新・企業共創時代:変化の時代、その理由 – KDDI 中馬和彦 Vol.1

中馬和彦氏・KDDI 経営戦略本部 ビジネスインキュベーション推進部長/KDDI ∞ Labo長

本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載

5年後や10年後、日本における大きな経済のターニングポイントがこの「2020年にあった」と振り返る人が多くなる、そんな予感がしています。国内におけるGDPの頭打ち感や少子化、グローバル環境におけるGAFA・BATなどテック巨人の台頭や米中間摩擦。そして何より、向こう数年は抜け出せそうにないと言われる感染症拡大問題。不透明感が強まる中にあって企業や行政が熱視線を送る方法、それが「共創(オープンイノベーション)」です。

私たちKDDIでは「KDDI ∞ Labo」として、2011年にインキュベーションプログラムを発足し、その後、約10年近くに渡りこの共創・オープンイノベーションの取り組みを国内に合った形に最適化させてきました。取り組みは現在、50近くの企業ネットワークを中心とする、スタートアップたちと様々なトライアルアンドエラーを繰り広げるステージに発展しています。

大きなゴールーー。それは新たな産業構造をこれら企業と一緒になって創造することです。一方、これらの手法には正解がなく、情報も散逸しているという課題もありました。今、ノウハウの共有が必要とされているのです。

そこでこの連載では、国内で巻き起こる共創のキーとなる人物にスポットを当て、彼らがどのような視点で新たな構造を生み出そうとしているのか、その理由、チャレンジ、そして理念を紐解くこととしました。

初回となる本稿は現在、KDDIにてこの共創の仕組みを牽引する人物からのスタートとさせていただきます。(文中の質問者はMUGENLABO Magazine編集部、回答はKDDIビジネスインキュベーション推進部長 中馬和彦、文中敬称略)

変化の時代、その理由

なぜ日本企業にこれまでと異なる共創の考え方が必要になったのか、そのあたりからはじめさせてください

中馬:産業のイノベーションについて最近よく講演でもお話しているんですけど、蒸気機関の登場で第一次産業革命が起きて繊維産業の機械化が進み、それから電気が生まれ、自動化からその次にインターネットが登場してきた。これまで起きていることを振り返るとすべて「足し算の歴史」だと思ってるんですね。つまり繊維産業の後に蒸気機関や電気が出てきたといっても産業そのものはディスラプトされていない。インターネットが登場した今もまだ繊維産業はあるし、製造業だって自動車産業だって未だに健在です。

ただ、次に来ると言われている第四次、第五次の革命って、もう何か新しいものは生まれないんじゃないのかなと。つまりインターネットが第一次産業とか二次産業などの模様を変える、もしくは混ざる。農業と工業が混ざるとか、水産業がオートメーション化されるとかそういう社会になるんじゃないかと思っています。

産業革命のそれぞれの要素が「ガラガラポン」されるタイミング

中馬:はい、今までオープンイノベーションや新規事業っていうと、僕らは別に一次産業だし関係ないという人がいらっしゃいました。確かにインターネットまでは関係なかったかもしれません。別にECやらなくても生きていけたから。だけど今回は違ってるんです。天候や気候変動も激しいし、AIやドローンを活用して自動化を進めなければ一次産業も厳しくなっていく。そういったことも考えてテクノロジーに取り組まざるを得ないようになってしまった。

感染症拡大も影響した、いわゆるデジタルトランスフォーメーション(DX)へのシフトですね

中馬:すべての産業が一様に影響を大きく受ける、これが世の中で言われてるDXの本質だと思うわけです。一見すると(KDDI ∞ Laboのような活動は)通信会社がやってるインターネットっぽい話だし、製造業でもエレクトロニクスぐらいまでで素材とかやっている人たちは関係ないよねとか、一次産業は関係ないよねっていうことではもうないんです。この「関係ないと思っている人」こそが次の主役だということ、ここに大きな変化があるんです。

新しいプラットフォーマーの時代と役割

10年前、テクノロジーにおける大きなパラダイムシフトは「モバイル・インターネット」によってもたらされました。特に2007年に生まれたiPhoneはエポックメイキングなデバイスとして世界を席巻し、続くAndroidとの激しい鍔迫り合いによって私たちの生活は一変します。一方、2020年に発生した感染症拡大は、強制的に「ソーシャルディスタンス」を発生させ、移動を制限し、空間における私たちの行動変革を促すことになりました。

—-イノベーションの母とも呼ぶべき「課題」が全産業で一気に噴出したのです。巻き起こる数々の課題、これは言い換えれば事業のチャンスです。会話は、複雑な課題を解決するための共創エコシステムづくりに進みます。

イノベーションのプロセスが、前回のモバイルインターネット、スマートフォンシフトの時と比べて大きく変化しています。あの時はiPhoneが強かった

中馬:スタープロダクトで変化を起こせない時代になったことの裏返しだと思います。確かに宇宙とかはちょっと話が違うかもしれません。例えばイーロン・マスク氏のようなカリスマが一人で大きく変えるのかもしれませんが、あくまでホワイトスペースの話です。多くの場合、ここまで成熟した社会においては、宗教を含めて、また地政学的な問題も起きている中で、誰か一人のカリスマによって世界が平和になるとかはないと思うんですね。

この複雑な社会課題を複数の知恵やリソースで解決するのがプラットフォームの役割ですよね。エコシステムをどう回すか、その思想を問われています

中馬:最近のプラットフォーマー理論で集約されているのって、一言でいうと「顧客接点」だと思うんです。ユーザーベースがあるところに、知とアイデアと色んなものが集まるという構造なので、たまたま僕らが近いことをやれているのは、かなりのユーザー規模、四千万人というユーザーベースを抱えてることはまず一番大きいと思います。

例えば何かやるにあたってスタートアップを応援するにしても、一番手っ取り早いのが送客です。お客さんを紹介するというのは営業の基本ですし、特にエンタープライズだと数に限りがあるのでテレアポイントで何とかなると思うんですけど、個人はそうはいかない。やっぱりお客様を持ってるところがどこまでアクセラレートできるかがすごく大きい。

つまり、プラットフォーマーの要素の多くはそういったお客様・顧客ベースだと思うんです。その上でたまたま僕らは通信ということを媒介しながら、決済も持っています。つまり営業の要素と一緒で、お客さんにモノやサービスを提供して代金を回収する。

これまでのアプリ経済圏であれば、例えばモバイル・インターネットの中でサービスを提供し課金・回収できればよかったですが、現在、巻き起こっている、これから発生する課題は「リアル世界」なんですよね

中馬:そうなんです。例えばモノの場合だとデリバリーがどうしても必要になるので、インターネット以降、リアルと混じり始めた「ラストワンマイル」を僕らは実は持ってないっていう。

プラットフォーマーの連携が必要になりますね

中馬:全産業がインターネットで溶け込み合って、また新しいものが生まれる時代になると、プラットフォーマー同士の掛け算も必要になります。ネットは強いけどリアルの橋を持ってない人たち、逆にデリバリー事業者の方々はリアルはあっても必ずしもオンラインでの顧客ベースが不足していたり、といったケースもあるわけです。

例えば「宅配の不在票」みたいな問題が発生しても、モバイルインターネットとデリバリーのプラットフォームが有機的に連携していれば、それらを解決するソリューションが一気に垂直立ち上げできる、そんなイメージが湧きます。一方、そもそもプラットフォームとは欲張りなものじゃないですか。独占と連携は矛盾する部分もあるのでは

中馬:タイミングなのかなと。例えば数千万人までお客さんが集まるまでは囲い込まず、連携なりオープンに広げる。

恐らく、それまでに囲い込むとただのサービスになると思うんですよ。百万人のユーザーベースで、MAUが十万人とか二十万人とかのサービスで、すごくヒットしたサービスですね、で終わってしまう。一方、LINEのようにいつの間にか日本人の過半数の人がアプリ落としているってことになると、プラットフォームになってきますよね。

LINEも気がついたらスーパーアプリとして自分たちの経済圏で囲い込みのビジネスを展開しています。この規模になれば、確かに次の市場は一つ上の視点で作らないと満足できるものにならない

中馬:ここに関してはマネタイズ云々よりも普及を優先したらこうなる訳です。プラットフォームって言われるところまで認知されるまでは、やっぱり何か胆力が必要なんですよね。でもそこから次に行こう、という風になった時に初めて手を取り合えるようになるのではないでしょうか。(次回につづく)