoom開催となったVR会議について取り上げてきた。中でも最も注目に値するサービスは、映画「ターミネーター4(Terminator: Salvation)」を舞台とした4人1組用VR体験だ。これはカリフォルニア州オレンジ郡を皮切りに、日本では渋谷のセガで公開された。しかしAppleの興味を引いたのは違うものだったようだ。

Spacesが行った最新のテックショーは、既存のVRアバター技術を少し進化させ、アニメの教師が唇や身体の動きまでシンクロさせてホワイトボードで授業を行うというものだ。AppleのMemojiが3Dになり、iPadやiPhoneでZoomを通してバーチャルな授業を行えると考えるとイメージしやすいだろう。Spacesは基本的にこのソリューションをAppleに買収される以前から提供しており、プラットフォームを限定せず、ほぼ全ての主要なVRヘッドセットや動画共有アプリと互換性を持たせていた。

AppleによるVR/AR企業の買収が多すぎて数えられない、とまでは言わないが、彼らが描く絵はあまり焦点が絞られていないようだ。Appleが買収する小規模企業はすべて、巨大なモザイク画の中の1片のタイルにすぎないように見える。独自の色を消して絵の一部になってしまい、多くの人々から存在を気づかれない。

2年前にAppleはARグラスを開発していたかに見えたが、今ではディスプレイのような重要なコンポーネントも含むAR/VRハードウェアを開発している。Appleはハード面でARに野望を持っているように見えて実はソフトウェア特許を申請したり、多くのソフトウェア企業、さらにはサービス企業までも買収したりしている。

Appleの強みの中核となっているものがハードウェア、ソフトウェア、サービスを統合する能力であることを知っていれば、これは驚くべきことではない。だがこのことは、Appleの複合現実に対する関心が市場へAR/VRグラスを投入して動向を見守るにとどまらないことを意味する。

Appleは、おそらくサードパーティのアプリを備えた頑強な「Reality App Store」ができあがる前に、ハードウェアを第1〜第2世代で成功させ得るようなAR/VRアプリを構築しようとしている。従来のiPhoneアプリであるMail、Messages、Safariと同様に、SpacesがAppleの「Keynote VR」の鍵となるかもしれないーーさもなければ「ターミネーター」開発で学んだ教訓が複数の人々によるコラボレーション体験の開発に役立つかもしれない。

Appleのアプローチと、従来のOculusNrealなどのいくつかのコンシューマー向けVR/AR企業とを比較してみよう。どちらもハードウェアを発表し、サードパーティが独自の技術でクールなゲームや便利なアプリを制作することを大いに認めている。さらに両社(および他のXRハードウェアメーカー)ともプラットフォームを進化させるために魅力的なアプリを開発する必要があることを認識している。

Oculusの現在および今後のビッグタイトルの一部は、Facebookが支援開発もしている。Nrealは同様にモバイルオペレーターと協力して、革新的なARアプリを作成している。ソフトウェアとサービスの成熟によってハードウェアがローンチされるのを待たずに(ありがたいことに)アーリーアダプターに複合現実の未来を味見する機会を与えた。

Apple製品への道のりは歩み遅く奇妙なリーク矛盾した報道および判断ミスによって比較的遠いものとなっていた。こうした動きの一つひとつは、Appleの価値を明らかに高めるものではなかった。だがトータルで見れば、iPhone級の大規模なローンチか、成長を続けるApple Watchなどの小型デバイスの開発となって現れるかのどちらかだろう。

2022年と言われているリリースは日一日と近づいている。だがこうした買収が積み重なっていけば、ローンチ前の期待値は跳ね上がる。iPhoneやApple Watchとともに歩んできたAppleの歴史から考えて、完成したプロダクトが大きなインパクトを与えるかどうかではなく、結果的に世界がどれほど急速に変化するかに注目したい。

【via VentureBeat】 @VentureBeat

【原文】

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