ジェネシア・ベンチャーズが80億円ファンドをクローズ、シード注力で産業のデジタル化を推進

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ニュースサマリ:独立系ベンチャーキャピタルのジェネシア・ベンチャーズは26日、 2018年12月に公表していた 2号ファンドの最終募集が完了したことを伝えている。集まった資金は総額80億円で、前回公表時から新たに参加、公表となったLP投資家は藍澤證券、オリエンタルランド・イノベーションズ、日本ユニシス(LP参加は同社が運営するCVCF2投資事業有限責任組合)、キヤノンマーケティングジャパン、グリー、大日本印刷、日本政策投資銀行、博報堂DYベンチャーズ(LP参加は同社が運営するHAKUHODO DY FUTURE DESIGN FUND投資事業有限責任組合)、みずほ証券プリンシパルインベストメントとなっている。

1号ファンドは2017年12月に総額40億円を集めており、リード投資家として日本・東南アジア地域(主にASEAN主要国)のシード・アーリーステージのスタートアップ47社(内、海外12社)に投資実行しており、2号ファンドはこれまでに国内29社、海外11社への投資を完了している。1号に引き続き投資ポリシーとして変わらずシード、アーリーステージのテクノロジースタートアップに対し、リード投資家として参加する。

投資領域としてはデジタル化で産業構造を変化させるデジタル・トランスフォーメーションを狙う領域や、個人のエンパワメント、OMOやC2Cなど経済のサプライチェーン構造に関わる領域、そしてメディア・エンターテインメントとなっている。

同社の説明によれば、プレシリーズAあたりまでのラウンドに参加し、1社あたり追加を含めた最大で5億円までの投資枠を設定している。また、今回、LP投資家として非公開ながら個人投資家もファンドに出資参加しており、こういった有力なエンジェル投資家との連携でシード期からのバトンタッチをスムーズにする考えだそうだ。

話題のポイント:ジェネシアが 2号ファンドの募集完了を伝えています。 2号ファンド自体は一昨年の秋に公表されているもので、予定通りの着地になったようです。ジェネシアと言えば、産業構造自体のデジタル化による変革、いわゆる「DX」を志向する起業家支援が特徴的で、建設業人材の助太刀や多くの企業で採用されている人事評価のHR Brain、小売流通のサプライチェーン改善CO-NECT、オフィスや働き方を改革するACALLなどが主な出資先としてあります。どれも業務効率改善から一歩先に進んだ各領域のビジネスモデルに関わるサービスを展開しており、今後、こういった産業領域で新たな事業を求める企業との協業や買収などの加速が期待されています。

いわゆるオープンイノベーション文脈なのですが、ここについてジェネシアではLPとなった事業会社と支援先をマッチングさせるような機会提供も定期的に実施しているというお話でした。ちなみにジェネシアの代表を務める田島聡一さんはJVCAのオープンイノベーション委員会で大企業連携の部門も担当しており、自身の運営するファンドだけでなくもう少し広い視点で、国内のオープンイノベーションを推進する役割も担っています。

ジェネシアが支援するLogislyは独特なB2B SaaSモデルを展開している/画像:同社ウェブサイト

もう一つ、領域の話で言うとASEANでのシード投資にも力を入れています。主にこの部分を担うのがもう一人のジェネラル・パートナー鈴木隆宏氏で、東南アジア・ローカルで発生しているある状況について教えてくれました。

「東南アジアだと(1)人件費が安い(2)決済の未発達などの理由からSaaSの月額サブスクリプションでのMRR/ARRのビジネスではないモデルが出てきつつあります。例えば物流の支援先Logislyの事例では、「業務効率化」支援的な側面であるトラックマネジメントシステムといった「SaaS機能」は無償で顧客へ提供し、彼らの業務フローに深く入り込んでいき、その先にある物流ニーズに合わせてトラックをマッチングするところでトランザクション手数料を取る「取引効率化」の2軸で事業を作り込んでいくスタートアップが増えてきています。また業務効率化支援的な側面を持ったSaaS機能を無償提供(もしくはかなり安価で提供)することで、顧客の面を取りやすいと言うこともあります」(鈴木氏)。

東南アジアでは国内で隆盛しているSaaSモデルだと単価が安くなりすぎてビジネスにならず、どうしてもワンショットのモデルに偏るそうです。結果、フリーミアム的なアプローチが増加しているそうです。このように、日本国内とはまた違った事情で新たなモデルが生まれるケースには興味が湧きました。

胆力を試されるシードVC

MOSH創業メンバー・画像提供:MOSH

ジェネシアのもう一つの顔、それがシードVCです。数あるファンドの中でもスタートアップのシードを担う面々はEast  VenturesやANRI、STRIVE、インキュベイトファンドなどがあり、ジェネシアもそこにラインナップされています。シード期の起業家は判断が非常に難しく、例えば海外ではこういった課題を解決するため、2010年代にはY  Combinatorのような仕組み化が進みました。いわゆる数の論理です。

一方国内では、どうしても市場の特性から起業家の数が限られる傾向にあり、結果、一人ひとりの職人的な見極めと、どこまで支援し続けるかという判断力が常に試されることになります。

個人をエンパワメントするMOSHもそういったケースの1社です。先ごろ、BASEをリードとする3億円の増資に成功しましたが、そこに至るまではジェネシアを中心に数回に渡って支援を続けたそうです。

創業者の籔和弥さんは元々Rettyに在籍していたこともあり、前職で出資者として面識もあった田島さんたちが創業を支援することになります。しかしサービスECというのは差別化が難しく、2017年7月の創業からしばらくは我慢の日々が続きます。田島さんにとって見極めのポイントは「こだわり」だったそうです。MOSHという個人が活躍する社会を支えるプラットフォームの世界観を作り込み、そこにこだわっていつかはこの価値に気がついてくれる日がやってくると信じていたそうです。

もちろん盲目的にではなく、ロジックとしても社会のデジタル化が進むこと、産業構造の変革をフォーマットとして分析してそこのシフトが発生すると予想しており、結果、機能としてMOSHは決済ができることを優先させていたことも今回の波を逃さなかった要因とお話されていました。

なかなかこの辺りの価値観を伝えるのが大変だったようですが、こういった各社で評価が分かれる点もシードVCの興味深い点です。

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